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よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第36話 遅れた凱旋

タロウはお風呂であん子を味見してから、皆でそのままゆっくりと休んだ後、翌日の朝一番にはレーデの酒場を出ると、いつもの狩り場へと向かうのだった。

そして、そのまま数日の間、タロウはあん子がアンデッドドラゴンだとバレるのを避ける為に、レーデの酒場には帰らず、この荒野の狩り場で野宿をしていた。

目的はただ一つ。

子供ドラゴンにとって親でありながら、唯一の教師であるはずの母親を失い、ドラゴンとしてあまりに未熟なあん子に対して、最低限の戦闘教育を教えこむ為であった。

最低限の言葉通り、この数日で、タロウが叩き込んだのはたった2つ。

1.タロウの指示があれば、あん子だけ上空に飛び上がり空を旋回しつつ待機。

2.タロウの指示通りに炎弾を吐き出す。

最も重要なのは1であり、タロウはあん子の為の応急処置として、せめて足手まといにならない方法、つまりは、あん子を守りながら戦わずにすむ方法として、戦場から離れてもらう事を考えた。

なにせ上空にさえ飛んでしまえば、人間では射程に収めることがほぼ不可能になるからである。
メデ美の話でも空を旋回するドラゴンに、魔法を命中させるのは至難の業であるとの事から、タロウは上空がほぼ安全地帯であることを確信する。

では、それほどのドラゴンが、なぜ人間に狩られてしまうのか。
タロウがメデ美に聞いた所によると、それは、ただただ傲慢、短気、猪突猛進というドラゴン族特有の気性に関係しているらしかった。

「(空から炎を吐いていれば済むはずなのに、ドラゴンとしての力を誇示する為なのか、とにかく地上に降りたくて堪らないのがドラゴン族らしい……そりゃ狩られるわ。ま、あん子は母親がいないせいで、泣きべそをかきながらの逃亡生活を送ってきたせいか、ドラゴン族特有の傲慢な性格は全くと言っていいほどに無い。むしろ素直すぎる性格だから、今回の上空逃亡戦術に対しても、何の疑いも無く習得してくれて実に楽ちんだった)」

今日の狩りを一段落させたタロウは、昼時という事もあり、皆で焚き火を囲んで昼食をとっている。

ほぼ食料を何も買い込むことなく、荒野に出ていたタロウ達であったが、ひもじい思いをすることは一度も無かった。

なにせ、いつもは放り捨てている獲物の半魔獣を、プス子が器用にさばいて焚き火で焼いてくれるので、3食の食事に困ることが無かったからである。

ちなみに、1日に果実10個に、大きな獣を1匹を食べると言っていたあん子に、更に詳しくタロウが聞いてみると、正確には人間化時には1日に果実10個程度でいいのだが、魔力回復の為にはあえて中型及び大型のドラゴン体型へと戻してから安全に狩りをしつつ、大きな胃袋をもって大きな獣を食べていたとの事だった。

ただし、狩りそのものはあまり得意では無いらしく、もっぱら小型化のまま魔力消費を抑えつつ、果実を食べて飢えをしのいでいたという話を聞いて、タロウは「それであの時、プス子の仕留めた半魔獣に飛びついたのか」と納得するのだった。

実際、ここ数日の間、あん子は食事の時は人間化を解いて、象程度の大きさの中型ドラゴン体へと変身すると、1日で半魔獣4~5匹をペロリと平らげてしまう。

「よほど魔力貯蓄量が底をついていたのか、最初の日は10匹ぐらい食べてたよな……。まー、いつもは荒野に放り捨ててしまう「食材」だからな。あん子に食べさせてしまえば食費も浮くし、あん子の魔力補給にも繋がるしで、実に安上がりだ」

タロウは焚き火に炙られて、丁度良い具合に焼けた半魔獣の串刺し肉を取り上げると、塩を振りかけてからかぶりつく。 

程よく脂身がのっているので、硬すぎるわけでもなく、新鮮だからか特に獣臭くもなく、肉としては意外に高品質だった。

「まー、美味いのは美味いが、ここ数日、朝昼晩と肉ばっかりってのもな……」

タロウは「むふー」と溜息をつきながら、ジューシーな肉を咀嚼する。

「プス子はお肉大好きです! これからも毎日食べたいです!」

プス子は串刺し肉を両手に握りながら、久しぶりに食べる半魔獣の焼き肉祭りにご満悦だった。

「我も肉は好きですタロウ様」

メデ美は上品に串刺し肉をかじっている。

あん子はプス子が狩った半魔獣の山から、1体ずつ口で取り寄せて地面に置くと、口から吐く強烈な黒炎で瞬時に丸焼きにして、内臓ごとガツガツと貪り喰らう。

「うまうまっ! うまうまっ!」

ドラゴンあん子は幸せそうに半魔獣を次々と平らげていく。

タロウは青空の真上に昇った太陽を見上げながら、串刺しについている最後の肉を歯で抜き取って頬張ると、肉が無くなった木の串をプス子に手渡す。

プス子は受け取った木の串に生肉を突き刺していくと、焚き火の前の土にさして火で炙る。

「狩りに出て、もう4日は過ぎたよな。そろそろ帰るか」

「あい!」

元気に応えるプス子。

「では、予定通り、あん子の捕獲を宣言なさるのですね」

メデ美の応えにタロウは小さく頷く。

「ああ。この数日であん子への最低限の教育は済んだからな。これで「傀儡の魔王」達に喧嘩を売られても気楽に受けられる。ま、そもそも日数もずれた事だし、たぶん「傀儡の魔王」達には邪魔をしたのが俺達だとはバレないだろうが、もしバレたとしても、あん子は空中に退避させて狙わせないから心配はもう無い。後は、俺とメデ美とプス子で十分に対応は出来るはずだ。ま、奥の手としてあん子の黒炎弾もあるし大丈夫だろ」

「あん子の吐く黒炎は、ドラゴン族の中でも上位の部類でございまする。さすがは希少種のアンデッドドラゴンでございまするな。もはや、あの大黒炎弾は大魔法クラスと言っても過言ではありますまい」

メデ美の言葉に、タロウはその時の光景を思い出して苦笑いを浮かべる。

「(あー……うん。試し撃ちだったが小さな山が吹っ飛んだもんな。思わずム○カっぽく「見ろ! 山がゴミのようだ!」と叫んでしまうぐらいに興奮してしまったぜ)」

タロウの指示を受けて、炎弾を初披露したあん子であったが、タロウの命令を忠実にこなそうと気負いしたのか、素直に全力で炎弾を吐き出した結果がそれだった。

案の定、あん子自身の魔力消費量も桁違いだったらしく、その場で倒れこむように崩れ落ちたあん子の元に、せっせと半魔獣を運ぶ仕事に追われる事になったタロウ達。

「(でも、アレはあかん。あの威力はまさに戦術兵器の名に相応しいが、現時点では使い所がなさすぎる。ナ○シカの様に虫の群れが押し寄せてきたなら、巨○兵の如く「焼き払え!」とかやってみたいが、あん子の今の魔力量から考えれば、魔力が満タンでも1~2発が限度。その時点で、戦闘能力が0以下になるのは、動かない的になるから危険過ぎるもんな。まー……俺の「白濁液エリクサー」があれば、無限撃ちも可能ではあるが……。そう考えると、まさに動く砲台だな。とりあえず、威力調整は出来るみたいだから、普段は小型の黒炎弾を出させるだけで十分だ)」

タロウが「ふむむ」と1人考えていると、メデ美がドラゴンに対する知識を教えてくれる。

「ドラゴン同士が本気で争えば、その土地は見るも無残に荒れ果てると言われておりまする。唯一の救いはドラゴン族の個体数が少ないことと、普段から喧嘩を避けるために、ドラゴン同士での遭遇を回避する傾向が強いとは聞いたことがあります。ただし、発情期のオスはメスに対して積極的に接近するようで、その際にはオスの事を気に入らなかったメスとの衝突も多いとか。ま、結局の所、オスも死ぬつもりは無いので、そこまでの大争いにはならない傾向ではあるようですが」 

メデ美の持つ魔物に対する豊富な知識は、この異世界の事が分からないタロウにとっては、元の世界でいう所のネット検索並に貴重な力である。

タロウは「ほうほう」と素直に頷きながら応えた。

「へー、あん子はオスドラゴンに会ったことはあるのか?」

タロウがそう言うと、あん子はドラゴン体のまま眉間にシワを寄せる。

「うち、オスドラゴン嫌いです。恐いし、乱暴だし。お母さんは、嫌いなオスは殺せと言っていましたが、うちにはそんな力は無いので、いつも隠れたり逃げたりしてました」

「お母さん、過激なんですね」

「きっと、負ければ、そのオスの子供を孕む危険性があるからでしょうな」

メデ美の補足にタロウは「確かに」と頷く。

「……なるほど、そりゃ殺さないとなー。ま、今のままでは、あん子だけで対オスドラゴン戦までは対処できないが、対人間戦は何とかなるだろ」

タロウは満腹になったお腹を擦った後、両手を青空に突き出して背伸びをする。

「んじゃ、そろそろ帰るか」

「はは、仰せのままに」

メデ美はタロウに対して、敬々しく頭を垂れる。

プス子は口を肉で一杯にしながら「あい!」と元気良く応える。

あん子はタロウの声が聞こえていないのか、「うまうま!」と言いながら半魔獣の丸焼きにかぶりついていた。

タロウ達はお昼の焼き肉祭りを終えると、帰り支度を整えてから、難民街へと向かって帰るのだった。



その日、難民街は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。

なにせ、ピンクメデューサを「本当」に使役し、要塞都市バルタロ内において三大ギルドのひとつと尊称されると同時に畏怖されている「傀儡の魔王」に対して喧嘩を売ったと噂されていた1人の魔物使いの青年が、見るもおぞましい漆黒の鱗に包まれたドラゴンを従えて帰ってきたのだ。

タロウはあん子を象程度の大きさの中型ドラゴン体のままの姿で、プス子が引いてタロウが乗ってる荷車の後を歩かせる。

四足歩行型のドラゴンあん子は、まさに象の様にのしのしとゆったりとした歩行で、タロウの後をついて歩く。

難民街の住民は、ただただ息を飲んでタロウ一行を見送るしかなかった。

タロウは荷車の中で背もたれの綿袋にもたれかかり、後ろ頭に両手を組んで平然とした態度で、通りの真ん中を通り過ぎて行く。

目的地は賞金換金所。

道すがら多くの魔物殺しなどの同業者が、噂を聞きつけて通りに集まってきていたが、どの顔も一様に口をあんぐりと開けて、タロウに付き従う漆黒のドラゴンあん子を見つめている。

「タロ様ー。賞金換金所が見えて来ましたです」

「おう」

タロウが荷車から立ち上がると、賞金換金所の前には既に数人の所員が、噂を聞いたのかお出迎えに出ていた。

その中に、タロウがいつもお世話になっている、メガネをかけた真面目そうな若い男が一歩前に出てくる。

「――タ、タロウさん! そのドラゴンは一体!?」

「やあ、あんたか。ほら、現在三大ギルドのみに開示されている賞金首があっただろ。ちょいと、その情報を手に入れる機会があってね」

「ま、まさかアンデッドドラゴンですかっ!?」

メガネ所員は目を見開きながら、ドラゴンあん子を見る。

「そう、そのアンデッドドラゴンを「今日」捕獲した」

「ほ、捕獲!? 討ち取ったのではなく捕獲ですか!?」

タロウの応えに更に驚愕するメガネ所員に向かって、タロウは平然とした態度で親指を立てて、後ろにいるドラゴンあん子を指し示す。

「だって、ほら。生きてるだろ?」

ドラゴンあん子が太くて長い尻尾を一回だけうねりと動かす。

「た……確かに」

メガネ所員は興奮しているのか、荒い呼吸を繰り返しながら、ずれ落ちたメガネを片手て「クイ」と直した。

「というわけで鑑定を頼む」

「――は、はい!」

メガネ所員は手に持っている拳ほどの黒い水晶球を、タロウの討伐記憶腕輪に近づけると、その表面に緑色の美しい蛍光色の文字が浮かび上がる。

その黒水晶は腕輪チェックの為の携帯型端末のようであった。

メガネ所員は黒水晶に浮かび上がった文字を見ながら何度も頷く。

「……は、はいっ! はいっ! た、確かにアンデッドドラゴンです! ほ、捕獲という事は、賞金換金所で買い取る事もできますが、どう致しますか?」

「いや、賞金だけでいいよ。このアンデッドドラゴンは俺が使役するからさ」

「――!?」

タロウの言葉にメガネ所員だけでなく、その他の所員達も驚愕の表情を浮かべる。

「タ、タロウさん本気ですか!? アンデッドドラゴンを手懐けるなんて不可能ですよ!!」

メガネ所員が信じられないという表情で応える。

「いや、もう手懐けたしね。というか、そうじゃないと、こんなに大人しくしていないよ。さあ、おいでアンデッドドラゴン」

タロウが指示をすると、ドラゴンあん子は大きな頭を愛おしそうにタロウの体に擦りつける。

「ほれ、この通り」

アンデッドドラゴンがタロウに懐く様を見たメガネ所員は、呆然とするしかなかった。

しかし、それは周りで見ていた野次馬達もまた同じである。

「わ、分かりました。ピンクメデューサを使役するタロウさんです。アンデッドドラゴンを使役しても何ら不思議ではないですよね。た、ただし、どうかこの難民街や要塞都市の住民に対して、無差別的な危害を与えないように注意をお願い致します。さ、さすがに害があるとなれば、この要塞都市近辺からの追放もありえますので」

「それはもちろん。むしろこの要塞都市に益のあるように、魔物使いとしてこれからも頑張るつもりですよ」

タロウは微笑みながら応える。

「そ、そうですか! それなら心強い!」

いつものタロウの真面目な態度を知っているメガネ所員は、「ほう」と安心のため息をつきながら何度も頷いている。

「で、では、早速、賞金を用意しますね!」

「宜しく頼む」

メガネ所員と他の所員は駆け足で換金所に戻る。

しばらくした後、メガネ所員が金貨の入った袋を3つ、小さな手押し車に乗せて戻ってくる。

「お、お待たせ致しました。アンデッドドラゴンの賞金である金貨250枚です。この袋には1つ100枚ずつ、こちらは50枚に加えて半魔獣の賞金分が入っています。枚数はしっかりと数えましたのでご安心を」

「ああ、そこは信頼してるよ」

「は、はい! どうもありがとうございます!」

仕事を褒められたからか、嬉しそうに笑うメガネ所員。

タロウは荷車に金貨の入った袋を運びこむと、そのままアンデッドドラゴンのあん子を引き連れながら、レーデの酒場へと戻るのだった。
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