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よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第34話 嘘

ショートボブの丸みのあるサラリとした黒髪。
右側の髪の真ん中辺りをゴムで結び、ちょこんとかわいい尻尾が出来ている。
目は丸くぱっちりとしており、髪と同じ色の黒い瞳が不安そうに揺れていた。

服は胸部を横に一周している長方形の白ブラと、細いローレグの白パンティのみ。

ほぼ全裸に近いゆえに肌の露出が多いのだが、肌の色は灰色でほの暗く、まるでゾンビのようであった。

タロウは見た目がほぼ小○生の中期程度な人間の姿に変化したあん子を、プス子が引く荷車に乗せてレーデの酒場への帰路についていた。

タロウは、目の前で正座をしながら緊張しているあん子を眺めながら呟く。

「なあメデ美。魔物にとって人間化ってのは普通なのか?」

荷車の横を随伴しているメデ美が小さく顔を横に振った。

「いえ、それはかなり珍しい魔法かと思われまする。風の噂では人間社会に潜り込んで、人間との共生を模索した魔物がいたと聞いたことがありまするが、まさか本当にそのような魔法を確立していたとは……。トカゲとはいえ、さすがはドラゴン種というところでしょうか」
 
「メデ美も使えたりする?」

タロウの再度の質問にもメデ美は顔を横に振る。

「たぶん無理でしょうな。種族それぞれに得手不得手がございまするので。これほどの特殊な魔法を編み出したという事は、あん子の母親は余程の執念で、人間化の魔法を追求したものと思われます。そして、その秘術だけは幼いあん子にも教え込んでおいたのでしょうな」

タロウはあん子にも声をかける。

「なー、あん子。人間化の魔法ってどんなのなんだ?」

あん子はビクッと体を震わせると、正座のまま背筋を伸ばしてタロウの顔を真剣に見る。

「は、はい! うちが「人間になれ!」と強く思うと、この姿になれます!」

「なるほどなるほど」

タロウはあん子に対して「うんうん」と笑顔で頷いて見せた後、メデ美に顔を向けて唇を尖らせる。

「……他の魔物が習得するのは無理っぽいね」

「ええ、今の話ですと、もはや魔法というよりも、あん子だけの「感覚的な特殊能力」に近いかもしれませぬな。母親がこの特殊魔法の漏洩を恐れて、あえて感覚的な教えに留めているのやもしれませぬが」

「となると、アンデッドドラゴン全てが、人間化できるというものでもなさそうだな」

「アンデッドドラゴン族が、人間化の能力を秘しているという可能性もありまするが、ほぼ「あん子及びその血筋だけの能力」と断定しても、問題は無いやもしれませぬ」

「その方が妥当っぽいな」

タロウはあん子に視線を戻しながら納得した。

「(俺の中では魔物娘の人間化というのは定番だけれども、やはり皆が皆、人間化してしまっては、この異世界独特の魔物娘の意味が無いもんな。あくまであん子が特殊能力を持っていたという感じか。ただし、そうなると超絶レア種どころではないな。超絶レア+αという感じで貴重性は格上か)」

タロウは顎先を指で擦りながら頷く。

「……ま、とにもかくにも、日頃の汚れを落としてやらんとな。まずは宿に帰って風呂だな風呂♪」

タロウは「むふふふ♪」と嫌らしい笑みを浮かべながら、あん子のつるぺたりんな体を見る。

「わーい! お風呂! お風呂!」

プス子が荷車を引きながら喜ぶ。

「良かったのあん子。タロウ様のご寵愛を受けられるようだぞ。心して享受、致すようにの」

メデ美があん子を優しく見つめながら頷いている。
当の本人であるあん子はお風呂の意味が分からず、頭の上に「?」を浮かべているのだった。



タロウ達が難民街に入ると、あん子の様子が目に見えて変化していき、両肩を強ばらせたまま両目を点にして、まるで石になったかのように固まってしまう。
どうやら、辺りにたくさんいる難民街の人間達が怖いようであった。
タロウはあぐらを組んで座っているので、あん子に向かって自分の膝をポンポンと叩いて見せる。

「ほれ、あん子。俺の膝の上に座りな」

「は、はははははいっ!」

あん子はまるで避難場所に飛び込むかのように、タロウの膝の上に飛び乗ると、背中を向けて座るのではなく、タロウに向い合って抱きつくようにしがみついてくるのであった。

「(予想外なまさかの座り方だな……)」

タロウは自分の胴体に手と足を回して、ギュッと抱きついてくるあん子を見ると、昔飼っていた子猫を思い出して小さく笑ってしまう。

子猫を初めて外に連れ出した時も、今のあん子みたいにタロウの体から離れまいと、爪を立てて必死に服にしがみついてきたのだ。

その子猫と同じように、恐怖からか体を小刻みに震わせているあん子の頭を、優しく撫でてあげるタロウ。

「大丈夫。大丈夫。俺やプス子やメデ美がいるから。ちゃんと俺達があん子を守ってやるから」

「あ、ありがとうございますぅ……」

タロウの胸元に顔を埋めてギュッと両目を閉じていたあん子が、タロウの胸元から顔を離して両目を潤ませながらタロウを見上げる。

タロウは「よしよし」と言いながら、あん子を落ち着かせる為に優しく頭を撫で続けてあげるのだった。

「タロ様。賞金換金所です」

プス子の声にタロウは、ほぼ目の前まで近づいてきた賞金換金所を見つめる。

「あー……今日はいいや。そのまま通りすぎてレーデさんの酒場に向かってくれ」

「あい!」

プス子は元気良く返事をすると、タロウの指示通りに賞金換金所の前を荷車を引いて通り過ぎていく。

狩りから帰って来た日には、いつも必ず寄っていたはずの賞金換金所の前を素通りするタロウ。

そんなタロウの指示にメデ美が不思議がる。

「宜しいのですかタロウ様。今日の狩りの報酬とやらを得なくても?」

タロウは気怠そうに手の平をヒラヒラと振りながら応えた。

「あー、いいのいいの。あん子を手に入れた事は、数日ほど隠しておくつもりだからさ。「傀儡の魔王」が敗走した今日の今日で、アンデッドドラゴンを捕獲したとなれば、あの魔法攻撃は俺達だったとバレる可能性があるからな。半魔獣のみの換金も出来ないこともないだろうが、もしバレた時は面倒だからな。そもそも現時点で金にも困っていないし、そうなると、今は近づかないのが一番さ」

「なるほど。あやつらに感づかれぬ為でございましたか。さすがはタロウ様でございまする」

「傀儡の魔王のギルド長がどんな奴かはまだ分からないからな。わざわざ恨まれて強硬な手段に訴えられても面倒だし、ピンクメデューサを使役する魔物使いとして、警戒させておくのが妥当だろう。ま、ピンクメデューサに続いて、アンデッドドラゴンまで俺に奪われた事を知った時に敵意を向けてくるようなら、その時は真正面から受けてやるさ」

タロウは胴体にまとわりつくあん子の頭を優しく撫でると、あん子は安心したように両目を閉じて微笑む。

「とりあえず、自ら波風を立てることはせず、その間にあん子の教育を少しでもしておかないとな。お披露目はそれからでいいだろ。このままじゃ、いくらアンデッドドラゴンといえど、あん子が俺達の急所になりそうだからな」

タロウは苦笑いを浮かべながらメデ美を見る。

「確かに今のままのあん子では、人間共に集中的に狙われた場合、大変でございまするな」

「プス子とメデ美がいれば危険は無いのだろうけど、それにしてもあん子は宝の持ち腐れ状態だからな。最低限の教育でもかなりの効果があるだろ。ま、役に立てとまでは言わないから、せめて足手まといにはならないようにしておこうと思ってる」  

「我とプス子なれば、命に代えましてもあん子を守り通してみせまするが、確かに、せめて自らを守れるようになれれば、我等も安心でございまする」

メデ美は「うんうん」と頷きながら、あん子に視線を向けると「頑張るのじゃぞ」と優しく言いながら微笑みかけた。  
 
「は、はい!」

あん子はタロウの胸元に抱きつきながらも、決意のこもった真剣な表情で、メデ美に元気良く返事をするのだった。 

しばらくするとプス子から元気な声が聞こえてくる。

「タロ様! お宿につきましたです!」

プス子の引く荷車がレーデの酒場の前で停まる。

「お疲れさんプス子。ほれ、あん子も大丈夫だから離れな」

タロウは胴体にまとわりつくあん子を離れさせると、荷車内で立ち上がってプス子の艶やかな黒髪を優しく撫でてねぎらう。

「えへへー」

プス子は大きな単眼を嬉しそうに閉じながら微笑んだ。

タロウが荷車から降りると、あん子も慌てて荷車から降りて、タロウの側にトテトテと小走りに寄ってくる。

あん子は周りをキョロキョロと見渡しながら「あわわわ……」と挙動不審状態で恐れおののいていた。

タロウは苦笑いを浮かべながら「やれやれ」と心の中で呟くと、あん子に右手を差し出してあげる。

すると、恐怖で引きつっていたあん子の表情が一気に幸せそうに綻び、タロウの右手に自分の左手を重ねて力一杯に握りしてめてくるのだった。

その様子を見ていたプス子が口元に指を置きながら呟く。

「あん子いいなー。プス子もタロ様と手を繋ぎたいです」

巨体なプス子が眉を下げながら「むー」と唸っている。

「やれやれ。甘えんぼの魔物娘が2体か。だが、俺の信念はハーレム全員に100%の愛情を注ぐことだ!! というわけで、おいでプス子」

タロウは空いている左手をプス子に差し出すと、プス子は「やたー!」と大喜びでタロウの左手を、自分の右手で握り締めるのだった。

プス子、タロウ、あん子という順に大中小で繋がり合う3体。

そんな3体をメデ美が微笑ましそうに眺めているのをタロウが声をかける。

「何をしているメデ美。遠慮はするな。ちゃんとお前も甘えてこい」

「い、いえタロウ様。我はタロウ様のお側にお仕えできるだけで幸せです。タロウ様のお体に気軽に触れるなど、なんと恐れ多い事でござりましょうぞ」

メデ美は自分の思いを見透かされた事に焦ったのか、少しだけ言葉を詰まらせながらも丁寧に畏まる。

そんな甘えベタなメデ美に対しても、タロウは「やれやれ」と心の中で呟くと、タロウは自分の背中をメデ美に見せた。

「ほれ、背中が空いているから、抱きついていいぞ」

「え? あ……いや、そのような……。よ……宜しいのですか?」

メデ美は一旦は拒否しようと試みるのだが、親愛なるタロウに触れるという誘惑には逆らえなかったらしく、両手を胸前で祈るような形で組みながら、真剣な表情で問い返してくる。

「もちろん。さ、おいでメデ美」

「は、はい!」

メデ美は恐る恐るタロウの背中に近づくと、タロウの背中にやんわりとしなだれかかる。

「はー……タロウ様」

タロウの背中でメデ美はうっとりとしながら、親愛なる自身の神であるタロウの名前を呟くのだった。

「(うん……。自分でやっといてなんだけど、何かとてもおもしろい事になってるなこれ。ま、これもハーレムの醍醐味のひとつだから良いか)」

タロウは左手にプス子、右手にあん子、背中にメデ美を連れながら、レーデの酒場に入って行くのだった。

「レーデさんただいまー」

「あら! お帰りタロウさん!」

レーデはカウンター内の厨房で背中を向けていたが、サラサラの黒いポニーテールを振り動かしながら、タロウに向かって勢い良く振り返ると笑顔を見せてくれる。

酒場内にいる常連客も、タロウに対して「お帰りー」と気さくに声をかけてくれた。

だが、この異世界において異様な姿であるはずの、魔物娘達にまとわりつかれているというタロウを見たレーデと常連客は、誰一人として特に驚くことはなかった。

「あらあら。相変わらず懐かれているのね。本当に凄い使役技術だわ」

苦笑い混じりにタロウの周りの魔物達を見るレーデ。

もちろん酒場の常連客も同じような感じだった。

魔物使いは使役する魔物を暴力と恐怖で従えるがゆえに、懐かれるなどあり得ないのがこの異世界の常識なのだが、タロウの使役技術の異質さと高等さを毎日のように見せつけられてしまっては、もはや慣れない方がおかしな話しであった。

なにせ、あの凶暴なピンクメデューサを従えてしまうタロウならば「そういう使役方法もあるんだろうな」と、皆が納得するには十分だったからである。

「(本当は懐かれているんじゃなくて、異性として「愛されて」いるんだけどもね。ま、この異世界の人間には、想像すらできない事だろうな)」

タロウは「たはは」と心の中で苦笑いをする。

「それじゃ、お風呂を使わせてもらいますね」

タロウの言葉にレーデは気さくに頷く。

「今日もお疲れ様。ゆっくりと疲れを癒してね。美味しい晩御飯を用意しておくから……ってあれ?」

笑顔だったレーデの表情がきょとんとしたものに変わる。

その目線はタロウの右手の先にいるあん子に向けられていた。

あん子は店内をキョロキョロと忙しなく見渡している。

「あら? タロウさんの使役魔物の中に、そんな魔物いたかしら?」

首を傾げながらあん子を見つめているレーデに、タロウが何でもない事のように応える。

「ああ、この子は魔物じゃなくて「人間」ですよ」

「そうよね。どこからどうみても人間よね」

レーデは頷きながらあん子を見ている。

「難民街で親を失って浮浪児をしていたようなので、何となく引き取る事にしました。ちなみに名前はあん子と名付けました」

タロウは予め「ゾンビ」という魔物が存在することをメデ美に確認していたので、あん子をゾンビとして扱う事も考えていた。

だが、ゾンビという魔物がいるとはいえ、やはりあん子はゾンビではないので、色々と説明が面倒だなと考えるに至った結果、もはや思い切って人間で押し通す事を決めたのだった。

「……あら。偉いわねタロウさん」

レーデは少し驚いた様子で、あん子からタロウに視線を移すと、タロウの目を優しく見つめてくる。

「ここでそんな事をする人間はなかなかいないわよ」

酒場の常連客達も「ほー」と感心している様だった。

「(……あ、うん。親無しの子供を引き取ったのは事実なんですが、実は人間では無く「アンデッドドラゴン」なんですけどもね。皆様方、ほぼ嘘なんで、そんなに綺麗な目で俺を見ないで下さいな。心が痛いっす。とりあえず、しばらくしたらレーデさんには打ち明けるける予定だから、その間だけ騙せれば多少なりとも理由が強引でも、どうという事はない)」

レーデと酒場の常連客達の尊敬の視線という、鋭利な槍に串刺し状態となってしまったタロウは、さっさと会話を切り上げるべく話しを変える。

「見ての通り血色が悪いみたいで、これからは何か元気の出る物を、たらふく食べさせてやりたいと思ってますので、宜しくお願いします」

「ええ、もちろん任せて! あん子ちゃんが元気になるようなメニューを考えるわ!」

レーデが爽やかに笑いながら、自分の豊かな胸を「どん」と右の拳で叩くと、白いコルセットからはみ出している巨乳が「もにょん」と揺れる。

「ではでは。お風呂に行ってきます」

「はい、ごゆっくり」

タロウは難なく嘘を突き通すと、レーデの尊敬の眼差しに見送られながら、そそくさと階段を上がって自室に戻るのだった。
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