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よあけの部屋

□ 伝説になる騎士は元勇者(改) □

第8話 肉体の秘密

 俺は風呂から出るとウェンダリに風呂を促す。

「待たせたな。早く入れよウェンダリ」

「うん、そうするよ」

 ウェンダリはニコリと微笑むと、タオルや着替えやらを持ってバスルームに入っていく。
 しばらくすると、中からほんの微かに聞こえ始めるシャワーの音。

 別にドキドキはしない。

 俺の事は友達だとはっきりと言われてしまうと、こちらも「はー、そうですか」と言う感じだ。

 お互い良い友達で仲良くしていこう。
 こちらとしても学園生活を送るのに助かる。

 それに、ウェンダリは王族なのでコネを作っておくという点でも悪くは無い。
 なに、勇者だって打算的な事は考える。
 というか、そういう事が分からないと交渉やらも出来ないからな。

 まー、そもそも俺は病的に優しいだけの勇者様じゃなかったし、今では元勇者だし、今後は勇者をやるつもり無いからね。

 ただ、そうは言ってもたぶん学園の間だけの関係だろうから、後の人生ではあまり役に立ちそうにも無いんだろうけども。

 俺はクローゼットから新しいTシャツを取り出して着ると、ベッドの上に大の字で寝転びながら白塗りの天井を見つめる。

 しかし、相部屋仲間がまさかの男装女子で王女様とはな……。

 こんな定番のイベントは、前の異世界ではからっきし無かったから完全に油断してたわ。

 でも、ある意味、これこそが異世界ファンタジーだよな。

 元々の普通の世界では決して味わえない冒険、戦い、そして美しい女性達とのロマンス。

 まさに男の子の夢。
 ヒロイックファンタジー。

 普通では味わえない体験だからこそ、俺も元の世界ではオタク系の娯楽作品をよく楽しんだもんだ。

 もし、こういうジャンルがいらないと言える人がいるなら、それはそれは人生が充実しているリア充なんだろうさ。
 羨ましい限りだよ……とほほ。

 そういう観点から言えば前の異世界は本当に残念過ぎる。

 仲間は男ばっかりだし。
 ラブロマンスは全く無いし……。

 まー、男連中特有のバカ騒ぎの毎日だったという点では、かなり面白かったんだけれども、やはり異世界トリップものならラブロマンスでハーレムは欲しいよな。

 せっかくの異世界ファンタジーなんだから、男の子の夢がたくさん詰まってて欲しいよ。
 もう前の異世界みたいに勇者として血涙を流しまくる日々は嫌だ。

 でも、そんな俺もとうとう定番イベントを起こしてくれる異世界に来れたわけだ!!

 ここでならば、苦労するかいもあるってなもんよ。

 ただし、非イケメン体なのでハーレムを築ける可能性がとてつもなく低いんですけれどもね!

 もはやこの時点で、美男美女が前提のヒロイックファンタジーは崩壊していますけれどもねっ!!

 更には、定番イベントの男装女子の王女様からは、お友達宣言を頂きましたからねっっ!!!

 全くもってすまん俺!!

 中途半端に運が無くてすまん!!

 でも、頑張ろうぜ俺!!

 俺にも明日がやってくるんだぜ!!

 今度こそハーレムを楽しもうぜぃぃーー。

 うん、がんばろう……。

 がむばろう……。

 つまらないことをウダウダと考えている内に、新しい異世界転移による騒がしい一日の疲れが出たのか、俺はいつのまにか瞼を閉じ、意識を薄れさせると、そのまま深い眠りにつくのだった。




「ん……」

 俺は微かに感じる光と、鳥のさえずる小さな音に瞼を開ける。

 ベッドの頭側に窓があるお陰で、朝の光が目に入るようになっている。

 しかし、かなり薄暗い所を見るに、まだ早朝のようだった。

 俺は壁掛けの丸時計を見ると、針は朝5時前をさしている。

 ここは異世界だ。
 きっと魔法系の不可思議な動力で動いているのだろう。
 似たものが前の異世界でもあったからな。

 俺はベッドから体を起こす。

 横を見るとウェンダリは自分のベッドですやすやと眠っていた。

 うむ、この王女様は男の俺が横のベッドで寝ていても実に自然体だな。

 さすがは天然さんだ。

 まー、ウェンダリの事だ。
 本当に俺の事を友達だと思って、むしろ安心感が倍増しているのかもしれないな。

色 々とへんてこりんな奴だが悪い奴じゃない。

 女性とはいえ友達として信用をしてもらえることは、それはそれで有り難いし悪くはないなと俺は思った。

 俺はウェンダリの寝顔を見ながら小さく笑い、ベッドをおりてトイレに行く。

 さて、寝るのが早すぎたのか、かなり早くに目が覚めたな。

 とりあえず朝の素振りでもするか。

 でも、その前に朝の体重測定だな。

 俺はバスルームに行き、服を脱いでから洗面台の横にある体重計に乗ってみると、昨日と同じでメモリに変化が1mmもなかった。

 ……あれ?
 トイレに行って大を出したんだけれども……。

 なんかおかしくないかこの肉体。

 俺は目の前にあったゴミ箱を持ち上げてみると、ゴミ箱分の重さだけメモリが増える。

 ゴミ箱を元に戻してから、洗面台に手を置いて自分の体を浮かせると、当然、体重は軽くなりメモリも減少側に振れる。

「これは普通か……」

 うむ、分からん。

 まー、悩んでもしょうがないので、とりあえず朝の素振りをしよう。

 俺は部屋に戻り、木刀を手に持ちタオルを首にかけると、音をたてないように静かに部屋を出る。

 廊下には誰もいない。

 静まり返った寮内を歩いて俺は寮を出る。

 早朝の冷たくも爽やかな空気が肺を満たす。

 俺は昨日と同じ街灯の下にいき、軽く体操をしてから素振りを始める。

 途中で、前の異世界で使用できた専用チート、必殺技、魔法なんかを試してみるが、見事に発動しなかった。

 あー……あの輝かしくも懐かしい凶悪な技達は皆、本当に俺の元を去って行ったのか。

 となれば頼みの綱は、前の異世界を戦い抜いた経験だけか。

 とはいえ、チート、必殺技、魔法やらで大上段に構えていたから、そこは頭を切り替えないとなー。

 1時間程、素振りを続けていると、少しずつ寮内にも人の動きが感じられ始める。

 シャワーも浴びたいし、そろそろ戻るか。

 俺は首に巻いたタオルで、顔中から吹き出す汗を拭きながら部屋に戻る。

 まだ、時間的に朝の6時頃なので、静かにドアを開けてみるが、ウェンダリは既に起きて身支度を済ませていた。

 白い半袖カッターシャツに、ストレートの黒ズボン姿のウェンダリが俺に微笑む。

「どこに行ったのか心配したけど、木刀が無かったから素振りだったんだよね」

「ああ、早く目が覚めたからな」

「ふふふ。昨日、僕がお風呂から出てきたら、ムスロったらもう寝ていたもんね」

「昨日は色々とあって疲れていたみたいだからな」

「そ、そうかごめんねムスロ。僕のせいで心労をかけて」

 ウェンダリが申し訳なさそうに苦笑いする。

「それは別に大したことじゃねーよ。俺はこれからも普段通りにしていれば良いだけなんだからな。むしろ、ウェンダリの方が大変だろ。ま、頑張れよ」

「うん、頑張る!」

 嬉しそうに笑うウェンダリ。

「ところで朝飯は何時だったっけ?」

「6時45分から8時30分までだよ」

「授業は?」

「9時からだよ」

「うん、確かそうだったよな。とりあえず、汗をかいたからシャワーを浴びてくるわ」

「うん」

 俺はバスルームに入って、服を脱いでから体重計に乗る。

 もはや当然と言っていいのか、メモリは1mmも変化が無かった。

 俺はシャワーを浴びてから、制服が汚れたら嫌なので新しいTシャツとハーフパンツを着て、ウェンダリと一緒に食堂に行き、生徒達がほとんどいない朝一番のビュッフェ式の朝食を堪能する。

 皮がパリパリの肉汁たっぷりな焼きソーセージを10本。
 焼きたてのほかほか丸パン5つ。
 半熟の目玉焼き2つ。
 サラダとリンゴを細く切り分けたのを2つ。
 カップ入りのコーンポタージュ2杯。
 ミルク1杯。
 をガツガツとたらふく食べる。

 ちなみにウェンダリは、トースト1枚にバターを塗り、砂糖無しのコーヒー一杯のみだった。

「そんなんじゃ大きくなれないぞウェンダリ」

「ムスロみたいに食べたら、大きくなり過ぎちゃうよ」

 ウェンダリの言葉に俺は心の中で応える。

 ちゃんと大きくなれれば良いんだけどもな……俺の体。

 俺とウェンダリは食事を終えると席を立つ。
 7時をまわり続々と生徒達が食堂にやってくる。

 その流れに逆らいながら、俺とウェンダリはのんびりと部屋に戻る。

 俺は部屋に戻るやいなや、バスルームに入り、上下の服を脱いで体重計に乗った。

「うわ……マジかこれ」

 体重計のメモリは昨日から同じ位置を指しており、1mmも動いてはいなかった。

 あれだけ朝食を食べたはずなのに、少しも体重が増えていないのである。

 これは明らかな異常だった。

 どういう仕組みかは分からないが、俺の肉体は「変化」をしないのだ。

 元宿主が死んで、一瞬ではあるがこの肉体も確かに死んだ。

 しかし、俺の魂が入り込む事により、この肉体はまた再活動を始めたはずだ。

 アンデッドやゾンビというわけではないはず。

 俺は首筋に手を当てると、頸動脈の元気な鼓動を手に感じとる。

 肌には暖かみもある。

 昨日はワイズと喧嘩をして真っ赤な鼻血も出した。

 となれば、世の摂理を曲げた「歪み」か。

 他人の肉体に、他人の魂が宿るなど普通では無い。

 その歪みでこの肉体は、元宿主が死んだ時のままを維持し続けるようになってしまったのだろうか。

 肉体変化の停止、年を取らなければ不老不死なんだが、たぶん、そういうものでも無いはずだ。

 たくさんの漫画やゲームを見てきた俺の勘からすると、この流れから考えて一番に可能性が高いのが、きっと「体型の固定化」だろう。

 つまりは「非イケメンの固定化」だ。

 元宿主の無念の思いか、それとも前の異世界のあいつらの策略か、それとも、ただ単に世界の歪みなのか……。

 どちらにせよ、この異様さは、もはや「呪い」レベルのものと言っていい。

 俺はむっちりしたお腹の肉を摘む。

 そうかー、痩せられないのかー。

 体型は死ぬまで「おデブ」さんのままかー……。

 ……。

 ……。

 ……うーん。

 ……まー、いっか。

 絶叫して驚く程のことじゃねーな。

 なにせ、そもそも、この肉体そのものが俺の物じゃないし。

 痩せた所で、この不機嫌そうな面構えと低い背で、特別、格好良くなるわけでもなし。

 少し動きにくいのがあれだけど、慣れれば動けるデブになれるだろ。

 元の世界でも、元々、痩せていたダンサーなんかは、瞬発的にだけどキレキレに動けるもんな。

 仕方がない、やはり脳神経回路を鍛えて瞬発力にかけるしかないな。

 となれば、むしろこの体重が変化しない肉体を利用して、これからは好きな物を好きなだけ食べよう!

 うん、そうだそうしよう!!

 美食の食べ放題万歳!!

 こちとらポジティブこそがモットーの元勇者様だ。

 ヘコむことはあっても、ヘコみ続けるわけにはいかない。

 辛くともにっこり笑って前進だ。

 例えおデブのままでも、夢のハーレムだって諦めないぜ。

 別に世界中の女性に愛されたいわけじゃないからな。
 そんなの普通に対応しきれないし。

 世界中の女性の中の「たった数人」が側にいてくれるだけでいいんだ。
 人間の寿命からみて十分にハーレム人生さ。

 さあ、いざゆかん。
 俺の新しき幸せ人生街道!

 俺は脱いだ服を手に持ち、トランクス一枚のままでバスルームを出る。

 ウェンダリは女だが男として扱うので俺は気を使わない。

 ウェンダリの方も俺を友達としてしか見ていないし、今までもこうやって共同生活をしてきているはずだ。

 実際、ウェンダリも特に驚くこともなく平然としている。

 俺としても気楽でいい。

 俺はクローゼットから制服を出して着込む。

「んじゃ、ウェンダリ。教室の場所が不安だから連れて行ってくれるか?」

「うん、もちろんだよ。一緒に行こうムスロ!」

 ウェンダリが何やら瞳を輝かせている。

「もしかして相部屋同士、一緒に部屋を出て教室に行くのも夢なのか?」

「もちろんだよ!」

「あーそう、おめでとう」

 俺は気怠そうに応える。

「ありがとうムスロ! 僕は本当に嬉しいよ!!」

 上機嫌のウェンダリに連れられて、俺は迷宮騎士学園の教室に向かうのだった。
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