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よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第39話 首無し騎士の将軍

左腕を犠牲にしながらも、あん子の黒炎弾を受け止めたデュラハンを見つめるタロウ。

「メデ美さん。デュラハンというのは鎧の魔物だけあって、もの凄く頑丈なんだね」

タロウの質問にメデ美はゆっくりと顔を横に振る。

「いえ、タロウ様。普通のデュラハンであれば、先程のあん子の一撃で木っ端微塵でありまする。つまり、あやつはデュラハンではありませぬぞ」

メデ美からの予想外の言葉にタロウは少しだけ驚いた。

「デュラハンでは無い?」

「どういう訳か見た目こそデュラハンそのものですが、あやつはたぶんデュラハンジェネラル。デュラハン族を束ねていた「王族種(おうぞくしゅ)」かと思われまする」

「……王族種? そんなのがいるのか。それならあん子の黒炎弾を凌いだのも理解できるな。ただ、魔王ギリシュは「デュラハン」と呼んでいたから、どうやら気づいていないみたいだけれども……」

タロウはデュラハンの王族種であろうとも、あん子の一撃で左腕を奪っていることから、あと数発も叩き込めば勝てると確信しているので特に驚くことはなかった。
それよりも、この一連の自分の体たらくの方が問題だった。

「(……やれやれ、一撃必殺にするか、それとも今後の為に集団戦の練習をしようかと、どっちつかずにふわふわしていたら、見事にろくな事にならなかったな……)」

タロウは少しだけ肩を落として自己反省する。

「(油断しているつもりは無かったんだけどもなー、まー、結果からすればあったわけだけども。はぁ、今回の事は、きちんと教訓にしよう……。しかし、一撃必殺が出来ない場合を想定して、対集団戦の練習をしようかと思ったんだけど、別に相手に合わせる必要は無いわけだよな。俺達は俺達の強みを生かして遠慮なく全力をぶつけるべきで、それでダメだった場合に他の手段を考えるべきだったな)」

タロウは側にいるプス子とメデ美をちらりと見る。

「(ただ、俺の攻撃系チート能力への対策を講じられた場合には、仲間が殺されるのを呆然と見ているしかなくなるから、それだけは絶対にお断りだ。その為にも魔物使いとして魔物奴隷達を上手に扱えるようになっておくべきなのもまた間違い無い……)」

タロウは腰に下げている平凡な短剣を右手で引き抜く。

「(あと、これも修正だな。短剣は小回りが利いて素人の俺には扱いやすいが、もう一本、普通の剣も装備した方が良さそうだ。せめてさっきのプス子の様に、仲間への一撃を防げるような得物を持っておくべきだと痛感した。この短剣だけであの一撃を受け止め続けるのは、チート能力があってもド素人の俺には少し難しそうだからな)」

タロウは右手に握りしめた短剣をデュラハンに差し向けると、その動きに連動して、タロウの右肩に乗っているあん子も頭をデュラハンに向ける。

「(でも、今日の勉強はもう十分だ。さっさと終わらせよう。俺達の強みを活かしてこのままあん子砲を撃ちまくり、メデ美の魔法とプス子の弓矢で援護させながら、撃ち漏らしたのは俺のチート能力で始末していこう……)」

今度は逡巡では無く、攻撃手順を明確に決めるタロウ。

タロウは対集団に対する一撃必殺の戦術を決断するのだが、ふと、タロウの頭の中に声が聞こえてきた。

「《……む、無念です。今の一撃は防げましたが、あれを更に撃ち込まれれば、この私も塵と消え果てるでしょう。あの横暴な人間の魔物使いでは、ここにいる彼等には勝てない。となれば、あの横暴な魔物使いが死ぬ時、私もまた死ぬ……。もはや、私は死を免れない。しかし、まさかアンデッドドラゴンを使役する人間がいるとは……。人間とは実に恐ろしき生物なり。だからこそ私達も敗北して滅びるわけだ……。ああ、だが、無念。仲間の恨みを晴らすことなく死する運命とは……。生き恥を晒して生き延びた挙げ句、ここで虚しく犬死する私を許せ……同胞達よ……》」

悲哀に満ちた悲しい「女性」の声がタロウの頭に響いた。

「メデ美さん……。頭の中で女性っぽい声が、ハッキリと聞こえるんだけども?……」

「あれはデュラハンの声かと。あやつらは思念体ゆえに声を発しません。いわゆる念話という形で、相手の心に直接、声を投げかけてきまする。こちらの声は聞こえるはずなので、何か問いかけたいのであれば、普通に声をかければ大丈夫かと思いまする」

「……そうなんだ。鎧なのに対話ができるのか。というか、あの鎧はメスだったのかい! ドラゴンあん子と一緒であの見た目じゃ分からねーよ……。しかし、今の言葉の内容だと、魔王ギリシュを殺してしまうと、このデュラハンも死ぬとか言ってるぞ?」

「……もしや、何かしらの魔法をかけられておるのやもしれませぬな」

「(……あれ? ということは俺の体たらくで、魔王ギリシュを瞬殺できなくてむしろ良かったということなのか? もし、プス子の弓矢が直撃していたり、俺のチートなりで魔王ギリシュを瞬殺していたら、このデュラハンも共に消滅していたのか……これは何か天の采配というか縁を感じるな。中途半端な作戦でメデ美を危険にさらして、もうなんか自己反省でへこんでいたけれど、それもまた意味があったわけなのか……。「塞翁(さいおう)が馬」とは本当に良く言ったものだな……。そういえば、チートの無料サービスセットの中に「運(小)」ってのがあったけど、これが地味に効いたのかも)」

タロウはチート能力セットを覆面サラリーマンに提案された際に、心許ない部分を補うために無料サービスセットとして、何点か小物なチート能力を貰っていたのである。

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・運(小)
通常の運値に更に小ボーナス。
会心の一撃が出やすくなったり、相手の攻撃を避けたりできます。
もちろん何か良いこともあるかも。
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タロウはニヤリと笑みを浮かべながらデュラハンを見る。

「(俺がこの異世界に来られたのも不可思議な縁のおかげだ。プス子、メデ美、あん子を仲間に出来たのだって、結局は全部、不可思議な縁だ。何か少しでもずれていれば皆、殺されていたんだからな。つまり、今更この不可思議な天の采配を否定したり逆らうなんてのは意味がない。となれば、よし、乗ってみるか!)」

タロウはメデ美とプス子に待機を命じると、タロウは肩から小型ドラゴンあん子を下ろし、短剣も鞘に収めると、デュラハンに歩み寄りながら声をかける。

「俺の声が聞こえるかデュラハン! お前と話がしたい!」

「《――え!? 人間の言葉が理解できる!?》」

仁王立ちのデュラハンが、タロウの言葉が理解できることに驚き戸惑う声がタロウの脳内に響く。

タロウはチート能力を所持しているので臆することなくデュラハンの側まで寄ると、自分よりも頭一つ分大きいデュラハンを見上げるが、デュラハンには頭部が無いので、首の根本らへんを見ながら声をかける。

「俺は魔物の言葉を使うことができる。俺がサイクロプスやピンクメデューサ、そしてアンデッドドラゴンを使役できているのは、この力のおかげだ。つまり、力を用いて恐怖による使役ではなく、言葉を用いて理解や納得による使役をするのが俺のやり方だ」

「《理解や納得……》」

「今は戦闘中だから単刀直入に聞く。あの金髪の魔物使いに何かしらの枷を付けられているのならば、それを俺が取り払ってやる。その代わり、お前の意志を持って俺の魔物奴隷として仕えるつもりはないか?」

「《……私にとっては仕える魔物使いが変わるだけではないか。人間に使役されるという汚辱が続くことに何の意味がある》」

「なら、ここで虚しく死ぬか? 俺はその死の呪縛から解き放ってやると言っているんだ。魔物奴隷という立場は変わらないだろうが、あん子の一撃を凌いだその力、俺は尊敬を持って待遇しようと考えている」
   
「《私はいずれ人間達に復讐しようと決意する者。そんな私でも良いのか? いずれは人間に仇なす魔物だぞ?》」

「人を無差別攻撃するなら要らないな。俺の魔物奴隷達も人間は嫌いだが、俺の命令が無ければ人間に危害は加えない。それはお前にも厳守してもらう。それが出来ないのならば、この話は無しだ」

「《…………》」

デュラハンはタロウの厳然な言葉に沈黙してしまう。

タロウはため息を吐きつつ、瞳を閉じて小さく頷いてから言葉を続けた。

「……では、問おう。お前の復讐とはどういうものだ」

「《……私達デュラハン一族は、人間との決戦において敗北し滅亡した。死んでいった同胞達の仇を取りたい》」

「では、更に問う。お前はどうやって、その復讐とやらを果たすつもりだ」

「《それは……もはや……現実的には不可能であろう。私の大事な同胞はもう既に存在しないのだ。だが、それでも私は生きている限り、同胞の仇を打つべく、存在しない希望を抱いて突き進みたい……》」

「不可能だと知っていても突き進みたいか……。分かった。ならば、こちらから妥協案を一つ出そう。もし、お前が仇を取れる時が来たならば、その時は魔物奴隷から解放してやる。その時は好きに行動すればいい。ただし、それまでは俺の魔物奴隷として命令に従い、俺の剣として盾として働いて欲しい」

「《……解放? そんな話を信じられるわけが無い。どうせお前も私に何らかの枷をはめるつもりだろう。そして、枷をはめたが最後、そんな約束は無かった事にするはずだ!》」

「そんなことはしないっつーの。というか、枷は何もつけないから、逃げだそうと思えばいつでも逃げ出せるぞ? でも、はっきりと言っておくが、俺の仲間に入っておく方が生存確率は上がると思うぞ。1体で逃げ出した所で、魔物殺し達や、その他の魔物に狙われていずれは殺されるのがオチだからな。俺の仲間になっておけば、お前のみならず仲間に手を出すような輩がいれば全て排除する。それが例え人間の国家でもだ。現時点でもサイクロプスとピンクメデューサにアンデッドドラゴン。戦力として不足はないだろ?」

「《……いや、正直な所、その面子でも人間の国家には勝てないだろう。だが……1人でいるよりも確かに生存確率は高そうだ……》」

「勝てなくともやりようはあるさ」

タロウは少し拗ねた感じで唇を尖らせながら強がる。

「《……ふふふ。分かった。そなたの言葉を信じよう。そなたが約束を違えない限り、私もまた誓いを全うしよう。ならば、まずは私の枷を外してはくれまいか?》」

デュラハンはタロウの前に片膝をついて跪くと、首の穴より空っぽの胴体の中を見せてくる。

「《私の胴体の中の、背中部分に貼られている札が見えるか?》」

タロウがデュラハンの首の穴から空っぽの胴体を覗き見ると、デュラハンの言葉通り、背中の辺りに一枚の札が貼ってあった。

「《それには強力な聖魔法が込められており、それが発動されて私の内部で炸裂すれば、私は容易く塵と化してしまうのだ。なにせ私達デュラハン族は不死属性だからな。苦手な聖魔法を内部で炸裂されてはどうしようもない。それと、あの横暴な魔物使いが、この札の効果の魔物実験を私に見せつけていたのだが、どうやらこの札の権限を持った行使者の命とも連動しているようで、その行使者が死んだ場合、自動的にこの札が起動して聖魔法が炸裂するという仕組みらしい。そなたは、あの横暴な魔物使いと敵対しているようだが、あいつを殺してしまうと私もまた死んでしまうようなのだ》」

「なるほど、それが枷か」

タロウはデュラハンの説明を聞いて、改めて先程の自分の体たらくに安堵する。

「(いつもの様にチートの力などで問答無用に魔王ギリシュを瞬殺していたら、このデュラハンも死んでいたんだな……。とにかく先手必勝、全力攻撃が大事だと思ったけれど、多少は様子見というのも大事にした方が良いみたいだな……いやはや難しい)」

タロウはデュラハンに問いかける。

「で、この札を手で外しても良いのか?」

「《実は、勝手に外しても聖魔法が起動するらしく、私にはどうすることも出来ないのだ》」

「なるほど」

タロウはメデ美を呼び寄せてから、札を解除できるか聞いてみる。

「……すみませぬタロウ様。我は聖魔法には疎く、この仕掛けは解除できませぬ」

メデ美は少し離れた場所で形成している、火トカゲの火炎放射を防ぐ土壁を維持しつつ、タロウの質問に申し訳なさそうに応えてくれる。

「(……ならば、あれしかないか)」

タロウは「ふむ」と少しだけ考えてから、覚悟を決めると息を吸い込んでから止めてチート能力を発動させる。

「――躍動無き世界(ストップモーション)!!」

タロウは、息を止めている間だけ時間が止まるチート能力を発動させる。

異世界の全てが静寂に包まれている中、タロウは恐る恐るデュラハンの中に貼られている聖魔法の札の端を剥がしていく。

1cmほど剥がした所で、何も起こらないことを確認したタロウは、口を真一文字に結んだまま一気に札を取り外した。
  
「(――よし! 難しいことは分からないが、やはり、時間が止まっていれば札自身も剥がされたという事を認識できないんだろうな。あとは、これを離れた所に捨ててと)」

タロウはデュラハンから離れた所の地面に聖魔法が込められた札を置いてから、デュラハンの元に戻ると、チート能力を解除するべく呼吸を再開する。

タロウが呼吸を再開した瞬間、聖魔法の札が眩い光と音を放って爆発した。

「――うわ!」

タロウは夜の薄暗い中での強烈な閃光に目を逸らす。

「《――な、なんと!? 外してくれたのですか!? 一体どうやって……》」

口調からデュラハンは唖然としているようだった。

「それはもちろん秘密だ。さて、これで俺の約束は一つ果たしたぞ?」

「《……確かに。では、私も騎士の名に懸けて誓いを果たしましょうぞ》」

デュラハンは片膝をついて跪いたまま、右手に握っている名剣フランベルジュを差し出してくる。

タロウはそれを受け取ると、そのままデュラハンに与えるように渡し返した。

「これから宜しく頼む」

タロウから賜ったという感じで名剣フランベルジュを受け取ったデュラハンは、恭しくタロウに返答する。

「《私の騎士としての誓い通り、貴方を主君と崇めましょう。これよりは主君の剣として万難を排し、これよりは主君の盾として万難を防いでみせましょう!》」

デュラハンがゆっくりとその場で立ち上がる。

「……そうだ。お前はデュラハンではなく、デュラハンジェネラルなんだって? あと、性別はメスなの?」

「《え?……ああ、その。メスではありますが、デュラハンジェネラルではありません……。デュ……デュラハンです。普通のデュラハンであります!》」

タロウがデュラハンに質問すると、デュラハンは何か焦っているのか、少しだけ言葉を詰まらせながら応える。

「(ん? なんだ? デュラハンジェネラルとは言えない理由があるのか? あ、そうか……。もしかして王族種ゆえの誇りがあるのかもな……。ま、今は別に深くは聞かないでおこう……)」

タロウは特に突っ込まずに「ふーん」と適当に相づちを打つ。

「名前はあるのか?」

「《は、はい。名はロンベルニアヌーロックハルバリンと申します》」

「そうか。では今日から「デュラ子」な。俺の名前はタロウ様と呼ぶように」

いつも通りに覚えやすい安直な名前を付けるタロウ。

「《――ははっ! タロウ様の仰せのままに! 以後はタロウ様に賜りし名を持って、武勲を捧げましょう!》」
  
デュラハンは剣を携えた右手を胸前にかざしながらタロウに敬意を表す。

「《ではタロウ様、私は何を致しましょうか?》」

「あー……うん。とりあえず、最近の恨みを晴らして来たら?」

「《宜しいのですか?》」

「どうぞどうぞ」

「《――では、遠慮無く!》」

デュラハンはタロウの前で軽やかに反転すると、魔王ギリシュの居た方角に向かって右腕一本で突撃していく。

デュラ子が火トカゲの火炎放射の中に飛び込んで十数秒後、魔王ギリシュの辺りを切り裂く絶叫が響き渡った。

「(炎から飛び出してくるデュラハンをやり返してやったぜ!!)」

タロウは「ナハハハ!!」と勝利の雄叫びならぬ大笑いを上げるのだった。
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