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よあけの部屋

□ 伝説になる騎士は元勇者(改) □

第12話 アパート暮らしの女神様

 私の名前はアノン。

 誰から生まれたのか、どこで生まれたのか、なぜ生まれたのか、それは今も尚、私には分からない。

 名前も無く、姿も無く、ただ自我のみの存在として、暗黒の宇宙空間をフラフラと漂い続けていた。

 いつの頃だったか「考えてもしょうがないな」と悟ってからは、自分の事に関しては特に考えることはなくなった。

 ただ、私は「存在」する。

 それだけで充分だなと。

 あてもなく宇宙を漂う日々。

 実につまらない日々。

 無限のような空間が広がる中で「ポツリ」と浮かんで漂う自分。

 体という物が無いのに、とても寒くて寂しかったのを今でも良く覚えている。

 いくつものきらめく星々を通り過ぎ、時には立ち寄ったりするも何も無く。

 やはり宇宙の暗闇をぼんやりと漂う日々。

 一体、どれだけの間、さまよっていたのだろうか。

 ある時、とてもとても美しい星を見つけたのだ。

 その星はとても青くて、表面上には白いモヤがうねり、恒星の明かりが外れると、真っ暗な中でもまばらに表面が輝くのだ。

 私は何となくその星に興味を抱き降り立った。

 私の気まぐれは初めての「当たり」となる。

 青い星は今までのどの星とも違い、実に凄まじい数の生命体が存在していた。

 私はその中で最も繁栄している「人間」という生命体の姿を模して、生活を始めることにする。

 地球上に存在する物質を集めて結合すれば人間と同じ体を作る事ができた。
 どうやらそういう能力も私にはあるらしい。

 ちなみに、人間には男性と女性があるらしいが、女性の姿と振る舞いは美しいなと感じたので、自分も女性にする事にした。

 この時、自分で名前を「アノン」と名づけた。

 特に意味は無い。

 しかし、最初こそ色々な事が知れて楽しかったのだが、結局はすぐに飽きてしまった。

 そんな時、人間達が形成している「国」という物の中で「日本」という存在を知ることになる。

 私がここ最近、唯一楽しんでいた「テレビアニメ」という娯楽作品があり、その娯楽作品「女神英雄伝トオル」を作った国なのだという。

 この作品は、1人の少年が「剣と魔法」の「ファンタジー異世界」と呼ばれる世界に召喚されて、苦労しながらも女神様や仲間達と共に成長して大活躍し、果ては世界を救う物語だ。

 私はこの物語と世界観に魅了された。

 暗黒の宇宙を漂っていただけの私には、何とも言えない夢とロマンがそこにはあった。

 私はすぐに今いる場所を立ち去り「日本」という国に旅立つことにした。

 そして、私は日本という国に辿り着く。

 日本という国を一言で言うならば「楽園(パラダイス)」だった。

 この国には「女神英雄伝トオル」の続編が既に3つ存在しており、しかもこれ以外にも様々なアニメ作品があり、多くの新作が今も尚、延々と作り続けられている。

 しかも、漫画、小説、ゲームという他の娯楽作品まで存在し、私はこの国の人間が言うところの「オタク」に傾倒していったのだった。



 薄暗い6畳間のアパートの一室で、目覚まし時計が鳴り響き起床の時間を教えてくれる。

 私は「ぱちくり」と目を開けると目覚まし時計を止めて、その場にのっそりと起き上がる。

 朝の5時だ。

 人間という体を模しているせいか、睡眠、食事などの生理現象を人間と同様にこなさなければならない。

 元の思念体に比べれば確かに不便だが、もう慣れた。

 というよりも、オタクの娯楽を楽しむ為にはこの体は必須だ。

 私はトイレに行ってから洗面台の前で歯磨きをする。

 続いて顔を洗い、肩の下ぐらいまである長い茶色の髪をとかし、緑色の上下のジャージを脱いで、窮屈なので外していたFカップのブラをつけてから店の制服を着る。

 私は部屋を出ると、アパートの隣にあるコンビニに入り、夜勤の人と交代して朝の5時から昼の12時まで働く。

 ここは大都会ではないからか客はそれほど多くはない。

 基本は朝から昼まで商品の入れ替えをしたり、裏の倉庫を掃除したりと裏方をこなしつつ、時々、店長が担当しているレジを手伝ったりしている。

 この星では欲しい物があれば「お金」が必要なのだ。

 私はこの体を維持する為とオタク作品を買い漁る為に働いている。
 ただし、娯楽を楽しむ時間が減っては本末転倒なので、必要最低限の分しか働いてはいない。

 私は昼まで働くと店を出てアパートの自室に帰り、緑色のジャージに着替える。

 小さな丸いちゃぶ台の上に置いてある一升瓶の日本酒「鬼祭」のフタを「ポン」と軽快に開けて、湯飲みに「トプトプ」と注ぎ入れると一気に煽る。

「ぷはーーーっ!!」

 労働の後の一杯はたまらんち。

 この生身の肉体を持つ人間が懸命に働く意味が良く分かる。
 あと、仕事をした方が娯楽もより楽しめるのも何だか不思議な現象だ。

 私は、この国に来てから貪るように国産かつ、過去からのオタク作品をほぼ楽しみ尽くし、今はある事にハマっている。

 それは本当に異世界に転移してしまった者を「鑑賞」する事だ。

 私はリサイクル店で「PCX99」という名の昔に作られたらしいパソコンという機械を500円で購入し、それについていたOS「MS-DOGS」でゲームを作るべくプログラムの練習をしていた。

 しかし、物語の結果が分かっているものを自分で作るという行為にすぐに飽きてしまう。

 娯楽作品は人を楽しませたい者が作るものだと初めて分かった。
 自分が楽しみたいだけの者には簡単には作れないのだ。

 私は悶々とし続けた。

 そしてある日、閃いた。

 それならば、誰かが異世界ファンタジー世界で頑張る姿を見れば楽しいんじゃね?と。

 私は自分の持つ能力の内の一つ、時空を渡る力をプログラムに流し込んでシステムを組み上げた。

 それが「Parallel World Support system」であり通称「PWSs」である。

 これを機に自分の事を「異世界に勇者を送り込む女神様」と自称する事にし、このアパートの一室を「異世界勇者斡旋女神組合」と名付ける。

 実に厨二らしい発想と響きで私は悦に入る。

 私はとうとう、異世界ファンタジーものでよく出てくる女神様になれたのだ。

 そして、記念すべき初仕事として、このプログラムを使用してピンチを迎えている異世界に、誰かを放り込んでみる事にした。

 その結果、街中で適当に見つけた1人の青年が、ファンタジーな異世界へと見事に転移した。

 その青年はこの国の人間で「英一(えいいち)」という名前の男性だった。
 彼自身もオタクらしく、異世界ファンタジーの世界にすぐに順応し、数多くの試練を乗り越えながらも大活躍をしていく。

 私は英一が活躍する姿を鑑賞する為に、リサイクル店で購入した四角いブラウン管テレビを改造して、英一の活躍を映像として受信できるようにする。

 そして、彼の物語を「勇者英一物語」と名付けて、毎日毎日、テレビの前に座ってはずっと鑑賞し続けた。

 英一の姿と苛烈な救世の物語は、どんな娯楽作品よりも熱く燃えて、涙無しには見られない大傑作だった。

 私は異世界を無事に救った後の英一が映るテレビを眺めながら、日本酒を飲みつつ大好物のスルメをかじる。

「……英一、最近は酒に溺れているなー。分かる。分かるよ。何も無い日々って辛いもんね」

 異世界を救った英一は、平穏な日々に耐えきれず酒に溺れる日々が続いていた。

 私も暗闇の宇宙を漂っていた頃を思い返しながら英一に同情する。

 しかし、彼こそはあの「救世の勇者」英一である。
 私は、そんな英一が次に何を成すのかワクテカしながら毎日眺めていた。

 そんなある日の事だった。

 テレビの中から流れてきたのは、現地の賢者クラスの大魔導士連中に英一が「異世界転移」魔法をかけられてしまう姿だった。

 私はいつもの様に嗜んでいた日本酒を「ぶーーーっ!!」と吹き出す。

「――ちょ!! おまっ!! 異世界転移場所から再転移とか、その発想は無かった!!!」

 私は即座にPCX99を立ち上げて英一の行方を捜す。

「――くそ!! 異世界の魔導士達め! 大した力も無いくせに異世界転移なんてしてくれちゃって!!」

 私は必死に英一の行方を捜すが全く見つからなかった。

 日々を楽しませてくれたテレビには砂嵐しか映らない。

 私はテレビを「バンバコ!」と叩くが何の変化も無かった。

「しょんぼりん……」

 私は絶望した。

 その場でふて寝した。

 翌日の仕事はズル休みした。

 仕事場が隣なので店長のおっちゃんが来たが居留守を使った。

 テレビにはずっと砂嵐が流れていた。

 私はそれを眺めながら勇者英一が見せてくれた輝かしい日々を思い出す。

 凄い漢(おとこ)だった。

 絶望の海をもがいてもがいて、皆の心に勇気の火を灯し続ける様はまさに勇者。

 どんな漫画、アニメ、ゲーム、小説よりも興奮した最高の娯楽だった。

 そんな最高の娯楽がふいに終了してしまい、私は自分の体が消えてしまいそうな程の大きな喪失感を感じながら、とりあえず酒を一杯煽ってから寝た。

 何時間ふて寝をしていただろうか、ふと私の耳に電子音が「ピコリン」と響く。

 真夜中なのか真っ暗なアパートの中で私は勢いよく起き上がると、ちゃぶ台の上に置いていたPCX99の画面にかぶりつく。


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....Parallel World Support systemが再起動しました

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「――キタァァーーー!!!!」

 私は自作プログラムからの応答に歓喜する。

 私は即座にコマンドを打ち込んで、英一の現在地を探ろうと試みる。


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....未確認の異世界の為、現在地空間座標を表示できません

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「……え!?」

 私は何度も座標を調べるコマンドを打つが結果は同じだった。

「……そんな……どうして」

 英一の現在地が分からなければ「PWSs」のverup版を適用してあげられないし、肝心のテレビの受信も出来ない。

 私はPCX99のモニターを眺めながら親指の爪を噛む。

 結局、分かったのは「PWSs」が再起動したという情報のみ。

 後は何の音沙汰も無かった。

 再起動したということは、英一はどこかの異世界に無事に辿り着き、再冒険を始めたのだ。

 新しい物語の幕が上がったというのに、それを私は見ることが出来ない。

 まるで、アニメの放送電波が入らないという血涙並の状況ではないか!!

 1人「蚊帳の外」状態!!

 そんなのやだやだやだやだ!!

 私は漫画やゲームが雑多に積まれた狭い部屋の畳の上で寝転んでジタバタする。

 見たい見たい見たい見たいよーーー!!!

 更にジタバタする。

 もちろん真夜中なので隣近所に迷惑にならないように極力静かに。

 私はむくりと起き上がって、ちゃぶ台の湯飲みに大ざっぱに日本酒を注ぎ入れると一気に煽る。

「ぐぅぅぅ!! どうすれば!! どうすればいいのさ!!」

 私はスルメを「ガジガジ」とかじりながら考える。

 その時、ふと、最新ゲームなのに積みゲー化してしまったゲームのパッケージに目が止まる。

 このファンタジーRPGゲームは没入感があまりに凄く、とても面白かったのだが、でも現実の自分はこの世界には入れない事が何だか悲しくなって、途中で止めてしまったのだ。

「……そうか、離れた場所で鑑賞しようとするからダメなんだ。私が直接、行けば良いんだ。私も英一と一緒に冒険しながら「見れば」良いんだ!」

 元々、オタク作品に限界を感じていたのだ。
 それが「勇者英一物語」を見て確信に変わっていく日々だった。

 私も「異世界ファンタジーの世界で大暴れしたい」と。

 そもそも「PWSs」は時空の壁を自力で渡れない人間の為に、私が開発した物だ。

 私は人間ではない。

 そして、時空の壁を気ままに移動できる私ならば、PWSsや英一の現在地座標などが無くても会いに行ける。

 英一の「魂」の輝きを目指して時空の壁を越えて行けば良いだけなのだ。

 あの美しい「魂」の輝きを私は少しも忘れることは無い。

 私は目を閉じて、神経を研ぎ澄ます。

 すると遥か彼方、こことは違う宇宙の更なる果てに英一の「魂」を感じ取った。

「……うん、なんとか行けそうだ。でも、かなり遠くて複雑だな……。行くのは何とかなっても、座標が常に動いているこの宇宙のこの星に帰ってくるのは難しいかもしれない」

 でも、もうオタク作品は満足してしまったのだ。

 今度は、そのオタク作品の様な世界に私も行ってみたい。

 例え、この「楽園(パラダイス)」に帰ってこれなくとも。

 あの勇者英一と共に冒険が出来る方が絶対に楽しいはずだ。

 私は部屋の電気をつけて、洗面台の前に行くと化粧を整える。

 茶色い長髪に緩いウエーブをつけて、お姉さん系の色気が出るようにメイクを施してから、衣装ケースからコスプレ衣装を漁る。

「どれにしようかな! どれにしようかな!」

 あの勇者英一に会いに行く以上、彼の気に入りそうな服を着たい。
 前の異世界では仲間の中では女気がほぼ無いみたいだったし、今度は私がお色気ポジションを務めてあげたいな!

 私は「女神英雄伝トオル」に出てくる「戦女神様」のコスプレ衣装を選んで着る。

 衣装を一言で言うならば「黒ビキニアーマー」である。
 そこに銀色の肩当てとガントレットを装着して、真っ赤なマントを背中になびかせる。

 黒いニーソックスが太ももを締めつけて「むっちり」とした肉の段差ができる。
 靴は黒のロングブーツで、前面部には銀色の装甲板が段々にあしらわれている。

 ビキニアーマーゆえにFカップの巨乳が実に映える衣装である。

「……本当はこの肉体も衣装も持ってはいけないんだけれど、それでも自分で初めて作ったこの衣装に込めた私の異世界冒険への憧れはきっと消えないはず」

 私は洗面台の前で自分の姿形は元より、衣装の形を細部まで記憶してから、アパートの電気を静かに消す。

 そして、物質の結合を解除して衣装と肉体を霧散させると、時空を飛び越えながら英一の居る異世界へと旅立つのだった。
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