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よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第19話 仕切り直し

タロウはプス子とメデ美を連れて、難民街へ戻ると女将レーデの宿屋に向かう。

途中、通り過ぎる魔物殺し等がタロウ達を唖然としながら見つめていたが、タロウは無視を決め込んで平然と道を歩いて行く。

日はまだ真上にも昇っていないが、タロウ達は女将レーデの宿屋の前まで帰ってくる。

タロウはプス子とメデ美をその場で待機させておくと、元気良く声を出して宿屋の入り口をくぐる。

「レーデさん、ただいまー」

「あら、タロウさん。どうしたの? 忘れ物かしら?」

「いえいえ、帰って来ました」

「帰って来たって……。まだお昼前じゃない」

女将レーデはカウンターの中でお昼用の仕込みをしているようだった。
 
「いや、まあ。午前中に色々とあり過ぎまして。今日はもう疲れたなーと」

「あら、いきなり大物でも仕留めたの?」

「ええ、まあ。ある意味、大物を」

「――そうなの!? やったじゃない!! それなら、これからの宿賃も大丈夫そうね!」

女将レーデはタロウの報告を我が事の様に喜んでくれる。

「あ、いや、ちょっとその事で相談が」

「ん?」

「実は新しい魔物を仕入れまして。その魔物を買うのに全財産をはたいてしまったので、新入りの今日の分の家賃が無いんです」

「あらま」

「そこで、先払いした分の1日分を新入りに当ててもらいたいんですが、大丈夫ですかね?」

「え、ええ。それはもちろん大丈夫だけれども。何の魔物を仕入れたの?」

女将レーデの問いかけに、タロウは入り口前に待たせておいたメデ美を呼ぶ。

「おいでーメデ美」

メデ美は恐る恐る、蛇の胴体をズルズルと蠢かしながら宿屋の中に入ってくる。

「いやー、実は商店通りで超レア種の……」

タロウは少しでも場の雰囲気を明るくしようと作り笑顔を浮かべながら説明を試みようとしたのだが、タロウがメデ美から女将レーデに目線を移動させた瞬間、それはすぐに無理だと分かった。

なぜなら、既に女将レーデはカウンターの上に立ち、どこから取り出したのか片刃の長剣を構えていたからだった。

長い黒髪を後ろで結いでいるポニーテールが、ふわりと空中から下りてきて定位置に戻る。

少し鋭い感じの目が更につり上がってしまい、右目の下にある泣きほくろの色気は今や微塵も無い。

平凡な紺のスカートに真っ白い腰エプロン。

上着はおっぱいの上半分が「むぎゅっ」と飛び出すような白色のコルセットで、酒場兼宿屋の女将としてエロい演出も大事にしている衣装で長剣。

そのちぐはぐな感じを見て、タロウは思わず「コスプレっぽい」などと思ってしまう。

「――ピ、ピンクメデューサ!!??」

「(さすがは元「魔物狩り」かー……。知らないわけは無いよな。つーか、それにしても身のこなしが超早いな。レーデさん、強そうだとは思っていたけれど、どうやらかなりの猛者っぽいな)」

女将レーデの態度で察しがついたメデ美は、困った顔でタロウを見る。

タロウは「大丈夫、大丈夫」とメデ美の肩を叩く。

「あー、どうどう。レーデさん落ち着いて」

「お、落ち着いても何も、その魔物はピンクメデューサじゃない!!!」

「俺の魔物奴隷ですので、ご安心を」

「――な!?」

タロウの一言に女将レーデは更に驚愕する。

「ま、魔物奴隷ですって!!?? ピンクメデューサを魔物奴隷になんて、できるわけないじゃない!!!!」

「そう言われても。秘技中の秘技を使いまして。ええ」

タロウは例の便利な言葉を使う。

「――ひ、秘技ってタロウさん貴方ね!!」

「ほれほれ」

タロウは横にいるメデ美の頭を撫で撫でしてみせる。

次に、メデ美の胸前に手をかざして「お手」と言うと、メデ美が素直に右手をタロウの手に乗せる。

「――な!?」

「俺の手にかかれば素直なもんですよ」

「あ、貴方一体……」

「ちょっと珍しい魔物使いですってば」

「め、珍しいなんてものじゃないわよそれ。ピンクメデューサを従えるなんて要塞都市のギルド連中だって無理。いえ、今までの人間の歴史上でも無いわよ!?」

「いやー。でもまー、そういう特異な者がしれっと現れる。というのが、だいたい世の中の常でしょ? 魔物使いだって、一番最初の人がいたわけでしょうし。皆、かなり驚いたんじゃないですかね。魔物を使役するとは信じられないって」

「……う。た、確かに」

「今、レーデさんは魔物使いの新しい段階を目にしているだけですよ。ただし、これは俺の力ですから、一般化はしないでしょうけどもね」
 
「……プス子ちゃんで凄いとは思っていたけれど、どうやら魔物使いとして規格外のようね」

「まー、魔物(主にメス)を使役することには、それなりに自信があります。ただ、俺自身はあんまり強い方ではないんですけどもね」

「そのピンクメデューサは、もしかして最近ギルド連盟が追いかけていた魔物かしら?」

「ええ、その通りです」

「ギルド連盟が取り逃がして、他の魔物狩り隊が捕獲したとは聞いていたけど、それをタロウさんが魔物奴隷商から買ったということは殺処分せずに店に並べていたわけね……」

「詳しいですね」

「元魔物狩りだからね。今も街の情報には、触れるようにはしているの。その店主、きっと店の宣伝だとかで見世物にしていたんでしょ」

「まったくその通りでした。ま、そのお陰で超レア種を手に入れられたので、俺にとっては幸運でしたけどもね」

「はー……」

女将レーデは大きなため息をひとつ吐き捨てると、カウンターから降りてタロウ達の前に立つ。

だが、剣はまだ握ったままで完全には警戒を解いてはいない。

「本当に大丈夫なの? そのピンクメデューサは」

「どうぞメデ美の目をご覧に」

女将レーデはメデ美の瞳を見つめる。

「噂が確かなら、人間達に対して相当の恨みを持っているはずなんだけどもねー。実にキラキラとした綺麗な瞳をして……。ほんと、どうしてこの状態で使役できるのかさっぱり意味不明だわ」

「調教内容は秘技なんで詳しく言えなくてすみません。ただ見ての通り、調教の基礎段階は既に済んでいるので、実に大人しいもんです。そうだ。プス子ーおいでー」

タロウは外に待たせているプス子を呼ぶ。

プス子は「うー!」と元気よく声を出しながら宿屋に入ってくる。

「プス子ちゃんは相変わらず元気そうね」

「プス子も新しい魔物奴隷仲間が出来て喜んでます」

「あい!」

プス子は「うー!」と嬉しそうに返事する。

プス子の嬉しそうな声と仕草を見て女将レーデにも伝わったのか、女将レーデが思わず微笑む。

「あらあら。本当に嬉しそうねプス子ちゃん」

だが、女将レーデはその顔に浮かべた微笑みをすぐに真剣な表情に変えるとタロウを見る。

「ピンクメデューサのメデ美ちゃんが、タロウさんの調教技術で支配下に置かれているということは分かったわ。でもね、タロウさん。これは大変な事になるわよ」

「大変なこと?」

「この魔物はギルド連盟に痛手を負わせた魔物なの。ギルド連盟は取り逃がした魔物を捕獲してくれたという事で、魔物の身柄こそ、その商人に譲ったかもしれないけれど、それはあくまで「いずれは殺処分にする」という密約があったはずよ。それが「生きている」となると話がややこしくなるわ……」

女将レーデは頬に手を添えて考えこむ。

「いや、でもレア種などは私達が扱えないから殺処分するだけであって、扱える者がいる以上は殺処分の要求はできないわね……。今までは、あくまでそうするしかなかっただけだから。既に、事件は決着済みとして報酬も支払われたらしいし、今更、魔物殺しギルドと魔物狩りギルドがいちゃもんをつけてくるとは思えない……。でも、たぶんあいつはきっと黙っていないはずよ」

「あいつ?」

「魔物使いギルド「傀儡(くぐつ)の魔王」のギルド長。通称、魔王ギリシュ」

「魔物使いギルドのギルド長ですか……」

「ええ、魔王ギリシュは、そこらの魔物使いが扱えない魔物を使役するがゆえに、その強大な力で三大ギルドの一角を担っているの。魔物殺しギルド「殲滅(せんめつ)の王道」、魔物狩りギルド「鉄獄(てつごく)の檻」、そして、魔物使いギルド「傀儡(くぐつ)の魔王」よ。他にも中小、様々なギルドがあるけれども、この3つが要塞都市の主戦力になるわね。魔王ギリシュの使役する魔物達も規格外だと思っていたけど、タロウさん、貴方はそれよりも遥か彼方に規格外。はっきり言って無茶苦茶よ。ピンクメデューサの使役に成功したなんて噂は、きっと瞬く間に要塞都市を駆け巡って魔王の耳にも届くわ。そうなった時、きっと貴方の調教技術を狙ってくるわよ。どんな手段を用いてもね」

「なるほど、同業者というわけですか。確かに競争相手ですもんね」

「なにを悠長な事を言っているの!?」

女将レーデが真剣な表情で怒る。

「ああ、すいません。確かに狙われるのは面倒くさいですね。もうこうなった以上はある程度の覚悟は決めますが、やれることはやっておくつもりです」

「やれること?」

「ええ。とりあえずメデ美には木の棒を装備させて、魔法が得意な魔物なのに近接戦闘をさせているという感じにしておきます」

「……なるほど、そうね。レアな魔物を連れいている魔物使いはだいたいが「そんな感じ」だからね。タロウさんも、あくまで見栄で連れているという風にしておけば、多少は皆の動揺を抑制できるかもしれないわね。分かったわ。私のツテで、そういう噂を流しておくわ」

「本当ですか?」

「ええ、まかせておいて。タロウさんはうちの大事な長期滞在のお客様ですからね!」
 
「ありがとうレーデさん。ちゃんと稼げたらここに住みまくりますので!」

「――あら、本当!?」

「ええ、本当本当。むしろ、こちらからも宜しくお願いします。長期滞在しまくりますので、今後ともひとつ若輩者の俺を助けて下さいませ」

タロウはぺこりと頭を下げる。

「――わ、分かったわ!! このレーデさんにお任せあれ!!」 

女将レーデは姉御肌なのか、年下のタロウに頼られてとても嬉しそうだった。

「ちなみに……本当はメデ美ちゃんに魔法を使わせられるの?」

「たぶん、いけると思います」

タロウの言葉を聞いた女将レーデは信じられないといった表情で顔を左右に振る。

「もう、本当に無茶苦茶ね。ピンクメデューサは魔法の天才よ。人間や魔物にも扱えない独自の強力な魔法が使えるらしいわ。お願いだから、魔物奴隷に返り討ちにされて殺されないでよ?」

「大丈夫ですよ。俺も魔物使いの天才なんで!」

「んもう! 調子の良いこと言って!」

「えへへへ。まー、本当に大丈夫ですから」

タロウの本心は「たぶん大丈夫」なのだが、ここは女将レーデに安心感を与える為にも強気で「本当に大丈夫」にしておくタロウ。

「んじゃ、俺達はお風呂を頂きます。メデ美の体を洗いたいので」

「ああ、そうね。だいぶ汚れているみたいだからそうした方がいいわ」

「あ、それと。出世払いで返しますので、メデ美に何か服を頂けませんか?」

「私のお古で良いのかしら?」

「ええ、もう何でも結構です。お金を稼いだら服や装備品など新しいのを買うつもりなんですが、それまで裸というのも可哀想で」

「ほんと、タロウさんは優しいわね。分かったわ。タロウさん達がお風呂に入っている間に、私の着なくなったお古をお部屋に置いておくわ」

「助かります!」

タロウは深く頭を下げた。

「いいのいいの! 何かあったら遠慮なく言ってね♪」

「――はい! お世話になります」

タロウはメデ美とプス子を連れて二階の自室へと戻る。

メデ美は蛇の胴体で器用に階段をするすると上ってタロウの後をついてくる。

「(昔から蛇を見て思っていたけど、あの蛇行運動で前に進むのって面白いよなー)」

タロウはメデ美を振り返りながら感心するのだった。
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