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よあけの部屋

□ 伝説になる騎士は元勇者(改) □

第18話 悪態

 午前中の選択座学は朝の9時から昼前の11時までの2時間だが、間にトイレ休憩が10分だけある。
 俺は、そのトイレ休憩時間に1人で男子トイレへと行こうとすると、ウェンダリが連れションを熱望してくるので、仕方がなくアノンも連れて皆で連れションに行くこととなる。

 男子トイレの横にある女子トイレにアノンを放り込み、俺とウェンダリは一緒に男子トイレに入る。

 トイレとはいえ基本は貴族達の学び舎である。
 大理石の綺麗な床に窓からの陽射しも心地よく、実に清潔な空間だった。

 ウェンダリはもはや慣れたもので、便座のある個室にサッと入っていく。

 俺は小便をさっさと済ませると、個室にいるウェンダリに声をかける。

「先に出てるからなー」

「はーい」

 俺はウェンダリの返事を聞いてから、手を洗い、びしょ濡れの手を振りながら廊下に出ると、男子トイレの前で、腕組みをしながら冷たい眼差しで俺を虫でも見るかの様な目で見下ろす美しい金髪の女子が立っていた。

 金色の美しい前髪を横分けで斜めにぴっちりとさせて後ろの長髪を綺麗に巻き上げており、清潔感と共にどこか他人を寄せ付けない攻撃的な雰囲気が際立っていた。

 背筋が良いからか、はち切れんばかりの丸みと張りのある巨乳がより前方に突き出されており、その巨乳の下側で腕を組んでいる。

 キリリと凛々しい眉、眩い程に真っ赤に輝くルージュ。

 少し堀が深い西洋的な顔つきで、目も冴えるような美しい顔立ちなのだが、妙に凛々しい男前らしさをも何となく兼ね備えている。

 当たり前だが背は俺よりも高く、俺の頭が凛々しい金髪女子の腹部辺りという感じだろうか。

 それは彼女が特別に背が高いというのではなく、俺の背が低過ぎるということであり、大抵の女子は俺よりも背が高い。
 彼女の背丈はアノンとほぼ同じぐらいで、胸も大きく足がほっそりと長かった。

 学園から支給されているシンプルなカッターシャツとスカートという学生服は着ておらず、元の世界で例えるならば俺達の支給されている制服が公立学園ならば、彼女の制服は私立のブレザー系という感じだろうか。

 見るからに質の良さそうな紺のジャケットに、膝上、太ももの真ん中辺りが裾という短いスカートをはき、黒のソックスをはいている。

 その女子生徒の姿を見て、同じ教室の最上段のど真ん中の席で、いつも不機嫌そうに目を閉じている女子生徒が彼女だと俺は思い出す。

 しかし、その女子生徒がなぜここで立っているのかは分からなかったし、そもそも俺に用事があるとは思えないし、この女子生徒の前でウェンダリとアノンを待つのも落ち着かないので、とりあえず廊下側に出ようと、その凛々しい金髪な女子生徒の前を通り過ぎて行く。

 すると、凛々しい金髪な女子生徒は声を抑えながらも苛立たしそうな声で俺の背中を呼び止める。

「……ちょっと待ちなさいよ」

「……え?」

 俺はびしょ濡れの手を今もなお振りながら、顔だけで女子生徒に振り返る。

 女子生徒はムスロには体を向けず、最初の仁王立ちで前方を向いたまま眉間を寄せて片眉をピクピクと痙攣させていた。

「……私が無視をするのは当然よ。でも、あんたが私を無視するな」

 女子生徒は何やらとんでもない理論を歯を噛み締めつつ絞りだすように呟きながら、腕組みで仁王立ちしている体をゆっくりとこちらに向けた。

「……なんだお前? えらく口の悪い女だな」

「――ハァ!?」

 初対面のくせにとんでもなく態度の悪い凛々しい金髪な女子にイラっとした俺は、少し怒りを込めた口調で言い返すと、即座に女子は額に血管を浮かび上がらせながら甲高い声を出す。

「いや、だから誰だよお前?」

 と、再度、俺は眉根を寄せながら悪態をつき返すと、金髪女子は仁王立ちを崩して一気に俺の眼前に詰め寄ってくると、俺の胸ぐらを両手で掴み上げる。

 おいおいマジですか。
 いきなりの初対面で何というバイオレンスな女だこいつ。

 金髪女子は本当に我慢がならないのか俺を睨み殺しそうな目で見ながら、俺の顔に自分の顔を近づけて女の子らしくない低く抑えた声色で話しかけてくる。

「……何よ、うすのろ。前に私が二度と話しかけて来ないでと言った事を、まだ根に持っているの? だってしょうがないでしょ? 私とあんたでは住む世界が違い過ぎるのよ。何も知らなかった子供の時のように無邪気に友達でいられるとでも思ったの? あり得ないでしょ、このうすのろ! そもそも、私があんたを無視するのは当然! だって私は上騎士で、あんたは平民! 分かってるの、このうすのろ!!」

 俺は美しくも凛々しい金髪女子が口汚く罵る様を無表情で聞いていたが、内心は「うわ、やばい」と焦っていた。
 なにせ、この体の元宿主がまさかの上騎士らしいこの金髪女子と知り合いのようだったからだ。
 しかも、この話の感じだと「幼馴染」っぽいのである。

「……ああ、うん。ごめん」

 とりあえず、素直に謝っておく俺。

「――フンッ!!」

 俺が謝った事で少しは気が済んだのか、金髪女子は俺の首元から両手を離して一歩下がる。

「で、何か用か」

 俺は首元の歪んだ襟を正しながら、金髪女子に問いかける。

「……別に、大した用じゃないわよ。ただ、さっきの編入生を見て一つ気になってね」

 うわ……知り合いとなると、やっぱり「それ」か。

「あんた「姉」なんていたの?」

 女子生徒が「疑問符」で問いかけてきたので、俺はあえてシンプルに応える。

「いたよ」

「…………」

 金髪女子は俺の即答に思わず黙りこくる。

「……聞いた事ないんだけれども」

「だって、言わなかったからな」

「…………」

 凛々しい金髪女子は眉根を寄せながら、また黙りこくる。

「……そうね。所詮はただ小さい頃に公園で一緒に遊んでいた友達ってだけだもんね私達」

 金髪女子は「ふん」と鼻を鳴らすと、そのまま踵を返して廊下を歩いて行くのだった。

 どうやら、元宿主と彼女は、どういうわけか幼い頃に遊び友達であったらしいが、幸いにしてお互いの素性をあまり詳しくは知らないらしく、アノンを姉にした件が問題になるような事態には発展しそうにはないので、俺はため息混じりに安堵した。

 嵐のように去っていった金髪女子の背中を、俺が呆然と眺めていると、隣にそっとウェンダリが立つ。

「……ねーねームスロ。バニラさんと知り合いなの?」

 ウェンダリの問いかけで、俺はあの金髪女子がバニラという名前であることを知る。

「ああ、まあ……ちょっとだけな」

 俺は適当に応える。

「ふーん。でも、意外だね。上騎士家の彼女とムスロが知り合いなんて」

「……そうだな、俺も意外だよ」

俺はため息混じりにウェンダリに応えるのだった。
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