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よあけの部屋

□ アイテムが本当にもらえるダンジョンゲーム □

16 協力者

ミルクの渇きという危機を何とか脱した誠人と、その誠人を救った雪子の2人は気まずさと恥ずかしさが充満した保健室の中で、お互いに一言も発すること無く宙を見つめていた。

誠人にミルクを提供した雪子は、その強烈な快感に体力を消耗してしまったのか、誠人が寝るはずだったベッドの上で気怠そうに仰向けに体を横たえていた。

そして、瀕死状態だったはずの誠人の方が今やミルク値が最大値まで回復できたおかげで、普段よりもむしろ元気満々な様子でベッド横の丸椅子に腰掛けている。

誠人はベッドで横たわる雪子に対して背を向けていたのだが、それは自然と頬が緩んでしまうのを隠すためでもあった。

「(……大田原さんのおっぱいは柔らかかったなー、あとミルクが超美味しかった!)」

誠人はまたも頬を緩ませる。

「(しかし……まさか女性のおっぱいから直にミルクを頂くという日がくるなんて想像もしなかったなー)」

ここで少し、誠人の過去について触れておこう。

彼は今でこそいじめられっ子になってしまい、話し方や笑顔がどこかぎこちない感じになってしまってはいるが、生まれながらのコミュ障というわけではない。

なにせ、小学校低学年当時は今とは違い真逆のリア充であったぐらいなのだから。

近所の幼馴染な女の子達には「将来は私と結婚して!」と取り合いをされていたぐらいだったし、親友の男友達の中ではリーダー格で皆を笑わせていたし、毎日が愉快なお祭り騒ぎだった。

勉強は苦手でおバカではあったが、元気で明るく、気が優しく、天然の女たらしで、人懐こく、礼儀正しい、コミュ障とは縁遠い状態であった。

しかし、環境は人を形成する大事なポイントには違いなく、小学校高学年から中学校の進学までに誠人以外の皆が引っ越しをした事で、その時までの人との繋がりという名の財産が全てリセットされてしまったのである。

全てを失ったと同時に中学校生活が始まったがゆえに完全な孤独に落ちいった誠人は、とうとうイジメの対象にされてしまうほどに転落してしまったのだった。

守ってくれる友もなく、逃げる場所もなく、頼れる者もなく、嘘の笑顔で親を安心させ、毎朝、ひりつく心臓に鞭を打ちながら登校して地獄に耐える日々。

それゆえに、誠人は友達がいなくなった時を思い出すと、今でも胸が張り裂けそうな程に悲しくなってしまうし、できれば二度と体験したくないと願っている。

「(……思い返しても辛くて苦しい毎日だったなー。でも、アイテムダンジョンクエストを手に入れることが出来たし、神田達をゲロクソまみれにして笑い転げたり、今日はまさかのおっぱいミルク! こんなに頬が緩んでしまうような事が起こるなんて! やっぱり明けない夜は無いのかもしれないね!)」

誠人は雪子の豊満なおっぱいとその感触を思い出す度にだらしなく緩む頬を慌てて両手で押さえつけた。

「(ああ、神様仏様! 今度の幸福はどうか一日でも長く続きますように!!!)」

誠人が両手を合わせて天に祈りを捧げていると、雪子がポツリと誠人の背中に声をかけてくる。

「……ねえ、日向君」

「は、はい?」

誠人は慌てて「ニマニマ」と緩む頬を何とか頑張って引き締めてから、ベッドで仰向けに体を休めている雪子に体を向けた。

「アイテムダンジョンクエスト……だっけ、もし本当にそんなに便利なゲームならば、その呪いを解除できるアイテムとかもないのかな?」

保健室の天井を見つめながら雪子が続けて呟いた言葉に、丸椅子に座っている誠人は目を見開きつつ小さく頷いた。

「……あ、えと、た、確かに。それが無い、とは言い切れないかも」

誠人はミルクの渇きによる辛さのあまり、実に単純で大事な事に気がつくことができなかったことに今更ながらに気がついた。

「(……そうか、しまった。部屋で倒れこんでいる暇があったなら、とことんまでアイクエで呪いの解除アイテムを探すべきだったんだ)」

誠人は自分の失態に気がついたせいで更に俯きつつ顔を悔しそうに小さくしかめるが、「いや、しかし」と考えなおす。

「(レアアイテム系の特殊能力を解除するとなるとこれまたレア系のアイテムだろうし、そんなものがこのたった数日で手に入るのか、と考えてみればその可能性はかなり低いよね)」

誠人は顔を上げると小さく顔を左右に振りながら雪子に顔を向けた。

「呪いを解除するアイテム。それが無いとは絶対に言えないし、むしろ、そういうアイテムさえあるのだろうとは思う。……けど」

「けど?」

雪子は誠人の方に顔を向けてくるが、雪子は人見知りに加えて男性慣れもしていないので、結局、気恥ずかしさから少しだけ目を逸らしてしまった。

しかし、誠人の方は平然と雪子の顔をじっと見つめていた。

どうやら、ここ最近の痛快な日々の中で少しずつ誠人の中にある元来の性格が息を吹き返し始めていたようであった。

「この呪いは、ある特殊能力に付属してきたペナルティというか、デメリットというか、ひとつのマイナス要素みたいなんだ。つまり、元々の特殊能力がかなりのレア系っぽいから、これを解除するとなると、同じくレア系ということになるだろうし、要するに簡単には見つかりそうもなくて」

「……そうなんだ」

なかなかに暗い現実を前にして、流石に2人でしょぼくれてしまう。

「(ヤバイ、自分で言葉にして更に実感してきたけれども、現実を考えてみると本当にヤバイかもしれない。呪い解除のアイテム探しをするにしても、数日でミルク値は枯渇してしまうし、そもそもミルク値が減少していく時点で体調も悪くなるし、安定かつ安全に解除アイテム探しをするにはミルク提供者の存在が絶対条件になる。でも、そんな簡単に大田原さん以外でミルクをくれる他の女性が見つかるなんて思えないし……)」

結局、救ってもらったとはいえ所詮は数日間の命を手にしたという程度でしかない現実を誠人は理解した。

「(ヤバイ、これはヤバイぞ)」

誠人は事の重大さに気がついて、体中がじんわりと汗ばむのを感じる。

「(……マゴマゴしていたら待つのは死だけ。つまり、ここはグイグイいくしかないわけで。そもそも心優しくて少しでも俺に恩義を感じている大田原さんを逃したら他には全くあてがないし、彼女の善意につけ込むようで心苦しくはあるけれども命が懸かっているとなるとそんな格好つけた事を言っている場合でもなくて、あーもう! 細かい事を考えるのはよそう! シンプルに単純に! 生き残るためにやれることは何でもやってみるべきだよね!!)」

誠人は少しだけ悶々と悩んだすえに丸椅子から立ち上がると、そのまま勢い良く保健室の床に土下座した。

「大田原さん!」

「え?」

誠人の急な土下座に、雪子はベッドから上半身を起き上がらせると、ベッド下で土下座する誠人に対して驚きの視線を落とす。

「呪いを解除できるアイテムが見つかるまで、その間だけで結構なので、どうかミルクを提供してもらうわけにはいきませんでしょうかぁぁ!!!」

「え、えと、そ、それはちょっと……」

雪子の困った声をかき消すように誠人は言葉を続ける。

「同時に! 同時にミルクを提供してくれる他の女性を探す努力も致します!! なので、せめて、せめてその間だけで結構ですので!! まだ死にたくはないんです! まだまだ生きていたいんです!! どうか俺を助けて下さい!!」

誠人は卑怯とは思いつつも、でも本当の事実でもある「自身の命の危険性」を訴えかけた。

「…………」

しばしの沈黙の後、雪子は諦めに似たため息と共に小さく頷いて答えた。

「……う、うん。けど、そのかわり、呪いを解除するアイテムが見つかるまでで、そして他の女性を探す努力も忘れないでね」

誠人は床にこすりつけていた額を離して勢いよく顔を上げると、女神様を仰ぎ見る様な大感動に満ち満ちた潤んだ瞳で雪子を見た。

「あ、ありがとう!!! 大田原さん、本当にありがとう!!!」

誠人は合掌しながらペコペコと頭を下げると、雪子は黒縁メガネのズレを直しながら気恥ずかしそうに顔を逸らして戸惑いの表情を見せるのだった。

「お、拝まないで下さい!」

頬を赤らめて困ったように呟く雪子に対して、誠人は感謝の言葉と共に拝み倒すのだった。

その後、頃合いを見て誠人と雪子は教室へと戻り普通に授業を受けた後、学校から帰宅した。



学校からの帰宅後は、夕食までの時間、夕食、風呂、寝るまでの時間、寝る。
という感じの誠人と雪子らしいぼっちな学生生活のプライベートタイムが残っているのみなのだが、今日は、いや、今日からは違うのである。

雪子はいつも通り誰もいない暗くて静まり返った大きな自宅にそそくさと帰宅すると、バタバタと自室に駆け込んで私服に着替えてから部屋の掃除を始める。

「あわわ、どうしてこんな事に、いや、私が提案したんだっけか、あわわ」

雪子は瞳を白黒させつつ「あわわ」という呟きを繰り返しながらバタバタと動きまわる。

誠人の願いを聞いた後、では今後はどうやって雪子が誠人に協力していくのか。
という細かい話を交わした結果、以下のように決まったのである。

・当たり前だが、雪子も実際にアイテムダンジョンクエストを見てみたいし、誠人の言っていることが真実なのかを確かめたい。

・誠人の家に女の子が来ると、誠人の母親がいるので色々と気まずい。
 そもそも、これから毎日の様に女友達として雪子を家に招待するのは無理がある。

・それならば片親で、その母親もあまり家に帰ってこない雪子の家で、これからはゲーム(呪い解除アイテム探し)をしようということになり、誠人がゲーム機ごと雪子の家に遊びに来ることとなった。

というわけである。

「えとえと! というか、私、女友達すら一度も家に呼んだ事ないんですけど! それがいきなり男子だなんて! あわわ! そういえば、ジュースはあったかな? スナックはあったかな? お茶の方が良いのかな? それとも和菓子のほうが良いのかな? あわわわわ!」

雪子は男友達?をいきなり自宅に招く事に対して軽いパニックになってしまいバタバタしてしまったせいで、コツコツと再収集を始めていたBLグッズを隠すのを忘れてしまうのだった。


誠人は一旦、帰宅してからリュックサックにゲーム機プレプレ4とアイテムダンジョンクエストのソフト、そして周辺機器を放り込んで背負うと、学生服のままで家を出ていこうとする。

「あら、誠人。どこに行くの?」

「ああ、母さん。ちょっと友達の所でゲームをしてくるよ」

「友達? 友達ができたの?」

「あー、えっと、うん」

少し言葉が詰まる誠人だったが、誠人の表情がどこか嬉しそうなのを感じ取った母親の友里江は笑顔で頷いた。

「……そう。なら、夕食までには帰ってくるのよ」

「はい、行ってきます!」

誠人は家を出ると、雪子からもらった地図を元に自転車をこいで行く。

「同じ校区内だから遠くは無いな。10分ちょいもあれば着きそうだ」

誠人は雪子の家に向かって自転車をこぎつつ息を弾ませる。

「(いつぶりだろう、放課後にゲームを持って誰かに会いに行くなんて)」

誠人の顔には自然と笑みが浮かび、その頬には赤みがさしており、どこか温かみのある人間味が溢れ出していた。

この日、誠人の長くて寒い過酷な夜が終わりを告げて、地平線の彼方からひょっこりと顔を見せ始めた希望と夢に満ちた黄金の太陽による眩い暁光が、誠人の心を明々と照らして始めるのだった。
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