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よあけの部屋

□ 伝説になる騎士は元勇者(改) □

第15話 駄女神の処遇(どうしたものか)

「で、強引にこの異世界に来たのは結構だが、どういう立ち位置で参加するんだ?」

 俺の首に腕を回して俺の顔に頬ずりをしてくれるアノンに、俺は「さて、それでは本題だな」とばかりにそう問いかける。

 アノンは俺から離れると目をぱちくりとさせる。

 こいつ、何にも考えてきてねーな。

「え、女神様じゃダメ?」

「いや、ダメに決まっているだろう。それだから皆の前でも「女神様」とは呼ばないと言っているんだからさ」

「えー……」  

「だから、えー……じゃねえよ。というか、そもそも自称女神様だろうが。とりあえず異世界舐めんな。んで、住む場所は? 食事は? 風呂は? トイレは? お金を稼ぐ為に働く場所は? 俺はこの騎士学園を卒業するまでに後、約2年間必要なんだがその間をどうしのぐんだ?」

「え、え、えー?……」

 アノンは半泣きになる。

「そんなー、ファンタジーな異世界にまで来て、生活の為の労働なんてしたくないー」

 アノンは瞳を「うるうる」させながら口をへの字に曲げる。

 うむ、その気持ちは良く分かる。
 夢とロマンを追い求めて異世界に来たのに、明日の食費の為だけに労働するなどありえないわな。

 俺は自称女神アノンの頭を「ぽんぽん」と撫でる。

「なら、女神というのは俺達二人だけの秘密としよう」

 まー、自称女神なので名前それ自体は別に大した事はないのだが、問題は彼女の本質が「人間では無い」という所がばれると面倒になる。
 それゆえに、超人的な事はきちんと隠しておくのが妥当だろう。

「へ?」

「で、今日からアノンは俺の「お姉さん」という事にしよう。今日、俺が倒れた際に担当の先生から聞いたんだが、どうも俺は|天涯孤独(てんがいこどく)の身の上らしい。だから冒険者として家出して行方不明だった「姉」という事にしよう。証明できるのは俺とアノンだけだ。誰にも文句は言われないだろう」

「ほうほう! 女神という本当の姿を隠して、お主の姉として振る舞うのだな!」

 俺が物語の設定を作るように語りかけ始めたので、アノンは瞳を輝かせながら頷く。
 さすがは厨二病。
 話が早くて助かる。

「んで、俺が学園に居る事を知って会いに来たと」

「それでそれで!?」

 俺は「うーん」と唸る。
 学園は仕組み的に気軽に編入とか出来る場所では無いだろうし、どうやってアノンの衣食住を確保すればいいのだろうか。

「ちなみに不死身ってどんな感じなんだ?」

「どんな攻撃を受けても体を再生成できるぞよ」

「まじで?」

「まじでまじで。そもそもわらわには肉体が無いからの。それゆえに現地の物質を取り込んで、肉体を生成する方法を編み出したのじゃ!」

「試しに見せてくれよ」

「いいぞよ」

 アノンはそう言うと俺が座っているベッドに対して、横方向からそのまま歩いてくる。

 しかし、アノンの足はベッドにぶつかる事はなく、まるで幽霊のように透き通ると、そのまま俺の身体さえも横断していく。

 俺の顔をアノンの腹部がすり抜けていく。

「――うわ! こわっ!」

 アノンはベッドを横断してから俺の方を向く。

「肉体の結合を分解すればこんな事は朝飯前だの。完全に分解すればこういう事もできるぞよ」

 アノンはそう言うと、アノンの体がサラサラと砂のように崩れていき、やがて空中に霧散するとその場から消えてしまう。

 そして、ベッドを横断する前の立ち位置で、すぐさまに体を再生成して姿を現す。

「ほれ、こんな感じだの」

「……なるほど。ま、不死身チートと考えればどうってことはないか。ただし、かなりの反則系チートだけれどもな。ちなみに、体の形成を今よりも「若い体」に変えられるのか?」

「それもできるが、わらわはこの形が気に入っているからなー」

「ああ、別に出来るかだけを聞いてみただけだ」

「そうなのか?」

 しかし、こうなるとこの力を隠すよりも、むしろ利用した方が上手くいくかもしれないな……。

 とりあえずアノンの設定をこう考えてみるか。

・冒険者を夢見て家出した俺の姉

・魔導士になって不死身の力を手にいれて帰ってきた

・攻撃力が皆無なので学園で学びたい

・魔導士(嘘)ということで無理な事も優遇されるかも

 というか、貴重らしい魔導士にしておけば有利な交渉材料にはなるはずだ。

 ただ、アノンの肉体年齢を16歳という若さにして、次の新1年生から入学させては後が面倒だ。

 俺が卒業時に更に2年待たないと駄目だからな。
 だが、そもそもこの駄女神を1人で、新入学生の1年生の中に入れるのは問題だ。
 俺の側に置いておかないと、どんなバカをするか分かったものではない。

 となれば、やはり狙うは俺と同じ学年への編入だな。

 とりあえず、こんな感じで、あとは、ウェンダリに相談してみるしかないか。

 俺はドアの向こうに居るであろうウェンダリとメイを部屋に呼ぶ。

 ウェンダリとメイは恐る恐る部屋に入ってくる。

「二人とも外に出てもらって悪かったな」

 俺の言葉にウェンダリが首を横に振る。

「いや、それはいいんだけどもさ」

 そう呟きながらウェンダリがアノンを見る。

「ああ、ちゃんと紹介するよ。俺が若い頃に家出した姉ちゃんのアノンだ」

「――え!? ムスロのお姉さんなの!? ど、どうも初めましてムスロの同室で友達のウェンダリです!!」

「あ、あわわ! 私は同級生のメイですぅ!!」

 ウェンダリとメイがアノンにぺこりと頭を下げる。

 アノンも慌てて頭を下げる。

「こ、こちらこそ初めまして!! わらわは女神……うぐ!」

 駄目と言っておいたカミングアウトを早速かまそうとする駄女神の横腹肉を摘む俺。

 涙目のアノンは慌てて訂正する。

「あ、あの、どうも初めまして。 わらわはムスロの姉のアノンです」

「すまん、平民のくせに言葉遣いが仰々しいが、冒険者として旅をする内に色々と変わってしまったらしい。大目にみてやってくれ」

「へー、ムスロのお姉さんは冒険者なんですね!」

 俺の言葉にウェンダリが反応する。
 それはメイも同じ様だった。

「え? え? え?」

 キョロキョロと挙動不審になるアノン。
 時間が無いせいで細かく口裏を合わせていないから当たり前だ。
 なので、俺がきちんとフォローを入れる。

「俺もまだ詳しくは聞いていないんだが、どうもそうらしい」

 俺の言葉にウェンダリは理解を示すように首を縦に振る。

「……なるほど、そうでしたか。でも、さすがはムスロのお姉さんだ」

「ま、まあの!」

 何とか俺の話に乗っかるアノン。

「で、色々と限界を感じて帰国したらしいんだが、俺が学園に居ると知って俺を頼って会いに来たらしい」

「なるほど、そうでしたか」

「……なー、ウェンダリ。例えば、あくまで例えばの話なんだが、うちの姉もこの学園に入る、ということはできないかな?」

 聞いてみないと分からないことは世の中には多い。
 とりあえずの気持ちで、俺はウェンダリに聞いてみる。

「……うーん」

 ウェンダリは顎先に指を添えると首を捻る。

「この王立迷宮騎士学園は基本的に16歳からの入学なんだけれど、規則そのものとしては実は年齢の制限は特に無いんだ。ただ、王国としても将来性のある若者を優先している所があって、基準年齢以上の入学は試験難度が高く設定してあるんだ。つまり、基準年齢以上の人は、ほぼ入学できていないのが現状なんだよ」

「なら、試験を突破すれば入学できると。ちなみに俺達と同じ学年に編入はできるのか?」

「手続き的には大丈夫だと思うよ。ただし、入学よりも編入はもっと厳しいよ? 僕達は既に2年生だから、編入するには学園2年生で得る能力が、既にあることを証明しないと駄目だからね」

「うちの姉が「魔導士」だとしたら?」

「――ッ!?」

 俺の言葉にウェンダリだけではなくメイも目を見開く。

「ほ、本当なのムスロ!?」

「ああ、どうも魔導の研究をしながらついに手に入れたらしい。ただし、攻撃力が皆無で限界を感じたらしくて、学園で攻撃の基礎を学びたいんだと」

「そ、それならきっと話は別だよ!! 魔導士は王国でも貴重だからね! そんな有望な人材なら試験無しで編入できるんじゃないかな!?」

 よしきた!
 俺はウェンダリの言葉に心の中でガッツポーズを取る。

「そ、それでどんな魔法が使えるの!?」

「なんでも、自然治癒能力が凄いらしい。切り傷程度のものなら数秒で治るらしいぞ。ただし、あまりに深い傷は無理らしいけどもな」

 あくまで回復しやすいという程度にしておき、不死身という能力は伏せておく。

「それは凄い!! 回復系の力だね!! 回復系は魔導士の中でも更に貴重だから、とても素晴らしいよ!! 自然治癒能力が高ければ、かなりしぶとい迷宮騎士になるだろうからね」

 ウェンダリは本当に驚きの表情を浮かべながら、アノンの露出狂まがいのビキニアーマー姿を凝視する。

 アノンは腰に手を当てて「ふふん!」と自信満々に胸を反ってみせた。

 そういえば、俺自身も落ち着いてからやっと気がついたのだが、アノンが着ているのは「女神英雄伝トオル」に出てくる「戦女神様」のコスプレ衣装のようだ。
 どうやら厨二病なアノンのお気に入りなのだろう。
 この衣装に、この異世界での魔導士風な雰囲気があるのかはまだ分からないが、後でどうとでもなるだろう。

「編入の可能性はあるかウェンダリ?」
 
「どの国でも回復系の魔導士はとても貴重だからね。だからこそ、もしムスロのお姉さんが王国の迷宮騎士になってくれるというのなら、きっと王国は喜んでムスロのお姉さんを学園に編入すると思うよ!!」

 ウェンダリの本当の身分は王族だ。

 いくら第4王女で政治には口出しをさせてもらえないとはいえ、ウェンダリのような頭の良い娘ならば、王国の思想ぐらいは理解しているだろうし、父である王がどういう判断をするのかも予想ができるだろう。

 それゆえにウェンダリの言葉は「王国を担う中枢の人間」の言葉に等しい。

 ウェンダリがアノンを「自国の戦力」として、是非にも欲しいと願う気持ちは王達も同じ筈だ。

 よし、これで、アノンの学園への編入は何とかなりそうだ。

「良かったなアノン。これで俺と同じ学園で学べるぞ。衣食住も安心だな」

「おおー!! そうなのかムスロ!! ようやった!! ようやったぞ!! さすがは救世の勇者……あぐっ!!」

 俺はアノンのお腹のお肉を「ぎゅむり」と摘んで黙らせる。

 この後、実際にアノンの切り傷が回復する様をウェンダリとメイに見せた事により、ウェンダリは早速、王国中枢部に自信を持って働きかけてくれたようで、王国からの指示が学園に届いたのか、アノンは即日、王立騎士学園の俺と同学年かつ同クラスに編入となった。

 しかも、アノンは魔導士として、1人部屋待遇が提案されたのだが「ムスロと一緒がいい!!」という駄々をこねたので、俺とウェンダリと同室で生活することが決まった。

 さすがは回復系の魔導士(もちろん嘘)の価値といったところか。
 そして、自国の戦力確保の為ならば男子部屋に女性が入り込むなど、どうでも良いとみた。

 そりゃそうだよな。
 アノンのこの程度なわがままを聞くだけで、魔導士かつ将来有望な迷宮騎士が生まれて、王国体制の維持と多くの国民の命が救われる可能性が増えるんだ。
 許可を出すのは当たり前な話である。

 そもそも、王国の最上層部はウェンダリが王女である事は知っているはずだし、部屋に女性が増えるぐらいのことはあまり気にはならないのだろう。
 しかも、俺とアノンは姉弟ということなので更にどうでも良いだろうし。

 ま、元々、こんな駄女神を1人で外に放り出すつもりはなかったので、これはこれで良い方向に転んだと思う。

 ……ま、なんにせよ、これはこれで面白くなってきたな。

 俺は少しずつ良い意味で騒がしくなり始めた新しい異世界での日常に、思わず頬が緩むのだった。
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