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よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第16話 初狩りorピンク

タロウは賞金換金所を出ると、受付の若い男からもらった「魔物案内書」を読みながら歩く。

「(観光パンフレットみたいだな)」

タロウは思わずそう例える。
なにせ10ページ程度の実に薄い小冊子なので、要塞都市へ初めて来た魔物殺し達用のまさに案内パンフレットなのだろう。

その中身はというと1ページの中に絵描きが描いた写実的な魔物の絵が数体、それぞれに数行の解説文と賞金額が縦に列記されているだけなのだが、この世界における魔物の基礎知識に乏しいタロウにとっては十分に役に立つ情報であった。

「なるほどなるほど。だいたいは見たことのある魔物達だなー。もちろん小説とかゲームの中での話だけども」

魔物案内書にはスライム、オーク、ミノタウロス、ゴブリン、コボルト、トロルなどなど、小説やゲームではお馴染みの魔物達が列記されている。

タロウはその中でも半魔獣の欄をじっと見つめる。

「プス子の言うとおり巨大な猪とか狼みたいな絵が書いてあるな。半魔獣ならば、どの種でも賞金額は銀貨1枚。スライムが銅貨1枚、ゴブリンが銅貨5枚というのを考えれば、どうやら初心者が狙う獲物では無いみたいだな……。確かに半魔獣はどれも牙や角が大きくて実に危険そうだもんな。本音を言えば手堅くスライムを狩りたいところだが、意思の疎通ができる魔物を狩るのはなるべく避けたいからなー。いきなりで少し怖いが、やはり半魔獣を狙うしかないか」 

タロウはちらりと後ろを振り向くと、タロウの後をついて歩くプス子が腕を掲げて魔物殺し用の討伐記憶の腕輪を物珍しそうに眺めている。

「うでわー♪」

プス子の嬉しそうな声から、どうやら装飾品として気に入っているようだった。

「プス子。今から半魔獣を狩りに行こうと思うんだけど、猪型が1体出たら弓矢を何本使う?」

「えーと。5本ぐらいです」

「狼型が1体出たら何本使う」

「うーんと。3本ぐらいです」

「弓矢だけで仕留めるのか?」

「そういう時もあります。でも、基本は足などを狙って動きを鈍らせた後に殴ります。近寄られると面倒なのです」

「なるほど」

どうやら、さすがのプス子でも安全策を優先する程に、無駄に大きい半魔獣を近寄らせるのは危険な事のようだった。

足を狙ったりして動きを鈍らせておき、危険の無い優位な立場を確立してから鈍器で仕留めるという形なのだろう。 

「猪型は単体が多いが、狼型は群れている場合が多いと書いてあるし、最初に買った弓矢の数だけでは心許無いな。もう50本買っておくか」

「あい!」

タロウは半魔獣を狩りに行く前には難民街にある商店通りに寄る予定だったので、賞金換金所を出た後はそのまま商店通りに向かって歩いていた。

タロウの目の前には既に商店通りが見えている。

宿屋の女将レーデに聞いておいた通り、賞金換金所を出て数分も離れていない近場だった。

「換金してから買い物をする客が多いだろうから、商売人とすれば近くに店を構えるのが当然だよな」

商店通りは木製の簡素な小屋が立ち並び、武器屋、防具屋、道具屋、食品店、奴隷商、様々な店が商売をしている。

人通りも賑やかで活気に満ちていた。

タロウは弓矢を買うべく武器屋を探すのだが、途中で十数人程度の小さな人だかりに遭遇する。

「(……なんだろ。特価品でも売っているのかな)」

タロウはその人だかりの人間達を観察すると、誰も彼もそれなりの装備をしており、どうやら一般人ではなく魔物殺しや魔物狩り、果てはオークやミノタウロスなどを連れている魔物使いなどの姿もあり、ほぼ魔物を獲物とする人間達が集まっているようだった。

「武器の掘り出し物かな」

タロウは何となく興味を抱いたので、その店先に足を向ける。

まばらな人だかりのせいか、特に何の押し合いもなくタロウは店先の前に立たった。

「……お」

タロウは店先を見て即座に理解する。

この異世界に来てから何度も見たことのある簡素な檻。

それは人間や魔物の奴隷を入れておく為の檻。

他の店と同じく小さな店構えで、奴隷用の檻も2つしかない程度のここらでは普通の奴隷商店であったが、問題はその中身であった。

2つの内、片方は空。
もう片方に1体の「魔物」が入っているのだが、この「魔物奴隷商」の店先に人だかりが出来ているのは、どうやら「それ」が原因のようだった。

檻の外にいる魔物奴隷商の小太りな男が満面の笑みで高らかに声を上げる。

「――さあ!! 見てらっしゃい寄ってらっしゃい!! この檻に捕らえたるは、ここ最近、魔物殺しや魔物狩りを32人返り討ちにしたと言われるあの噂の魔物です!! 先日、要塞都市のギルド連盟が討伐に乗り出すも取り逃がし、むしろ手痛い被害を受けたと言われるあの魔物ですよ!!!」

檻の中では1体の魔物がこれでもかと鎖で巻きつけられている。

上半身は人間の体。

下半身は巨大な蛇の胴体がとぐろを巻いている。

タロウにとってはゲームなどで見慣れた魔物がそこに居た。

「(……ラミア、なのか?)」

だが、ファンタジーの魔物に精通しているタロウでも、その答えに疑問符を付けてしまうのには色々と訳があった。

蛇の胴体の鱗は淡いピンク色。
それと同じく髪の毛もピンク色なのだが、なぜか丸坊主。

毛先がガタガタなのを見るに、どうやら乱雑に切られたことが伺える。

上半身の人間の体は衣服もなく裸のままで、肌は透き通るように白く、張りの良い柔らかそうな巨乳があらわになっている。 

顔は面長で鼻筋は高く、つり目気味の大きな瞳。

年上の理知的かつ綺麗なお姉様と言った感じだった。

「(丸坊主の顔を見た時は少し判断に困ったが、どうやら魔物娘のようだな。だが、なんつーか、その……迫力が凄いな)」

ラミアらしき魔物は口に猿轡(さるぐつわ)をされ、手は後ろで縛られ、上半身の胴体は乳の上側、下側に鎖を腕の上から何重にも巻きつけ、下半身の蛇の胴体部分にも何本もの鎖を巻きつけて、それぞれを檻の鉄棒に結んでいる。

まさに「封印」と言ってもいいぐらいの厳重さだった。
 
そんな中で、ラミアらしき魔物娘は眉根を寄せ、つり目を見開いてギョロリとさせると、まるで般若のお面の様な形相でタロウ達を睨みつける。

その迫力たるや、タロウは顔を引きつらせて無意識にたじろぐほどであった。

それは他の見物人も同じだったらしく、屈強な男達が「うわー……」と小さい声を漏らしながら後ずさっている。

そんな見物客の中の1人が奴隷商に声をかけた。

「どうして、その例の魔物を要塞都市の奴隷商じゃなくて、お前みたいな難民街の奴隷商が扱っているんだよ!!」

その声に、他の見物客も「そうだそうだ!」と声を出す。

「良い質問ですねお客さん。この魔物はギルド連中を返り討ちにはしましたが、さすがに無傷ではいられませんわな。力を使いすぎて弱っている所に、うちの専属の魔物狩り隊が遭遇して捕らえたというわけです。この超レア種「ピンクメデューサ」を!!!!」

魔物の種族名を聞いてタロウは驚く。

「(――!? ラミアじゃなくてメデューサか! なるほど、どうりで厳重なわけだ。頭が丸坊主なのも蛇の髪を封じるためだろうな。しかし、目隠しをしていないということは、石化の魔眼とかは無いのだろうか……)」

魔物奴隷商の言葉を聞いて見物客達も「ほー……」「あれがあの……」などと納得していた。

そんな中、先程とは違う他の見物客が奴隷商に声をかける。

「で、あんたはこの魔物にかけられた大金を受け取ったのか?」

「いえいえ、さすがに私達だけの力じゃないですからね。あくまで最後の美味しい所に手を出したという感じなので、ギルド連盟が9割、私達が1割という取り分でしたが、金貨10枚を頂きました。ま、本音を言えばもっと欲しかったんですが、ギルド連盟に睨まれても堪りませんからね。へへへ!」

魔物奴隷商の話に見物客は「おー!」とどよめく。

「(……なるほど。つまりは、この茶番は魔物奴隷商の「自慢話ショー」というわけか……)」

タロウがそう結論した通り、既に周りは先程よりも見物客が倍以上に膨れ上がっていた。

そんな中、見物客の中の誰かが、また声をあげる。

「――おい魔物奴隷商! お前が魔物奴隷商で店先に客である俺達を集めたという事は、その「ピンクメデューサ」を売ってくれるんだろうな!!」

まるで喧嘩を吹っかけるような見物客の物言いに、魔物奴隷商は「にやり」と嫌らしい笑みを浮かべながら言い返す。

「――ええ!! もちろんですとも!! こんな「化物」を扱えると言われるなら、どうぞ持って帰って下さいな!! 銀貨4枚で結構ですよ? さあ! さあ!! さあ!!!」

魔物奴隷商の強気な言葉に、その見物客は「むぐぐ……」と口を結んで言葉を失う。

その様子を見て、周りの見物客がどっと笑い、魔物奴隷商による見物ショーが盛り上がる。

タロウはケタケタと笑う隣の魔物殺し風の見物客に声をかけた。

「今のはどういう意味ですかね?」

「ん? ああ、あの魔物「ピンクメデューサ」ってのは超レア種でな。俺も生まれて初めて目にしたが、ああいう強力かつ凶悪な魔物はギルドの凄腕の魔物使いですら扱えない種だから、基本はその場で殺すのが普通なんだよ。あの魔物奴隷商も売り物にならない魔物だと分かっていながら生け捕りのまま持ち帰ってきたのは、ああやって見世物にしながら自慢話をする為さ。時々いるのさ、ああいう輩がな。ま、俺達にとっては魔物の知識が増えるので悪くないがね」

「じゃあ、銀貨4枚で売るというのは嘘なんですかね?」

「さあな。あれだけ言うんだから売るつもりはあるんだろ。ただ、実際は買う奴の方がいないからな。モノ好きが剥製にするために買うかもしれんが、たぶん誰も買わんだろ」

「ということは、いずれは殺処分ですかね」

「だろうな。あんな凶悪な魔物をいつまでも置いておくわけにもいかないだろうし、あの魔物奴隷商が自慢に飽きたら殺処分して、自分の店の置物として剥製にでもするんじゃねーの」

「……なるほど」

タロウは隣の魔物殺し風の見物客に軽く礼をすると、視線を前に戻して魔物奴隷商と鎖でがんじがらめになっているピンクメデューサを見つめる。

魔物奴隷商は店の宣伝にでもなると考えているのか、今もなお、集まり続ける人だかりにご満悦の様子だ。

魔物奴隷商は自分の背の高さ程度の棒を取り出すと、それを仰々しく構えてから檻の中のピンクメデューサの腹部を力いっぱいに突く。

「――うぐっ!!」

鎖に巻きつけられ猿轡をされているピンクメデューサが呻く姿を見て見物客が「おー!」とどよめく。

その反応を見て魔物奴隷商の男も「へへへ!」と嬉しそうに笑う。

魔物奴隷商は実に楽しそうに声をあげる。

「――さあ!! さあ!! 当店が仕入れたる超レア種「ピンクメデューサ」は銀貨4枚ですよ!! 残念ながら1体しかいませんので早い者勝ちですよ!! なにせ既に絶滅したと言われている種族ですからね!! 次の入荷は未定、というか二度とないかも!! さあ、誰か買われる方はいませんか!?」

皆が「誰も買えない事を知っている」という暗黙の了解の中で、見物客達は「俺、買ってみようかな」とか「無理だよ」とか言いながら笑いあっている。

ピンクメデューサは自分を見世物にして笑う人間達を、あの憎しみに満ちた目で睨み続けていた。

タロウはそんなピンクメデューサを見つめながら悩む。

「(……何の縁かは分からないが俺の全財産が残りちょうど銀貨4枚と少し。買おうと思えば買えない事も無い。しかし、プス子の時とは違い、これだけの観客の注目の中ではあの魔物娘と対話するのは難しい。となると、どんな性格かも分からずに買わなければならないということだ)」

ピンクメデューサの目がタロウの視線と重なる。

タロウはその凄まじい憎しみの目線に思わず目を逸らしてしまう。

「(……こえー。マジこえー……)」

普通なら絶対に買わない。

タロウは風の谷のお姫様のナ●●カではないのだ。

人間に対して凄まじい敵意を向ける犬や猫などの動物を、対話もなく懐かせる自信など微塵も持ってはいない。

「(……でも、俺にとって魔物は犬や猫ではなく、言葉の通じる相手なんだよな……)」

タロウは後ろにいるプス子を見上げてみる。

プス子は無表情のまま、その大きな単眼で檻の中のピンクメデューサを見つめていた。

「あの魔物を知っているか?」

「いえ、あの種族自体、初めて見ました。ただ、私もああいう風に檻に入っていた事を思い出して少し悲しくなりました」

「そうだったな」

「でも、タロ様のおかげで今は「こちら側」にいます。私は本当に幸運です」

「ああ……」

プス子の言葉にタロウは小さく頷く。

残念ながらタロウは絵物語の中の様な「ヒーロー」ではない。

それは、タロウ自身がよく自覚しているし、むしろ、この異世界で早死しないために自分に言い聞かせて戒めている事でもある。

タロウは、この異世界へ「旅行チケット」が当たって遊びに来ただけなのだ。

ありとあらゆる魔物を救うためにこの異世界へ来たわけでは無いし、そもそも、そんな大変なことをするつもりなど毛頭無い。

いかに魔物娘達とウハウハして楽しむか。
それがタロウの一番大事な事なのである。

プス子を魔物奴隷として買い上げて助けたのも、第一にプス子を「気に入った」からであり、決して善意だけの行為ではない。

だからこそ、タロウは眼前のピンクメデューサが自分にとって必要か不必要かを真剣に吟味する。

「(……「超レア種」の魔物娘か。既に絶滅したとも言われる種族。つまりは自分が欲しい時に手に入る魔物娘ではないわけだ。下手をしたら二度と巡り合えないかもしれない。買うなら今しかないよな。いつ剥製にされてもおかしくないし、もしライバルでも現れようものなら銀貨4枚ちょうどしか持っていないから、あっさりと競り負けてしまう。魔物娘ハーレムを築くには間違いなく買いだ。買いなんだが……むむむ)」

ピンクメデューサの「女」としての素材はとても良い。

色白で巨乳で理知的なお姉様っぽい面長の顔立ちで、クールなつり目が美人で堪らない。

下半身が蛇なぐらいド変態紳士のタロウにとっては何の問題も無い。

妄想たくましいタロウは、毛先がガタガタのピンク色な丸坊主の上からあらゆる女性的な髪型を重ね合わせて、魔物娘の整った姿を想像する。

「(長髪、セミロング、ショートボブ、このピンクメデューサは、やはりかなりの美人さんだぞ……。だがなー、なにせあの強烈な憎悪が怖い。あと凄腕のギルド連中を追い返したという強さも怖い。もし石化の魔眼なんぞを使われたら俺のチート能力でも防げないかもしれないしな。そもそも、まだ稼げてもいないのに、全財産を払って一文無しになるのもやばいよなー)」

タロウは「うがー」と唸りながら頭を抱える。

魔物奴隷商は棒でピンクメデューサをめった打ちしている。

その度に観客が賑やかに喜ぶ。

ピンクメデューサは歯をむき出し、ぎりぎりと悔しそうに猿轡を噛み締めながら己を殴る魔物奴隷商を睨みつける。

その目が癪にさわったのか魔物奴隷商が眉をひそめる。

「――なんだぁ!? 魔物のメス風情が!! お前の命をどうするかは俺の考え一つなんだぞ!! もっと頭を下げろ!! 人間様に迷惑をかけたことを詫びろ!!」

魔物奴隷商は先程よりも力を込めてピンクメデューサの頭を打ちつける。

「ゴッ」という棒と頭蓋骨がぶつかりあう鈍い音が辺りに響く。

ピンクメデューサの頭の皮膚が切れたのか、額を赤い血が伝わり流れ落ちる。

「――けっ! 生意気に人間と同じ色の血を流しやがって!」

魔物奴隷商はピンクメデューサの腹を突き、強引に体をくの字にして頭を下げさせる。

そんなピンクメデューサに向かって魔物奴隷商は小さな声で呟く。

「ま、一週間はこうやって俺の店の見世物にしてやるからよ。それが済んだら剥製にして俺の店の飾り物にしてやるよ」

魔物奴隷商はピンクメデューサの顔に「ペッ」と唾を吐きかけると、見物客に振り返って笑顔を振りまく。

「ほら、生意気な魔物もこうやれば素直に頭を垂れますよ!!」

その言葉に見物客も「あはは!」と軽快に笑う。

それらを見て、タロウは思った。

ただただ「胸糞悪い」と。

「(……しかし、だ。安易な感情に流されるわけにはいかない。俺はヒーローじゃない。ちょっとチート持ちな一般人なんだ。あの魔物娘の人間への憎しみようは相当な物だ。そんな危険な魔物を抱え込んだら後が大変だぞ。奴隷に返り討ちにあうなどまっぴら御免だ。超レア種の魔物娘は超絶に惜しいが諦めろ俺!! 見なかったことにしろ俺!!)」

タロウはギュッと目をつぶり、ピンクメデューサに背を向ける。

そして、その場から去ろうと足を上げる。

その時、魔物奴隷商がまた「あの煽り」を叫んだ。

「――さあ! さあ!! さあ!!! 当店が仕入れたる超レア種「ピンクメデューサ」は銀貨4枚ですよー!! 残念ながら1体しかいませんので早い者勝ちです!! 次の入荷は未定、というか二度と無いかもですよ!! なにせ既に絶滅したと言われている種族ですからね!! さあ、誰か買われる方はいませんかっ!?」

その瞬間、タロウの中で下衆な物欲が限界突破して弾ける。

「(――ああ!! もうくそったれ!! 扱えるかどうかとか、どうでもいい!! 金も一文無しになってもいい!! お姉様キャラなメデューサとエロいことをする!! それこそが俺がこの異世界に来た理由だ!!  というかあの魔物娘は俺の物だぁぁぁおらぁぁぁぁ!!!)」

タロウはその場で勢い良く振り返って、魔物奴隷商に向くと「ビシッ!!」と右手を上げて叫ぶ。

「――買ったぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」

その瞬間、魔物奴隷商も見物客も言葉を失い、しんと静まり返る。

タロウの声が「聞こえた」ピンクメデューサは人間達を睨むのを止め、きょとんとした目でタロウを見つめている。

タロウは呆然とする一同を放っておいて魔物奴隷商の前にプス子を連れて進み出ると、観客と同じく目を点にしている魔物奴隷商の手を取り、その手の平に全財産の銀貨4枚を叩きつける。

その銀貨4枚を見て魔物奴隷商は我に返ったのか、引きつった笑みを浮かべながら言葉をどもらせる。

「あ、いや、その、お、お客様? こ、これはね。あの、ほら。暗黙の了解と言いますか。ね。ただ、私はその、店の宣伝に、ええ。なので、あの。その、本当に売るというのは……」

魔物奴隷商が予想通りに「本音」を言おうとしだしたので、タロウはそれを阻止するべく用意しておいた言葉で一喝する。

「――あんたは売ると言いながら売らないのかっ!!! それではただの嘘つきではないか!!! 店の信用が無くなってもいいのか!!!」

タロウの叫び声に辺りはさらに静まり返る。

だが、先程、魔物奴隷商に言いくるめられた見物客らしき者が、タロウの叫びに同調するように声を上げる。

「――そうだそうだ!!! 買いたい客にはちゃんと売れ!!! それが商売だろう!!! もし、売らなかったらお前の店は嘘つきだと仲間に言いふらしてやるからなー!!!」

その声をきっかけに、見物客達から「売れ―!」「嘘をつくなー!」という大合唱が起こる。

さすがにこれだけの見物客の前では、魔物奴隷商も「実は売り物ではありませんでした」などとは言えず、店の信用を優先せざるおえなかった。

魔物奴隷商は眉尻を下げて情けない表情になると、うなだれながら「お買い上げ、ありがとうございます」と小さな声で言いながらタロウに頭を下げる。

その一言を受けて見物客達は勢い良く拍手を打ち鳴らし、やんややんやと大盛り上がりとなるのだった。

魔物奴隷商は終始しょんぼりと落ち込みながら、ピンクメデューサの蛇の胴体部分の鎖を解くと、鉄の首輪の先に伸びる鎖をタロウに手渡す。

ピンクメデューサは腕を後ろに縛られたまま、体の鎖も猿轡もそのままなので、あくまで歩けるだけだった。

檻から出てきたピンクメデューサはタロウよりも背が高く、タロウを無感情な目で見下ろしている。

「(うわ……意外に高いな。身長170cmの俺より高くて2mのプス子よりは低い感じだから、だいたい180cm程度といったところか。ただ、下半身が蛇の彼女に「身長」という概念が正しいかどうかは疑問だけどな……)」

タロウが思う通り、もしピンクメデューサの彼女が蛇の下半身を使って「立ち上がろう」ものなら、プス子の背丈を優に超えることは簡単な事だろう。

タロウは血や唾で汚れているピンクメデューサの顔を見て魔物奴隷商に声をかける。

「商品を少し綺麗にしたいんだが。布はありますかね?」

「は、はい!」

魔物奴隷商は腰に下げている布切れをタロウに手渡す。

タロウはそれを受け取るとピンクメデューサの顔を拭こうとするのだが、ピンクメデューサが猿轡の上から歯を剥き出しにして「シャー!!」と唸る。

「……拭くだけだ。じっとしてろ」

タロウの言葉に、ピンクメデューサは唸ることは止めるが、眼光も鋭く歯を剥き出しにしたままでタロウの行為を受け入れる。

一見すればタロウは落ち着いている様に見えるが、内心は「お願いだから暴れるなー」とビビりまくりだった。

ピンクメデューサの顔の汚れを拭き取ったタロウはその布切れを魔物奴隷商に返すと、魔物奴隷商はその布切れを受け取りながら話しかけてくる。

「あ、あの、お客様。首輪の色は何色にしましょうか……」

「あ、そうだった。えーと、戦闘用の黒色だけど。いくらだっけ」

「銅粒5つ(500円程度)です」

タロウは財布を覗きこむと、財布の隅でちょうど銅粒が5つと石貨が2枚だけ残っていた。

「(銅粒を払ったら残り石貨2枚。日本円なら約20円。こ、これで、ほぼ一文無し確定だ……)」

タロウは顔を少しひきつらせながら財布から銅粒を取り出すと魔物奴隷商に手渡す。

魔物奴隷商は「まいど」と呟くと、店の中から持ってきた魔物奴隷用の識別首輪をタロウに手渡す。

それを見て見物客達が歓声をあげる。

歓声の中には「目立ちたがり屋が」という罵倒もあったが、「無茶しやがって」という心配の声や「魔物奴隷にするつもりなら、あいつ死んだな」という嘲笑する声もあったりと、タロウがいかにヤバイ物に手を出したかが窺い知れる反応ばかりだった。

タロウはその場から立ち去るべくピンクメデューサの首から伸びる鎖を程よい力で引っ張っると、ピンクメデューサは凄まじく恐ろしい目でタロウを睨んできたが、首を引っ張られては仕方が無いといった感じで淡いピンク色の鱗が綺麗な蛇の胴体部分をずるずると蠢かせてタロウの後をついてくる。

プス子はピンクメデューサを警戒しながら、タロウを守るようにタロウの真横にぴったりと付いてくる。

今や50人近い数の人だかりの山が、真ん中からさーっと裂けるように別れるとタロウの通る道ができた。

「(俺、今日は初狩りに行って小金持ちになる予定だったんだけどな……。なぜか、ほぼ無一文になっちゃった。あは……あははははー……)」

タロウは心の中で渇いた笑い声をあげながら、超レア種かつ凶悪で有名なピンクメデューサのメスを引き連れて商店通りを離れるのだった。
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