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よあけの部屋

□ 伝説になる騎士は元勇者(改) □

第9話 ある意味、初登校

 俺はウェンダリに連れられて寮を出ると王立迷宮騎士学園へ向かう。

 寮の敷地を出てすぐ隣の敷地が学園だった。

 寮前にある運動場よりも数倍大きな運動場を備えており、四階建ての校舎もなかなかに大きい。

 外見は寮にも負けない程の豪華さで、こちらは派手な白亜の神殿風な作りになっている。
 巨大な白柱が陳列する入り口には、美しい女性や、逞しい男性の彫像が並んでいた。

「階層は寮よりも高いんだな」

「そうだね。校内には教室はもちろん、練習施設とかもあるからね」

「人数はどれぐらいなんだ?」

「1年生で1000人程、2年で900、3年で800人程度ぐらいかな」

 平民がダメもとでもっとたくさん入学をしているかとも思っていたが、入学試験もそれなりには厳しいようだな。
 つまりは、ある程度のふるいにはかけている感じか。

 それとも貴族の「いじめ」が恐ろしくて平民はあまり寄りつかないか、だな。

 そうなると入学試験を突破して2学年まで進級した元宿主は、今の成績は最低でもなかなかに頑張り屋さんだっというわけか。
 まー、このままの成績では3学年には上がれないみたいだけれども。

 俺は校内に入り大理石の廊下を歩きながら、ウェンダリにトイレや職員室の場所を教えてもらう。

 食堂は寮で利用していた施設と同じらしく、校舎からの渡り廊下からもいけるらしい。

 つまりは、食堂は寮と校舎の敷地を跨ぐように建っていると言うことだった。

 実際、食堂で食事を終えた学生達が、食堂からそのまま校内へと入ってくる。

 なるほど、制服を着替えてから食堂に行けば、そのまま校内に行けるのか。

 そういえば、ウェンダリも着替えていたもんな。

「ウェンダリは朝の食堂からそのまま学園に来ているのか?」

「うん、だいたいね」

「そうか、なら今日はいったん部屋に戻らせて悪かったな」

「いいよ。気にしないでムスロ」

「これからも俺は朝練をするだろうから、となると、どうしても腹が減るからなー。たぶん今後も朝一番の食堂に行くことになるから、明日からは一人で行くよ」

「じゃあ、僕も一緒に朝練して、お腹を空かせてから一緒に食堂に行くよ!!」

「無理すんなよ」

「無理じゃないよ。友達と一緒に頑張れるのが楽しいから」

「そうなのか? まー、好きにしな」

「うん!」

 嬉しそうに笑うウェンダリ。

 そうこうしている内に校内の学生の数が増え始める。

「そろそろ教室に行った方が良いか?」

「そうだね、そろそろ9時だもんね」

 廊下の壁掛け時計を見た俺は、少し歩くのを早めるウェンダリの後をついて2年生の教室に向かうのだった。

 ウェンダリがとある一室の横開きの扉をスライドさせて入っていくので、俺もそれに続いて入る。

 俺は教室の前方部から見る大きな教室に思わず目を見開いた。

 教室は元の世界での大学の様な形をしており、横長の細長い机が横に3つ並ぶ形で、それが段々畑の様に奥に行くほど、せり上がる形になっている。

 3つ並ぶ机の間は隙間が設けられ、奥の席に行くための階段の通路となっている。

 教室内には既にクラスメイトの100人近くが座っている。

 誰も俺とウェンダリの事を気にもとめず、それぞれの友達グループで談笑していた。

 もちろんウェンダリ親衛隊は別なので、教室に入ってきたウェンダリを見て歓声をあげている。

 教室内は生徒達で埋まっているのに、ある一カ所だけおかしい事に俺は気がつく。

 それは教室最前列の席だった。

 そこには誰も座っていないのである。

 いや、一人だけ座っていた。

 教室入り口側より向こう最奥の壁側に、存在を消し去ろうと背中を丸めながら座る、ボロの灰色ワンピースと黒髪の三つ編みメガネ女子。

 昨日、俺が食堂で助けた平民のメイだ。

 貴族などは制服を着ずに高価そうな私服を着ている者が何人かいるのだが、メイは制服ではなく平民らしい素朴な私服を着ている。

 いじめで制服を失ったのだろうか。

 いや、同じいじめられ境遇である俺でも制服を持っているあたり、もしかしたら何か他に理由があるのかもしれないな。
 それに関しては機会があれば聞いてみるか。

 俺は横に立っているウェンダリに最前列について声をかける。

「なあウェンダリ。最前列の席はこのクラスで最下層が座る場所なのか?」

「う……うん」

ウェンダリが気まずそうに応える。

 なるほど、確かに最上段には、なにやら他とは雰囲気の違う数人の生徒が、各自、距離を取り合ってゆったりと座っている。

 良い言葉で言えば気品の良さだが、悪く言えば上品ぶった感じが鼻につく。

 このクラス内でも特に家柄が良いのだろう、自信に満ちた余裕の雰囲気を平然とまとい、最下層の下界には興味が無いとばかりに、それぞれ思い思いの事をしている。

 3つある内の左端の席のど真ん中に鎮座して、もう一段下にいる子分らしき取り巻きの話を、少し微笑みながら悠然と頷いているオールバックな金髪男子。しかも、両脇には女子を座らせてはべらせている。

 真ん中の席のど真ん中には、金色の長髪を後ろで巻き上げた凛々しい雰囲気の女子が一人座り、背筋を伸ばして瞑想するかのように目を閉じたまま沈黙している。どうやら彼女には取り巻きがいないようだ。

 最後の右端のど真ん中には、燃えるように赤い髪の縦ロール女子が、一段下の取り巻き達と談笑をしており、時々「おーーっほっほっほ!」というなんとも見た目通りな笑い声をあげている。

 そして、中段と下段には生徒がびっしりと座っており、中段の右端に座る気品の欠片も無いワイズ達が、こちらを睨みつけるように眺めている。

「じゃあ、俺もこの最下層の最前列なんだな?」

「そ、そうだね」

「で、俺はいつもどこに座っていた?」

「ムスロはメイさんとは逆側。この入り口側の壁側だよ」

 そりゃそうだろうな。
 元宿主もメイと同じように端っこで、存在感を消すように学園生活を送っていたのだろう。

「最前列は、他には誰も座らないのか?」

「う、うん」

「じゃあ、遠慮無く」

「――え!?」

 ウェンダリが小さく驚く声を聞きながら、俺は元宿主が座っていた端の定位置には行かず、最前列で真ん中の机の「ど真ん中」に座る。

 俺の行動をじっと眺めていたワイズ達は、俺の行動が癇(かん)に障(さわ)ったのか「うすのろ調子乗るな!」と騒ぎ始める。

 俺の事を横目で確認していたのだろう。
 奥の壁側にいるメイも俺の行動に驚いたのか、俺の事を呆然と見ている。

 それでも、教室内はまだ談笑の方が勝っていたのだが、次の瞬間、女子達の悲鳴が響き渡り、教室内は何事かと静まり返る。

 その原因はウェンダリであった。

 ウェンダリが俺の横に座ったのである。

 それを見た中段辺りにいるウェンダリ親衛隊が、悲鳴の絶叫をあげたというわけだ。
 というか、親衛隊だけは今もキーキー叫んでいる。

「お前、中騎士家だろうが。中段ぐらいに座らなくて良いのか」

「いつもはそうだったけど、今日からは、僕の席はここだよ」

 ウェンダリは清々しい瞳で俺を見つめる。

「大丈夫なのか?」

「別に決まりがあるわけじゃ無いからね。本当はどこに座ろうが、誰かにとやかく言われる必要なんてないんだよ」

「……ま、そうは言ってもな。平民の生徒は貴族と一緒に並んでも気まずいだろうからな。こういう暗黙の了解もまた自然の流れなんだろうさ」

 良い悪いは別にして身分で分かれているだけ、スクールカーストとしては実に分かりやすい。

「……それとも僕達が一番上に座るかい?」

 ウェンダリは小声で囁きながら、イタズラを思いついた子供のように「にまにま」と笑う。

 ウェンダリは王族だ。
 最上段の生徒を退かせて座る力がある。

 だが、それを必死に隠しているくせに、その冗談を口にするのは見過ごせない。

「……お前がそんな冗談を言うな。絶対に負けたくない戦いならば、どんな小さな油断でも禁物だ。どこでどうなっても自分に責任を持てるなら、好きにおちゃらけてもいいけどもな」

「ご、ごめんムスロ」

 ウェンダリは俺に真剣にたしなめられてしょんぼりと俯く。

「……でも、ありがとうなウェンダリ。「そんな僕が(王族)」最下層でも側にいるから気にするなよってことだろ? 心優しい気遣い嬉しいよ」

 俺が優しくそう言うとウェンダリは、両目をウルウルとさせて「ムスロ~」と言いながら泣きそうになる。

「ま、最上段のあいつらをどかせてまで座る価値なんて、あの席にはねーよ。場所なんて別に関係ないのさ。ようは自分の今いる場所で、あいつらに負けない程にどれだけ輝けるかだ」

「……凄いねムスロの前向きさは。うん、確かに僕もそうだと思う。だからこそムスロが、この席で良いなら、友達の僕はただムスロの横に座るだけさ」

「……好きにしろ」

「うん、好きにするよ! だって、友達と一緒に勉強したいからね!」

「……なるほど。目的はそれか」

 俺が苦笑いを浮かべると、ウェンダリはにっこりと楽しそうに笑う。

 教室内は俺とウェンダリの突拍子もない行動を前に、未だ静まり返っている。
 もちろんウェンダリ親衛隊の金切り声だけは響いていたが。

 そんな教室の中に一人の女性が「そこの女子達、静かにしろー」と言いながら入ってくる。

 半袖カッターシャツに黒いタイトスカート、短いタイトスカートの下には黒タイツの艶めかしい足。

 青色の髪をきっちりと後ろで結い上げ、縁なしメガネが理知的さを感じさせる。

 その女性は俺のクラス担当であるユズコ先生だった。

 ユズコ先生に注意をされたウェンダリ親衛隊は、しぶしぶ叫ぶのを止める。

 ユズコ先生はど真ん中の席に座る俺を見つけると、意外そうな表情を浮かべる。

「お、どうしたムスロ。その丸坊主頭に、座る場所。一体どういう心境の変化だ」

「落第するわけにはいきませんからね。気合いですよ気合い。それに、どうせ最前列なら、真ん中の方が勉強しやすいですから。ユズコ先生にも質問しやすいし」

 俺は学生時代を思い出しながらユズコ先生にそう言うと、ユズコ先生はおもむろに近づいてきて、俺の丸坊主頭を「ぽむぽむ」と叩きつつ撫でる。

「おー、ムスロ。良いことを言うじゃないか。この清々しい頭、先生嫌いじゃないぞー」

 ユズコ先生は縁なしメガネの端を指先で「クイ」と上げながら微笑む。

 昨日の鎧姿では分からなかったが、胸も大きく、黒い網タイツの生足が実に色気十分だった。

 わお、ここなら妙齢の女教師をかぶりつきで見れるな。

 俺のだらしない目線が分かったのか、ユズコ先生は俺の頭を撫でていた手を拳に変えて、こつりと俺の頭を打つ。

「真面目に頑張れよムスロ。お前は成績が色々と危険なんだからな」

 真剣な表情で怒るユズコ先生。

 俺もこれに関しては真剣に応える。

「はい、頑張りますので宜しくお願いします!」

 俺が軽く一礼するとユズコ先生は嬉しそうに笑う。

「うむ、宜しい」

 俺は、その人間味のあるユズコ先生の笑顔を見て、悪い人間では無さそうだと感じるのだった。
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