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よあけの部屋

□ 伝説になる騎士は元勇者(改) □

第13話 看病

「うぅぅ……全身が痛い」

 制限有りとはいえ元勇者の力を再び取り戻した俺は、生徒達を襲ったビッグワームを何とか仕留めたものの、全身を強打して身動きが取れなくなってしまい、学校関係者のユズコ先生達に運ばれて自室のベッドで寝かされていた。

 学園の医者によれば、しばらくは安静状態らしい。

 痛み止めの粉末薬草と塗り薬が処方されたので幾分はマシだ。

 俺はベッドの横に椅子を置いて、心配そうにしているウェンダリに声をかける。

「なー……回復魔法は無いのか?」

「あるにはあるけれども、かなり高等で貴重な魔法だからね。使える者も少ないし、どこの国でも王族ぐらいしか、その恩恵を受けられないんじゃないかな……」

 なるほど……ここはそういう世界か。
 となると、ケガをするのは実に危険というわけか。

「……あんな無茶をして。あんなことをしていたら命がいくつあっても足りないよ?」

 ああ、それも前の異世界で良く言われたわ。

「……でも、頑張ったかいはあった。メイも助けられたし、俺の力も少しは戻ったしな」

「――そうそうそれ! あの力は一体何なのムスロ!?」

「魔法だよ魔法。ずっと調子が悪かったんで伏せていたんだが、実は少しだけ魔法が使えるんだ」

 もちろん「剣と魔法」の異世界にかこつけた嘘である。
 異世界転移者専用のスキルシステムなどという説明をするつもりは無い。

「――凄いじゃないかムスロ!! 王国でも魔法を使えるのは一部の名家とその部隊ぐらいだよ!?」

「いやいや、物を動かすという地味な魔法だけなんだけれどもな。しかも、制約が色々とあって自由自在には使えないし」

「でも、あのビッグワームを「ガントレットだけ」で倒すなんて凄い事だよ! ユズコ先生も感心していたよ!」

「なら、評価点数を加点してもらえるかな?」

「さー……それは分からないけど」

 ウェンダリが苦笑いを浮かべる。

「まー、別にいいか。今日の荒治療で力が少し戻ったから、これで迷宮潜りも何とかなりそうだ」

「うん、今のムスロならきっと大丈夫だよ」

 ウェンダリが優しく微笑むと、俺のお腹が「ぐー」と鳴り響く。 
 
「おっと、そろそろお昼だね。何か食べるかい?」

「体は痛くて動かなくても腹は減るか……。もちろん何か食べるよ」

「じゃあ、何か食堂から持ってくるよ」

「ああ、頼む」

 ウェンダリが俺の食事を取りに部屋を出て行くと、ものの数分で部屋のドアがノックされて開かれる。

「ウェンダリ、えらく早いな……」

 しかし、部屋のドアを開けたのはウェンダリではなかった。

 ドアの隙間から申し訳なさそうにこちらを覗き込む、黒髪三つ編みメガネの女子メイだった。

「……あ、あのぉ」

「……メイか。ほら、入れよ」

 俺はベッドの上から目線だけをドアに向けてメイに声をかける。

「は、はい! 失礼しますぅ!」

 独特の田舎訛りな発音で応えながらメイは部屋に入ってくると、とてとてと小走りでベッドに近づくやいなや腰を折って頭を下げる。

「ム、ムスロ君!! 先程は大変な所を助けて頂いてぇ!! 本当にありがとうございますぅ!!」

 頭を何度も何度も下げるメイ。
 黒髪の三つ編みが上下に踊る。

「いいよいいよ別に。俺が勝手にやったことだからさ。とりあえず、ケガは無かったのか?」

「は、はい! 特にケガはありませんでしたぁ!」

「良かったな」

 俺はにんまりと微笑む。

「まー、とりあえず座れよ」

 俺は先程までウェンダリが座っていた椅子を勧める。

 メイはおずおずと椅子に座ると、俺と同じぐらいの背丈なので足が床につかずプラプラと漂う。

「あのビッグワームを倒してしまうなんて、ムスロ君は実は強かったんですねぇ」

 メイは少し目をキラキラさせながら俺を見る。

「大した魔法じゃないんだけれどもな。今まで調子が悪くて使えなかったんだ。今日の荒治療で何とか勘が戻ったみたいさ」

「な、なるほどぉ! それで実力が出せなかったんですね!」

「まー、そんな所だ」

「でも、その力が戻っていなかったのに、それでもムスロ君は私を助けに来てくれたんですねぇ」

 メイは今度は少し涙ぐみながら俺を見る。

「あんな所で死ぬのはお前の本望ではないだろ?」

「は、はいぃ!」

「何とかしてやりたいと思ったら体が動いていただけさ。俺は頑張り屋さんを見ると、ついつい助けてやりたくなる悪い癖があってな。だから、俺に恩義を感じるなら頑張って卒業しろよ」

「――は、はいぃ!! 私、が、頑張りますぅ!!!」

 メイが元気良く首を縦に振ると、部屋のドアがノックされて静かに開いた。

「ムスロー。食事を持ってきたよー。あ、メイさんいらっしゃい」

 メイは部屋に入ってきたウェンダリを見ると、慌てて椅子から飛び降りてぺこぺこと頭を下げる。

「どどどどど、どうもお邪魔しておりますぅウェンダリ君!!」

 ウェンダリは中騎士家という貴族だからかメイは緊張しているらしい。
 でも本当は王族なんだが、それを知れば気を失いかねないな。

「いいよいいよ、そんなに畏まらなくて。僕達は同じ学園の仲間でしょ。さあさあ、その椅子に座って座って」

 ウェンダリに、にこやかに勧められてメイはまた椅子に座る。

 ウェンダリはお盆にのせた食事を一旦、部屋の真ん中にあるテーブルの上に置いてから、食事の入った食器とスプーンを持って俺の枕元の横に立つ。

「一応、消化の良い物と思って、お米を色々な具材で炊いた物を貰ってきたよ?」

 雑炊みたいな物か。

 まー、胃は元気そうだから別に柔らかく無くても良いんだが、ここはウェンダリの気遣いに従おう。

「ありがとう、ウェンダリ」

「じゃあ、ふーふーするね」

「え?」

 ウェンダリはスプーンですくった雑炊を、柔らかそうなピンク色の唇の前に持っていくと優しく息を吹きかける。

「そこまでしなくても良いんですが」

 俺の軽い抗議にウェンダリは「何を言っているの?」という感じで応える。

「でも、ムスロ起き上がれないでしょ? 自分でふーふーできないじゃん」

「まー、そう言われれば……」

「はい、あーん」

「あーん」

 俺は諦めて口を開けると雑炊を口に含む。

 お肉類もたくさん入っているせいか旨味も濃くて美味しい。

「お二人って仲が良かったのですねぇ」

 メイが少し驚きながら俺とウェンダリを見る。

 ウェンダリは少し照れくさそうに頬を染めながら応える。

「いやー、実は昨日からなんだけど、ムスロと僕は友達になったんだよ!」

 ウェンダリは頬を染めながらも満面の笑みでメイに応える。
 というか、一応、建前上は男なんだから、友達になった報告ぐらいで頬を染めるな頬を。

 注意をするのも面倒なので、俺はウェンダリを放っておいて、雑炊を程よく咀嚼(そしゃく)してから飲み込む。

 雑炊が喉を通り胃に到達したその時だった。

 俺の脳内に「ピコリン」と電子音が鳴り響き、自動的にスキル欄のウインドウが眼前に立ち上がる。


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【スキル欄】

SP 10/100(最大値)

・「幻想腕(イリュズアーム)×1」SP20(制限時間1分)

・■▲■◆■■

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 スキル欄が立ち上がると同時に、スキル欄の2行目のバグっているスキルが点滅を始める。

 そして、次第に雑多な文字列へと目まぐるしく変換していきながら、やがて明確な文字列へと変わっていく。


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【スキル欄】

SP 10/100(最大値)

・「幻想腕(イリュズアーム)×1」SP20(制限時間1分)

・「|吸収の胃(フードドレイン)」※常時発動型(パッシブスキル)

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 お、バグっていたスキルが正常化されたみたいだな。
 俺はスキル欄から「|吸収の胃(フードドレイン)」を選択して解説文を読む。


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・「|吸収の胃(フードドレイン)」
食べた物を栄養だけではなく、キズの回復やSP値の回復などに変換できる。

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 ほほう。
 これはまた今の俺らしいというかありがたいスキルだな。
 さすがは異世界転移者を支援するシステムだ。
 目の付け所が悪くない。

 なにせ今の俺は食べても食べても太らない体質(呪い)だから、つまりは気軽に回復し放題だ。

 まー、何かを食べるという手間はかかるが、回復魔法が貴重なこの異世界では充分に頼りになるぞ。

「よし、ウェンダリ! もっとふーふーして食べさせてくれ!」

「分かったよムスロ!」

 ウェンダリは一生懸命に雑炊を冷ましながら俺に食べさせてくれる。

 もしウェンダリが男なら全力で拒否するのだが、実は女なのでむしろご褒美に近い。

「仲の良い友達って羨ましいですぅ」

 メイは俺とウェンダリを、何か遠い憧れの存在でも見つめるかのようにぼんやりと眺めている。

「それじゃあ、せっかく見舞いに来てくれたんだし、メイにもお世話になろうかな?」

「へ?」

 俺の言葉を聞いたウェンダリは「にこり」と微笑むとメイに声をかける。

「メイさん。お盆にお水が入ったコップがあるから、ムスロに飲ませてあげてくれるかい?」

「わ、私ですかぁ!?」

「そうだよ」

「は、はいぃ!」

 メイは椅子から慌てて飛び降りると、テーブルの上に置いてあるお盆の上から水の入ったコップを持って俺の側にくる。

 メイは嫌がるそぶりも見せず俺の丸坊主頭を持ち上げると、甲斐甲斐しくコップの水を飲ませてくれる。

「ありがとうメイ」

「いえいえぇ! ムスロ君の為に何か出来ないかと来たんで、お役に立てて嬉しいですぅ!」

 そばかすの頬を染めながら「にんまり」と笑うメイ。
 見た目は地味で素朴だが、素材は整っているので何とも言えない愛嬌がある。
 将来は大人の色気と化粧が加われば、きっと美人さんになるだろうな。

 ただし、そういう風に見抜けるのは俺が大人だからだろう。
 17歳程度の男子達はだいたい面食いが普通だから、こういう将来性のある女の子の見分けが出来ない。
 なにせ俺も若い頃はそうだったし。
 でも、女の子って成長と化粧で大化けするんだよなー。

 俺はウェンダリとメイに介護されながら食事を続ける。

 食べ物を嚥下(えんか)する度に、体の痛みが取れていくのを実感する。

 雑炊を食器一杯、食べ終える辺りで、俺は体が動かせるようになるまで回復していた。

 ……凄いなこのスキル。
 これなら多少の無茶をしても乗り越えられそうだ。

 俺はベッドから上半身を起き上がらせる。

「――え? ムスロ大丈夫なの!?」

「ああ、どうも食べ物の吸収が良いらしくてな。ご飯を食べるとケガの治りも早いらしい」

 俺はウェンダリから雑炊の入った食器とスプーンを受け取ると、自分ですくって食べる。

 食べる度にあからさまに体力が回復していく。

 俺は食器の残っている雑炊を貪るように口にかきこみ咀嚼する。
 そして、飲み込もうとしたその時だった。

 部屋のドアが「バタン!」と力強く開け放たれる。

「――勇者英一ぃぃぃぃーーーーーー!!!!!!」

「――ぶふぅぅぅぅっっっっ!!!!!!!!!!」

 俺の「本名」を大声で叫びながら部屋に乱入してきた露出狂まがいの女に驚いた俺は、口に含んでいた雑炊を盛大に吹き出す。

「わぁぁーーー!!! 本物だ本物だーーー!!!」

 黒ビキニアーマーの露出狂な年上の美人は、俺の事を見るや満面の笑みで駆け寄ってくると、ベッドにいる俺の身体に飛びかかり、俺の首に腕を回しながら俺の頬に頬ずりをしてくる。

 サラサラながらも少しウエーブのかかった茶色い長髪に少しタレ目な瞳。
 厚ぼったい唇には光沢のある赤いルージュが引かれており、実に美しいお姉さんだった。
 しかも、なんだか甘い香りがする。

 肌の露出が多く、胸も大きくて肉感的。
 そんな美人が抱きついてくれるのはとても嬉しかったが、なにせこの状況の意味が全く分からない。

「お、お姉さん……誰ですか?」

「おーーそうだったそうだった!!」

 美人な露出狂なお姉さんは俺の首から離れると、腰に手をあてて「えへん」と胸を反る。

 大きな胸が「ぼいん」と突き出してエロい。

「私は「女神様」だ!!」

「……は?」

「じゃなくて、わらわは女神様だぞい!」

 あ、女神っぽい言葉使いに変えた。

「今までの活躍見事であったぞ勇者英一!! これからの冒険はこの女神様がついておるので、安心するがよいのじゃ!!」

「何を言っているのかさっぱり分からないが、どうしてその名前を……」

「ねえ、ムスロ。エイイチってなに? それに女神様?」

 ベッドの横にいるウェンダリとメイが「ぽかーん」としている。
 うわ、ヤバイ、忘れてた。

「す、すまないがウェンダリとメイは、少し部屋を出ていてくれないか!? 5分程度いいからさ!!」

「え!? ああ、うん、良いけれども」

「あ、はいぃ」

 ウェンダリとメイは何度もこちらを見返しながら部屋を出て行く。

 俺はため息を吐き出してから女神と名乗る女性を見上げるのだった。
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