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よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第37話 約束の報酬

レーデの酒場に戻ると、酒場の前でレーデがタロウの帰りを待っていた。
酒場の常連客の誰かがタロウの凱旋をレーデに教えたのだろう。

「ただいまーレーデさん!」

プス子に引かせている荷車の上から、いつも通りに爽やかに声をかけるタロウ。

しかし、レーデはタロウの後ろについて歩く、あからさまに禍々しい漆黒の竜を見上げながら目を見開いて呆然としている。

「タ……タロウさん……。アンデッドドラゴンを捕獲して、使役に成功したって聞いたんだけれど……」

アンデッドドラゴンに視線を釘付けにしながらレーデは呟く。

周りにいる野次馬達はアンデッドドラゴンが怖いのか、遠巻きに見つめていた。

「見ての通りですよ。無事に捕獲と使役に成功しました」

タロウは荷車から降りるとレーデの側に歩いていく。

「で、でも何やら少し体格が小さいわね……」

レーデの鋭い言葉にタロウは微笑みながら、レーデの耳元に口を寄せると小声で話しかける。

「(どうも魔力消費の関係で、消費量を抑制する為に小さくさせてます。あと、このアンデッドドラゴンは特殊魔法を習得しているようで、実は人間化する事ができます)」

「(――え!? 人間化!?)」

タロウの言葉を聞いたレーデは、真横にあるタロウの顔に振り向きながら驚く。

「(まー、見た目だけですけどもね。人間の言葉は話せません。ちなみに、ほら先日、俺が引き取った女の子がいたでしょ。あれ、実は人間じゃなくて、このアンデッドドラゴンが人間化した姿なんです)」

「――ええええぇぇぇっ!!??」

レーデが素っ頓狂な声を上げるので、タロウは自分の口元に人差し指を立てて見せる。

すると、レーデは慌てて自分の口に手を添えて、何とか驚きを噛みしめてから、恐る恐る小声で話しかけてくる。

「(ご、ごめんなさいタロウさん。あまりの驚きで大声がでちゃった)」

「(まー、俺も驚きましたから)」

タロウは苦笑いを浮かべながら応える。

「(た、確かにあん子ちゃんの、あの灰色の肌はおかしいなとは思っていたのよ。でも、ゾンビならあんなに感情は豊かではないから、タロウさんの言う通り栄養不足な子なのかと思っていたんだけれども……。まさかアンデッドドラゴンだったとは。しかも、人間化の能力があるだなんて……)」

「(これは今のところ、レーデさんにしか言ってませんから、くれぐれも他人には言わないで下さいね)」

タロウがそう言うとレーデは苦笑いを浮かべる。

「(もし言ったとしても、誰も信じてくれないわね。人間化なんて誰も聞いたことが無いもの)」

「そりゃそうかも」

タロウはレーデの側から離れると、軽く笑いながら応える。

その笑い声にレーデも小さく笑うのだった。
  
「とりあえず、この中型ドラゴンの体型で、晩飯過ぎの時間までは、店先に置いておきたいんですが良いですかね? 俺の「用心棒」としての宣伝にもなるでしょうし。ただ、そうすると、ちょっと今日はお客さんが来ないかもしれませんが……」

タロウは申し訳なさそうに頭をかく。

「別にそれは構わないけど、この子の食事はどうするの?」

「今日はもうたらふく食べさせたので大丈夫です。明日以降は……」

タロウはまたレーデに顔を寄せると小声で話す。

「(外で放し飼いにしているという事にするので、後で外に出てから人間化させて帰ってきます。そうすれば食事量は普通になるし、常連客の皆も怖がらなくて済みますからね)」

「(なるほど、確かにその方が良いわね)」

レーデは「うんうん」と何度も頷いて応える。

「では、そういうことで」

「分かったわ」

レーデはまだ興奮しているのか、緊張した顔で頷くと店に戻っていく。

レーデが店の中に入っていくのを見てから、タロウはあん子に振り返ると声をかけた。

「じゃ、あん子。俺達は店の中に入るが、しばらくはここに居てくれ。大丈夫か?」

あん子は「ぎゃおん!」と一声鳴くと、「大丈夫です!」と言うのだった。

タロウは客が一人も居ない店に入ると、プス子とメデ美をカウンター席に座らせて、レーデ特製の果実ジュースを飲ませてあげる。

ドラゴンあん子に果実ジュースを飲ませるとなると、果実の量も大変な事になるので、タロウはレーデから果実そのものを沢山もらうと、木のカゴに入れて外に出る。

「果実、食うか?」

「ぎゃう♪」

ドラゴンあん子が嬉しそうに「食べたい!」と応える。

「そかそか」

タロウは木のカゴを置いて果実を取ると、ドラゴンあん子の口に向けて、ポイポイっと放り投げる。

漆黒の鱗をまとう禍々しいアンデッドドラゴンに、餌を与えるという光景を、わざと野次馬達に見せつけるタロウ。

この光景により、タロウという魔物使いの凄さが、難民街を駆け抜け要塞都市バルタロの隅々にまで、行き渡るであろうことは確実であった。

「(……さてと。これで「傀儡の魔王」達のメンツは丸潰れだな。奴等はアンデッドドラゴンから、無様な敗走をしたばかりなのに、ぼっとでの新人の魔物使いが1人で、捕獲と使役に成功したんだ。レーデの酒場の用心棒である俺にビビるならばそれで結構。だが、もし三大ギルドとしての矜持を優先するならば、きっと今晩が山場だろうな……)」

タロウはあん子の口に果物を放り投げながら、「あー面倒くさい」と愚痴るのだった。



既に日が落ちたというのにレーデの酒場の周りには、次から次へと噂のアンデッドドラゴンを見に来る野次馬連中でごった返していた。

ただし、レーデの酒場の前は、まるで広場が有るかのように空いており、人通りは一切ない。

もちろん、店内にも客は1人もいない。

皆はあくまで道の端っこから、膝を折って休んでいるアンデッドドラゴンと、その横で店内の椅子を外に持ちだして、気怠そうに座っている噂の魔物使いタロウを眺めているだけだった。

タロウは店内でプス子とメデ美に食事を取らせながら、タロウ自身はこうやって外に椅子を置いて、あん子の横でサンドイッチを頬張っている。

酒場の明かりが入り口から漏れており、そのぼんやりとした明かりの中で、タロウは夜空に輝き始めた美しい星空を眺める。

「(俺が心配性なだけなのかな……)」

タロウがぼんやりとしながら考えていると、野次馬の中から人影が悠然と近づいてくる。

酒場や周りの建物の明かりがあるとはいえ、ほの暗い道の真ん中を歩いてくる人影を、タロウは目を細めながら見る。

タロウは少しだけ緊張感を高めるのだが、その人影がすぐに知り合いだと気がつくと緊張を緩和させた。

「……遅いじゃないですか」

タロウの声に、しなやかな体で腰を優雅に振りながら歩いてきた女性が、落ち着いた声で応えてくる。

「ごめんねタロ坊。ちょっと仕事に出ていたからさ」

レーデの酒場の入り口から漏れる明かりの中に入って来た「鉄獄の檻」のギルド長であるリベエラが、美しい銀髪をかきあげながら、タロウに向かって微笑みかけてくる。

「要塞都市に帰ったら大騒ぎでさ。何かと思って聞いてみれば、レーデの酒場の用心棒、つまりはタロ坊がアンデッドドラゴンを捕獲して、使役に成功したっていうじゃない」

リベエラはタロウの横で大人しく座っている、漆黒の鱗を持つアンデッドドラゴンのあん子を見ながら、唇の端を少しだけ上げて笑う。

「どうやら本当みたいだね」

「……手こずりましたけどもね」

タロウは自身の異様さを少しでも緩和させる為に、平然と嘘をつく。

その選択はやはり正しかったらしく、リベエラはそりゃそうでしょと言わんばかりに、少し同情気味に苦笑いしながら頷いてくれる。

「討伐じゃなくて、使役に成功したんだってね」

「俺は魔物使いですからね。討伐にはあまり興味がありませんよ。やるからには使役です。ただしメス限定ですけども」

「それにしても見事なものね。さすがにタロ坊でも、ドラゴン族の使役は不可能だと思っていたのに、成功してしまうなんて……」

リベエラは小さく顔を左右に振りながら、信じられないという感じでタロウを見つめる。

「さすがは私が見込んだタロ坊ね。やっぱり大した男だわ。で、早速で申し訳ないけど、もちろんあの約束は守ってくれるの?」

リベエラは大人の余裕か、少しいたずらっぽく微笑みながらタロウに問いかけてくる。

もし、ここでタロウが約束を裏切ったとしても「そう、しょうがないわね」というぐらいの余裕を匂わせて。

もちろんその際には、タロウとリベエラの今後の関係性が完全な終わりを向かえるのは間違い無い。

その「約束」とは、賞金の分け前である。

アンデッドドラゴンの賞金は金貨250枚。

レアな魔物のメスの情報料として、7割である金貨175枚をリベエラに渡すというのが、タロウとリベエラの間で取り決めた口約束なのである。

この力こそが第一の世界において、お金はとても貴重であり、そして一種の「力」でもある。

お金の貴重性と重要性だけに留まらず、そもそもとしてタロウの驚異的な実力からすれば、リベエラを裏切り蔑ろにする事は難しい話では無い。

むしろ、裏切りこそがこの世界での「普通」である。

それゆえに、リベエラも心の予防線の為に、普通にタロウが裏切る事をも考えてしまっているのだった。

だが、タロウは裏切らない。

タロウは少しだけ冷めた目で自分を見つめるリベエラに向かって小さく微笑むと、座っている椅子の足の間に両手を潜り込ませる。

そして、椅子の足の間に置いていた賞金の入った袋を両手で掴み上げて立ち上がると、金貨で満たされている袋をタロウは何の戸惑いも無く、あっさりとリベエラに手渡した。

「もちろん。約束は守りますよリベエラさん」

「ありがと」

リベエラは「ふーん」と少し意外そうに、でも、どこか嬉しそうに頷きながら、タロウから賞金袋を受け取る。

そんなリベエラを見つめながらタロウはまた椅子に座ると、少しだけいたずらっぽく笑って言葉を付け足した。

「ただし、その袋に入っているのは、分け前の175枚の内の半分程度。100枚分だけです」

タロウの言葉を聞いたリベエラが「あら」と特に驚くことも無く応えるが、その言葉はどこか冷たい。

「残りの75枚は後日、俺がリベエラさんの所に持っていきます。その時は、今度はリベエラさんが、約束を守って下さいね」

タロウの行動の意味を理解したリベエラは、ふと緊張の糸が解けたのか大笑いする。

「――あははははっっ!! そっかそっか、そういう事か。何よタロ坊。もっと何か意味があるのかと思った私がバカじゃないのさ!」

「――いやいやいやいやいや! 俺にとってはとても重要な事ですってば。リベエラさんの様な美人が、あの約束を守ってくれるかどうかは、さすがに心配ですよ!」

タロウにとってはリベエラとの例の約束は、本当に楽しみにしていたイベントなのである。

それゆえにタロウが心底から心配そうに聞くと、リベエラは頬を紅潮させながらも嬉しそうに笑う。

「あははははっ!! そこまで真剣に思っていてくれたなんて、お姉さん光栄だな~。大丈夫よタロ坊。タロ坊の事を気に入っているのは本当だし、タロ坊が裏切らない限りは私も裏切らないわよ」

「まー、あの生真面目なレーデさんの相棒ですからね。信用はしているんですが用心深い性格なもんで」

「いいよいいよ。男はそれぐらいでなくちゃね。むしろ更に私の中で、タロ坊の好感度が上がったぐらいさ。でも、本当に良いの? 金貨250枚もあれば、高級娼館で女を侍らせて遊べるわよ?」

「俺はリベエラさんのレア情報と、リベエラさんのそのあけすけに見せびらかしている、美しいおっぱいを揉む事が一番です!」

見た目は美しいとはいえ、既に30を過ぎたリベエラにとって、年下の男が自分の女性の部分を褒めてくれて、そして執着してくれる事に対して悪い気などするわけがなかった。 

むしろ嬉しくて上機嫌になるリベエラ。

タロウに歩み寄ると、タロウの耳元に口を寄せて囁くように呟く。

「(……分かったわ。その時は約束通り、タロ坊の好きな事をさせてあげるわ。……あ、そうだ。何なら今から残りのお金を持って、私の部屋に来なさいな。約束通り、好きな事をさせてあげるわよ?)」

リベエラの色っぽい囁きにタロウは、鼻血が吹き出そうになるのを両手で押さえて我慢する。

「むぐぐぐ……。本当は今すぐにでも行きたいんですが、行けないんです」

タロウは唸りながら欲望に抗うと、リベエラの誘いを断る。

「あら、どうしたのよタロ坊」

リベエラが不思議そうに問い返す。

「近い内にお客さんが来るかもしれないんで、用心棒としてレーデさんの酒場を開けっ放しにするわけにはいかなんですよ」

「……へ~……なるほど。とても良い答えだわ」

リベエラはタロウの言わんとする事が理解できたのか、どこか嬉しそうに微笑む。

「私の誘いを断った理由がそれ以外だったら、ちょっとお説教だったけれど、タロ坊の答えは満点よ。ほんと、貴方は良い男ねタロ坊。そういう思慮深い所は、これからも大事にしなさいよ」

リベエラはタロウの頬に軽くキスをしてから離れる。

「なので、あいつらが来るまでは、しばらくここで門番です。来なければ来ないで良いんですけどもね」

「残念だけど来ないわけが無いわ。三大ギルドの誇りは、そんなに軽いものじゃないのよ」

「やっぱりそうですか……」

タロウがリベエラの言葉に気怠そうに応えると、リベエラは優しく微笑みながらタロウの頭を撫でる。

「レーデを宜しく頼むわよ」

「もちろんですとも。俺の大事なお宿の女将さんですからね」

タロウもリベエラに合わせて微笑みながら応えるのだが、優しい表情でタロウの頭を撫でていたリベエラの表情が一瞬で鋭くなる。

リベエラは美しい銀髪をサラリと揺らしながら、タロウに背を向けて道の端で眺めている野次馬達の一点を見つめだす。

「……?」

タロウはリベエラの行動の「意味」を理解してはいたが、それを同じ様に感じ取ることは自分には出来ず、頭の上に「?」を浮かべるしかなかった。

なにせ、タロウはチート能力のお陰で、凄まじい個人戦闘能力を所持してはいるが、戦闘経験そのものは浅い。

というよりもド素人なのである。

それゆえに相手の殺気などを感じ取る「勘」というものが、ほぼ働かないのであった。

「(……きっと、奴等が来たんだろうな。でも、俺には微塵もその気配が分からん)」

緊張した雰囲気の中、タロウは心の中でそう呟きながらリベエラと同じ方角を見ると、リベエラが睨みつけていた野次馬達の箇所から、何やら慌ただしい声が聞こえ始める。

そう思ったのも束の間、その人垣の箇所が蜘蛛の子を散らすように左右に分かれていくと、その間から人影の集団がゆっくりとレーデの酒場に向かって近づいてきた。

「……どうやら来たみたいよタロ坊」

リベエラの言葉を聞いて、静かに椅子から立ち上がりながら近づいてくる人影の集団を睨むタロウ。

戦闘的な勘は無くとも、誰が来るかの予想が出来ていたタロウは、人影の集団を見ただけで即座に何事かを確信して、平然とした態度でリベエラに応える。

「……みたいですね。となれば、今晩にでも、リベエラさんの部屋にお邪魔しますよ」

「あら、言うわね。もちろん良いわよ。ただし「私達が」生きていればね」

リベエラのその言葉を聞いたタロウは嬉しそうに笑う。

その言葉が意味することは、リベエラが命を懸けても協力するという意思だったからだ。

タロウの横で首を地面に下ろして目を閉じていたドラゴンあん子も、いつのまにか首を上げてタロウとリベエラが睨む同じ方角を見ながら「がるるぅ(あいつらが来ますぅ)」と、低いながらも気弱な唸り声をあげる。

「心配するな」

タロウは不安そうなドラゴンあん子の首を撫で撫でしてやる。

「さてと、ここは俺がやりますんで、リベエラさんは下がっていて下さい」

タロウはリベエラの前に歩み出る。

そんなタロウの背中を見たリベエラは、どこか楽しそうに笑う。

「あら、相手は三大ギルドの名を冠する組織の総力よ? でも……ふふふ。男に守ってやるなんて言われたのはいつ以来かしらね。大変な状況だけど、お姉さんちょっと嬉しいかも」  

タロウとリベエラは悠然と近づいてくる「傀儡の魔王」の一団を睨みつけるのだった。
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