FC2ブログ
 

よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第30話 嵐が過ぎて

いつものカウンター席で夕食を食べ終えたタロウは「のほほん」と果実ジュースを飲んでいる。

横ではプス子が嬉しそうに夕食をおかわりし続けており、メデ美は食後のデザートである生クリームの乗ったパンケーキを「なんたる美味!」と呟きながら幸せそうに食べていた。

太陽も沈んだ夕食時、この時間帯はレーデの酒場もそれなりの盛況をみせるのだが、この日はタロウ達以外に客は誰もいなかった。

レーデはいつも通りにカウンター内の厨房で、静かに仕込み作業を行なっている。

静かな店内にレーデの包丁の軽快な音が小刻みよく響く。

「(ま……恥ずかしくて誰も来れないわな……)」

タロウは心の中で苦笑いをしながら呟く。

今日「傀儡の魔王」の配下がレーデの酒場を襲撃してきた際に、この店の常連客達は誰1人としてレーデを助けようとはしなかったのだ。

ただ、遠巻きに野次馬として眺めているだけだった。

「(……というか、遠巻きに見ているしかないよな。難民街の魔物殺し達に、要塞都市の三大ギルドの一つに歯向かえという方が無茶な話だ)」

タロウは厨房の具材を煮ているお鍋の湯気を眺めながら、果実ジュースを一口だけ飲む。

「(しかし、レーデさんは気丈な女性だよな……。あんな事があったのに、いつも通りに酒場の女将の仕事をしているなんて……。やはり命を懸けて対魔物の仕事をしていただけの事はあるのかな。いや、でも……やっぱり女性だもんな。傷ついていないわけがないよな……)」

あの事件の後、レーデはすぐに服装を整えると、外で呆然と成り行きを見守るしかなかった魔物殺しなどの常連客達に向かって「今日もこのまま営業するから食べに来てね」と微笑みかけた。

流石に情けなさを痛感したのだろうか、常連客達は皆、一様に俯いて沈黙するしか無かった。

「(……でも、皆のお陰で片付けは、すぐに終わったから助かったな)」

常連客達はあの後「傀儡の魔王」の配下である魔物使い達の亡骸を難民街の共同墓地に運んで埋葬し、無力化したミノタウロス達はタロウの指示通り荷車に乗せて外に運び出して、野生に解放するという作業を手伝ってくれたのだった。

そして、荒らされた店内の片付けも皆が手伝ってくれたのだが、夕飯時のレーデの酒場には客は誰1人として来なかった。

「(……さすがに今日の今日では来れないか。少しは時間が要りそうだな……)」

タロウもデザートのパンケーキをナイフで切ってパクリと口に放り込むと、ふんわりと柔らかい生地と甘い生クリームの美味しさに心が幸福感で満たされる。

店内には静かな時間が流れ、タロウがもう一口、パンケーキを食べようとした時だった。

「――レーデーーーーーー!!!!!!!」

酒場の入り口からドスの効いた女性の大声が飛び込んでくる。

タロウが慌てて酒場の入り口を見ると、入り口に手をついて荒い呼吸を繰り返すリベエラの姿があった。

どうやら、今日の事件を聞きつけて駆けつけて来たようだった。

いつもとは違い、細いウエストには太い黒ベルトが巻かれており、そこには道具袋、携帯型の折りたたみ式ボウガン、鞭などの装備品が装着されている。

リベエラは銀色の髪を揺らしながら早足で店内に入ってくると、何食わぬ顔でいつも通りに仕込みをしているレーデに声をかける。

「――おいレーデ! お前、大丈夫なのか!? ケガは無いのか!?」

「見ての通りよ」

「…………はぁ。仕事で少し遠くに出かけていたから情報を聞いて慌てて帰ってきたんだが、とにもかくにも無事で何よりだ」

安心したのかリベエラは大きなため息を吐き出しながら、カウンター席に倒れこむように座る。

「……ところでレーデ。レイプされたって聞いたんだけど?」

「ちょっと胸を舐められた程度よ」

「……なんだ、その程度か。ま、犯されたとしても生きてさえいれば復讐はできるからな」

「そういうこと」

レーデとリベエラの会話をパンケーキを食べながら静かに聞いていたタロウだったが、内心は唖然としていた。

「(……この異世界の戦う女性は……つ、強い。というか……もはや怖い)」

タロウは果実ジュースでパンケーキを胃に流し込む。

「で、噂では何やら凄腕の魔物使い様が、酒場の女将のピンチを救ったって聞いたけど?」

リベエラは頬杖をついて半眼になりながら「わざと分からないふり」をしつつレーデに質問を投げかける。

レーデは包丁の手を休めることなく応える。

「ええ、うちの宿泊客であるタロウさんが、命の危険があるというのに、ただの酒場の女将である私を助けてくれたの。それはそれは格好良かったわ。あの「傀儡の魔王」の部下達を一瞬で血祭りよ」

レーデは包丁をまな板の上に置くと、両手を胸前で握り合わせて恋する乙女のように天を仰ぐ。

「そして、こう言ってくれたの。「傀儡の魔王」のギルドなんて俺が潰してみせます!!! 俺がレーデさんを命を懸けて守りますから!! ってね♪」

実に嬉しそうに話すレーデの言葉にタロウは果実ジュースを吹き出した。

その話しぶりを聞いたリベエラは怒りをあらわにする。

「――お前!! わざと負けたフリをしてタロ坊の優しさにつけこんだな!!!」

「(マ、マジですか!?)」

リベエラの言葉にタロウは女性の持つ強かさに驚愕する。

「――何を言ってるのよ! 私の足の古傷がどれほどのものかは貴方が一番知っているでしょ!!」

「うぐぐ!」

レーデの反論にリベエラは言葉を詰まらせる。

どうやら、レーデが昔のような力を出せないのは事実のようだった。

それを聞いたタロウは内心「ほっ」とする。

「(……レーデさんがピンチだったのは事実なんだな)」  

「というわけで、タロウさん。今日からは私の酒場の「用心棒」になってもらえると嬉しいんだけど。もちろん、宿泊代金は無料にさせてもらいますから」

レーデがウインクしながら提案してくる。

「え? 用心棒?」

タロウはレーデの急な提案に思わず聞き返してしまう。

「――あーー!? てめーレーデこの野郎!! それが狙いだったんだな!!! 宿泊費をタダにしてタロ坊をここにずーーーっと縛りつける気だな!?」

「うるさいわねリベエラ。これは宿主と宿泊客の問題よ。外野は黙ってなさい。というわけでどう? タロウさん」

レーデがにっこりと微笑んでくる。

「え、ああ。今後の事を考えると「用心棒」という名前を持った方が、抑止力はさらに上がるでしょうね。ただ、無料というのはちょっと申し訳がないので、料金は払わせて頂きます」

「あら……そう? なら、宿のサービスの方をより充実させて頑張らせてもらうことにするわ♪」

レーデが「にんまり」と微笑みながらウインクしてくる。

「は、はあ……それならまあ」

タロウは「食べ物が良くなるのかなー」程度に考えて納得する。

しかし、レーデの「怪しい」微笑みに女の直感が働いたのかリベエラが慌てて怒鳴る。

「レ、レーデ! お、お前、まさか!! 性的なサ――」

リベエラの言葉を遮るようにレーデが怒鳴り返す。
 
「うっるさいわねリベエラ!! 食事のグレードを上げるだけよ。あんたと一緒にしないでちょうだいな!」

「――ぐむむ!!」

ぴしゃりと言い返されてリベエラはカウンターに突っ伏してしまうのだった。



騒がしい会話の後、リベエラはレーデの無事を確認できて安心したのか果実ジュースを注文すると、気だるそうに頬杖をつきながら植物の茎らしき物でできたストローで飲んでいる。

「しっかし、タロ坊。あんたピンクメデューサに「多重処理詠唱(マルチプルロード)」を使わせたって本当かい?」

「なんか、そういうのがあるみたいですねー」

適当に応えるタロウに対して呆れたようにため息を吐くリベエラはレーデの方を見る。

レーデは真剣な表情でリベエラに頷いた。

「本当よ。私はこの目で見ましたからね。髪を蛇化させての多重詠唱。4体のミノタウロスの手足を氷塊の枷をはめて一気に無力化させたわ」

レーデの言葉を聞いたリベエラは驚きと感心のため息を吐き捨てる。

「……どうやら本当みたいだね。ちなみに、その噂はもう要塞都市中を駆け巡ってるよ。要塞都市連中に限れば、まだまだ、どこまで信じるかにもよるだろうけど、肝心の「傀儡の魔王」は速攻で詫びの書状を部下に持たせて私の所に来ていたわ。あれは部下の暴走だから本意では無いってね……」

「あらそう」

レーデはあっけらかんとした表情で応える。

「そういえばタロ坊。ここに来た「傀儡の魔王」の部下を1人だけ生き証人として帰らせたんだってね」

「まあ、そんな感じです」

リベエラは唇の端を上げて面白そうに笑う。

「タロ坊もなかなかに男じゃないか。「傀儡の魔王」がタロ坊の実力を知ったおかげで先方が先に折れてくれたわけだ。三大ギルドはバランスが拮抗しているからね。正直に言って、レーデの為に「傀儡の魔王」の連中と戦争ができたかどうかは微妙なんだよ」

リベエラは悔しそうに呟くと、それをレーデが優しく慰めた。

「分かっているからリベエラ。三大ギルドは、いわゆる三すくみの状態。弱みを見せれば、そこを突かれて食われてしまう。今件で言うならば「殲滅の王道」がきっと黙っていないからね」

「悪いなレーデ」

「いいのよ。私は辞めた人間だし、現役のリベエラ達に迷惑はかけられないわ。それに、そもそもこれは私の意地で喧嘩をふっかけたわけだしね」

「タロ坊の為ってか?」

「当たり前じゃない。お姉さんが守ってあげるって約束したからね。でも、逆に助けてもらったし、これからは守ってもらう側だけども♪」

レーデは黒髪のポニーテールを揺らしながら厨房内を動き回っている。 

「あー……羨ましいなー……。ピンクメデューサに魔法を使わせる事ができる魔物使いを「たかが宿代」だけで「用心棒」にできるとか、どんだけ幸運なんだよ」

リベエラは口先を尖らせながらレーデを羨ましがる。

「なータロ坊ー。こんなボロ宿にいないでさー。私のマンションにおいでよー。最上階だから眺めもいいしー、部屋は一杯あるしー、風呂もあるしー、高級料理もあるしー、もちろん「あ・た・し」付きだし~♪」
 
リベエラはタロウの頭を撫でり撫でりしながらタロウを誘惑する。

「誰の宿が「ボロ宿」なのよ!!」

レーデが聞き捨てならないと眉間にシワを寄せるが、リベエラは全く気にもとめずにタロウの頭を撫で続ける。

「いやー、お誘いは嬉しいんですけども俺、レーデさんの料理が好きなんで、ここでいいです」

リベエラの誘いにどう応えるのかとジト目で見つめていたレーデは歓喜の声をあげる。

「――きゃー♪ その答えは満点よタロウさん!!」

レーデはカウンターから身を乗り出すとタロウの首に抱きついて頬に熱烈なキスをしてくれる。

「(ま、正直な所、ヒモになるほどお金にも困ってないしな。他人と同居というか、ご厄介になるというのは気も使うし、そもそも魔物娘達とのラブラブ生活を満喫できないから、遠慮しておきたいところなんだよな。そんなことをするぐらいなら野宿でもして自由に生きていく方がまだ楽しそうだ)」

タロウは「あははは」と苦笑いを浮かべるがリベエラは「ちぇっ」と口を尖らせて拗ねるのだった。

「しっかし、あのお固いレーデが男の首に抱きついて頬にチューとはね。よっぽどタロ坊の事が気に入っているんだね~」

「――え!? あ、あら嫌だ!! 私ったら!!」

リベエラに指摘されたレーデは驚きの声をあげると、タロウの首から慌てて離れて厨房にそそくさと戻る。
  
「……ま、私には「タロ坊との例の約束」があるからね。慌てず勝負させてもらうからいいもんね」

慌てるレーデをどこか楽しそうに見つめながらも、リベエラは自信に満ちた笑みを浮かべながら小さく呟くのだった。

リベエラは果実ジュースの残りをストローで吸い上げて飲み干すと席から立ち上がる。

「それじゃレーデ。私はそろそろ帰るわ」

リベエラの呼びかけに、先ほどのパニックから少しだけ落ち着いたレーデが「あ、うん。またね」と厨房内で鍋の中身を混ぜながら返事を返す。

「タロ坊も今日はお疲れ様」

リベエラは席に座るタロ坊の横に立つと、優しく微笑みながらねぎらいの言葉をかけてくれる。

「あー、いえ。できることをしただけです」

タロウの殊勝な態度にリベエラは頷きながら微笑むと、タロウの顎先に手を添えて顎を上に押し上げると、上に向いたタロウの唇にリベエラは自身の真っ赤なルージュで光る肉厚な唇を重ねてくる。

リベエラの唇の温かさを感じるタロウ。

数秒ほどで唇を離したリベエラは自身の唇を舌先で「ぺろり」と舐める仕草を見せた。

「私の親友を救ってくれたご褒美よ」

リベエラはそう言ってウインクをして、美しい銀髪をさらりと翻して背を向けると、レザースーツの肉感的なお尻を振りながら酒場を出て行くのだった。

そんな大人の女性の余裕なアプローチにタロウは呆然とリベエラの後ろ姿を見送るしかなかった。

「……リベエラめぇぇー……」

ドスの効いた声に我に返ったタロウは厨房内に視線を向けると、メラメラと瞳を燃やしながら親指の爪をガジガジとかじるレーデの姿に苦笑いを浮かべる。

だが、タロウは気づいていた。

静かな時間が流れていたこの酒場に少しだけいつもの明るさが戻ってきたのは、落ち着いた感じのあるリベエラがいつもとは違い元気に騒いでくれたおかげであることを。

「(これが親友ってやつなのかなー。何だか少し羨ましいな)」

タロウは心の中でそう呟きながら果実ジュースを飲むのだった。
関連記事



*    *    *

Information