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よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第31話 飛来

「傀儡の魔王」の配下達にレーデが襲われてから数日後。

レーデの酒場にはぼちぼちと常連客が戻り始め、いつも通りの賑わいが戻りつつある。

タロウはいつも通りに昼食用のお弁当を作ってもらい、プス子とメデ美と共にいつもの狩り場で日課の狩りを行なっていた。

「(レーデさんの酒場にも客が戻り始めてきたし、以前の日常に戻りつつあるな。ただ、変わった事といえば一つ……)」

タロウは大はしゃぎで弓を射ちまくるプス子を眺めていた。

メデ美の魔法で風の加護を受けている弓矢が、ロケット弾さながらに直線でぶっ飛びながら地平線へと消えていく。

「――やた! 今ので半魔獣13体目です!」

「うむ。実によろしい」

タロウは大仰に頷きながらプス子に労いの言葉をかける。

「えへへ!」

プス子は単眼を閉じて嬉しそうに笑う。

「タロ様。もっと射っていい?」

プス子は首を少し傾げながら半魔獣狩りのおねだりをしてくるので、タロウは手の平をヒラヒラと動かして肯定する。

「あー、もうお好きなだけどうぞ。もう「平凡なふり」はしないことにしたからな。今日の弓矢が尽きるか、それともこの近辺の半魔獣が尽きるか、どちらでも結構結構」

レーデの酒場が襲撃された際に「傀儡の魔王」を退ける為、大勢の観衆の注目の中でプス子とメデ美を見事に使役してしまったタロウは、もはや「普通の魔物使い」ではいられなくなったのである。

更にはレーデの酒場の「用心棒」まで引き受けたこともあり、ここ数日という短い間ながらも難民街の中では既にタロウの名を知らない者はいないほどであった。

それゆえに、タロウが半魔獣を狩りまくっても難民街の誰も驚く者はいなくなり、賞金換金所の職員も「今日もお疲れ様です」と労いの言葉と共に金貨混じりの報奨金を「当たり前のように」手渡してくれるのだった。

タロウは細かいお金を入れている皮財布とは別に、腰のベルトに小さな革袋を追加して結びつけている。

タロウはその革袋を取り外して中身を確認すると中には金貨が複数枚入っていた。

「(そろそろ金貨10枚になりそうだな……。日本円にすれば約100万円。このまま貯金していけば大きな家を買って、魔物娘達とダラダラ生きていく夢が叶いそうだな。いや、でもまだまだレーデさんの宿にはいたいな。風呂もあるし飯も美味いしレーデさんは美人だし。それに何ていうか、酒場の宿に泊まっているのって、何かファンタジーRPGっぽくてたまらんのよな)」

タロウは「落とさない、盗まれない」為に購入した大金専用の革袋をまた腰のベルトに縛りつけると、横に座っているメデ美に向かって倒れかかり、メデ美の蛇部分の胴体の人間で言えば太ももぐらいの箇所に頭を乗せる。

メデ美は少しだけビクっと驚くが、もはや、ここ数日の日課になっているので、メデ美は特に何も言わずタロウの頭を迎え入れる。

タロウはメデ美の太ももらへんに頭を乗せながら、どこまでも続く荒野と地平線、青い空と流れる白い雲を眺めるのだった。

しばらくすると、獲物を探して辺りをキョロキョロと顔を動かしていたプス子が、タロウとメデ美の方を向いたかと思うと、なぜか顔を上に向けて青空をしばらくぼんやりと眺め続ける。

タロウはいつものプス子の青空鑑賞でも始まったのかなと考えたのだが、なぜかプス子は少しだけ首を傾げる仕草を見せた。

その仕草が気になったタロウは、なんとなくプス子へと声をかけた。

「どうしたプス子?」

プス子は首を傾げながらタロウに視線を落とす。

「何か飛んで来ます」

「飛んでくる?」

「あい」

タロウは即座にメデ美の太ももから頭を上げて起き上がろうとした瞬間だった。

耳をつんざく風切り音と共に辺りが一瞬で暗くなる。

タロウは慌ててメデ美の太ももから起き上がり即座に上空を見上げると、まさにタロウ達の頭上を巨大な物体が凄まじい速さで通過していく瞬間だった。

「――な!?」

タロウが驚く間もなく、その大きな物体はタロウ達の頭上を通り過ぎ、凄まじい風圧を置き土産にして飛び去っていく。

舞い上がる砂埃に顔をしかめるタロウ達。

タロウは目を細めながら飛び去って行く巨大な物体を確認する。

「――黒いドラゴン!? 例のアンデッドドラゴンか!?」

「……どうやらそのようでございまするな」

メデ美も目を細めつつ風で乱れたピンク色の髪を手櫛で整えながら、飛び去っていく黒い竜の後ろ姿を睨みつけている。

「大きいだろうと思ってはいたが、やっぱり大きいんだなドラゴンは」

胴体部分だけでも象の軽く3倍程度。
そこに野太く長い首や尻尾、
更には胴体よりも大きい翼が付いているせいで、その大きさはより誇張されて圧倒される程であった。

「大きさだけで言えば、まさに想像通りのドラゴンってやつだな」

タロウは黒い鱗で全身を覆う禍々しいアンデッドドラゴンを眺めながら呟く。

空を滑空するアンデッドドラゴンの姿が遠く離れていき、人間の拳ぐらいになった所で、おもむろに地上に降り立つのをタロウは確認した。

「……あそこに何かあるのか。プス子見えるか?」

タロウの疑問に応えるべくプス子はアンデッドドラゴンの降り立った方を見つめる。

「あい、見えます。翼の生えた大きな黒いトカゲさんが、プス子の仕留めた半魔獣を食べてます」

大きな単眼をパチパチしつつ、人間と同じようにある二つの細い眉毛を少し上げて不思議そうな表情を浮かべながらタロウに応える。

「なるほど……。餌が落ちていると思って飛びついたわけか」

「あやつらドラゴンは肉食かつ雑食ですので、半魔獣なら御馳走の類でございましょうな」

「それにしても、本当に要塞都市の近辺をうろついているみたいだな」

タロウは苦笑いを浮かべながら餌に貪りついているであろうアンデッドドラゴンを眺めた。

だが、タロウは遠くにいるアンデッドドラゴンを見るのをあっさり止めると、青空に向かって背伸びをする。

「ま、餌に夢中で俺達の事にも気がついていないみたいだし、今日はここらで帰るか」

「宜しいのですか? ご命令とあらば瞬殺してみせまするが」

アンデッドドラゴンを鋭い目つきで睨みながら鋭い犬歯を剥き出して見せるメデ美。

「いやいや。元々、ドラゴンなんぞと殺り合うつもりは無いから。万に一つでもプス子やメデ美に何かあったら嫌だしな」

タロウは苦笑いしながら首を横にふる。

「一応、もし見かけたらここから立ち去るように声をかけて教えてやろうかと考えていたんだが、いやー……あの凄まじい巨体を実際に目にしてみると、色々と危険すぎて近づくのが億劫になってきてさ」

タロウはちらりとアンデッドドラゴンの方に視線を向ける。

「リベエラさんもドラゴンを仕留めるには、それ相応の被害を覚悟する必要があると言っていたし、そう簡単に捕まることも無いだろ。むしろ少し痛い目を見れば、さっさとどこかに飛んで逃げるだろうしな」

タロウは荷車に向かってのんびりと歩き出す。

「いやー、それにしてもドラゴン初体験だな。色々なファンタジーRPGで飽きる程に見てきたけど、実際に自分の目で見てみると、いやはや実にカッコイイもんだなー。さすがは異世界旅行だ」

タロウはそう呟きながら荷車に乗り込もうとしたその時だった。

プス子がポツリと呟く。

「……あ」

「……ん?」

タロウがプス子に振り返ると、プス子はアンデッドドラゴンの方角より更に右側、つまりはアンデッドドラゴンが背を向けている方向を首を傾げながら見つめ続けている。

「どうしたプス子。まだ何かあるのか?」

タロウが問いかけると、プス子はアンデッドドラゴンの後方部分を見つめながら応える。

「人間の集団が来ます」

「……え?」

タロウが眉をひそめて聞き返す。

タロウも目を細めてプス子が眺めている方向を見つめた。

アンデッドドラゴンの巨体とは違い、この距離で人間を視認することはタロウには難しかったが、何やら黒粒の集団がアンデッドドラゴンに向かってちょこまかと蠢いている事だけは確認できた。

「確かに人間なのか?」

「あい、人間です。それと魔物もたくさんいます」

「……魔物? となれば魔物使いの集団って事になるな。その中でアンデッドドラゴンに臆することなく向かうということは、三大ギルドの1つ「傀儡の魔王」達だろうな……」

タロウは「チッ」と舌打ちをする。

「あいつら本当に狙っているんだな……」

タロウは眉を寄せて「傀儡の魔王」らしき黒粒の集団を睨むが、すぐにその苛立ちを落ち着かせた。

「いやいや、いくら三大ギルドの1つとはいえ、相手はあの禍々しいアンデッドドラゴンなんだ。あいつらもきっと手痛い被害を受けるに違いないさ」

タロウは片方の口端を上げて薄ら笑いを浮かべる。
 
「ふん、レーデさんを襲った罰だ。その無様な敗走ぶりをとくと見せてもらおうじゃないか」

タロウは悪党な台詞と笑みを浮かべながら「傀儡の魔王」達の不幸を見る愉悦に浸る。

だが、そのタロウの悪趣味な楽しみは、プス子の報告によってあっさりと終わりを告げた。

「……捕まりました」

「……は?」

タロウは意味が分からずにプス子に問い返す。

「黒いトカゲさんが人間達に捕まりました」

「――ブッ!?」

タロウは顔を斜め上に向けると青空に向かって唾を吹き出す。

「ど、どどどど、どういう意味だ!? もっと事の成り行きを詳しく説明しろ!!」

「あい。黒いトカゲさんがプス子の仕留めた半魔獣を食べる事に夢中になっている所を、後ろからやって来た人間達に捕まりました」

「…………」

タロウは閉じた口の両端をつり上げ、鼻の穴を大きく開きながら、両目をパチパチと開閉させる。

タロウは一瞬、完全に思考回路が停止してしまったのだが、すぐに頭を振って気を取り戻すとプス子に声をかけた。

「現状を更に詳しく報告!」

「あい! 黒いトカゲさんの首や手足が何か大きな岩の手に掴み取られて、身動きが取れなくなっています。そんな黒いトカゲさんに対して、大きな岩の巨人や魔物達が一斉に攻撃をしています!」

「岩の手や巨人……。ゴーレムか?」

タロウはメデ美を見るとメデ美は静かに頷く。

「たぶん、その通りかと思われまする」

「へー……。「傀儡の魔王」達はミノタウロスやオーク以外を使役できるってのは本当なんだな」 

「どうなさいますかタロウ様?」

メデ美の問いかけにタロウは、額を人差し指で掻きながら眉を寄せる。

「プス子が教えてくれた状況から、アンデッドドラゴンが自力で助かる確率はどの程度だ?」

メデ美はため息混じりに首を左右に振る。

「ハッキリ言ってお粗末にも程がございまするな……。ま、所詮はトカゲと言えばそれまでですが、動きを封じられてしまったとなると、もはやドラゴンと言えども、ただの大きな的でございます。このまま竜鱗(りゅうりん )を破られてお終いとなりましょう」

「アンデッド、つまりは不死なのに死んでしまうのか?」

「アンデッド系は通常攻撃に対しては絶対的な耐性を持ってはいるようですが、聖属性の攻撃の前には赤子以下でございます。竜鱗を破ってから、生身の部分に聖属性の攻撃を叩き込まれれば、アンデッドドラゴンと言えど一撃で死んでしまうでしょうな。なのでプス子。人間か魔物の中に「金」の武器を持っておる者はおらぬか見てはくれまいか?」

メデ美の問いかけにプス子は力強く頷く。

「うん、いるよ。岩の巨人の1体が金色の刃先の大きな槍を持ってます」

「銀にも聖属性は宿っておりまするが、この世界で最も神聖なるは「金」でございまする。アンデッドといえど金の前には太陽に炙られた氷の様に一瞬で蒸発してしまうことでしょう」

「マジですか……」

タロウはメデ美の応えに呆然とするしかなかった。

「(おいおい! ドラゴンってのは手強いはずじゃないのかよリベエラさん! でも、プス子の報告ではこのままじゃ、アンデッドドラゴンを「傀儡の魔王」達が「無傷」で仕留める事になる。……それは、こう……なんか……ムカツクなー)」

タロウは腕組みをしながら片眉をつり上げてアンデッドドラゴンの方角を睨む。

「……よし、決めたぞ! 「傀儡の魔王」達の邪魔をしよう!」

タロウの決意を聞いたメデ美が、少しだけ真剣な表情を見せる。

「……宜しいのですかタロウ様? 我も人間の魔物使い集団とは何度も相まみえた事がございますが、ゴーレムを扱う集団はなかなかに曲者でございましたぞ」

「ゴーレムを扱う集団って他にもたくさんいたのか?」

「いえ、一つの集団だけでございました。人間の魔物使いは基本的には、ミノタウロスとオークしか使役できないようなのですが、その集団に限り基本以外の魔物を用いて実に嫌らしい攻撃をしかけてきました」

「きっとそれがあそこにいる「傀儡の魔王」だな。要塞都市で三大ギルドに連なるだけはあるわけだ」

タロウは「ぺろり」と唇を舐めながら鼻で笑う。

「ちなみにメデ美。奴らは基本以外の魔物を使役できているようだが、そいつらと個々の力勝負はもとより、集団戦においても負けないよな?」

「はい、個々の魔物達の力は我よりも格下でございますので、個人戦でも集団戦でも蹴散らしてみせまする。ただ……どうも人間の「知恵」というものが加わると、一筋縄ではいかなくなる次第でして……。ある意味、今のアンデッドドラゴンを見て頂ければ分かるかと思われまする」

「大丈夫。そこは心配するなメデ美。俺がちゃんと支援するからさ。良く言えば「効率的な発想」、悪く言えば「姑息」、面倒くさがりだったせいか楽をする為の「効率的な発想」というのは、俺も昔から得意だったから任せておけ」

「――ははっ! 我はタロウ様のお導きに邁進(まいしん)するのみでございまする」

メデ美はタロウに向かって深々と頭を下げる。

「では、早速、この前の御礼といきますか」

タロウは口の両端をつり上げて不敵な笑みを浮かべながら号令をかける。

「――プス子! アンデッドドラゴンの側まで行くぞ! 荷車を引け! メデ美もついて来い!」

「あい!!」

「ははっ!!」

タロウは荷車に駆け寄って乗り込むと、プス子に引かせて荒野に転がる岩を隠れ蓑にしつつ「傀儡の魔王」達の死角から近づいていくのだった。
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