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よあけの部屋

□ 伝説になる騎士は元勇者(改) □

第7話 お風呂に入ろう

 俺は部屋に戻ると汚れたタオルを、お礼を言いつつウェンダリに返す。

 ただ、顔の汗はタオルで拭けても体中は汗でベタベタなので、さっさと風呂で洗い流したい所だ。

「なーウェンダリ。この部屋のお風呂って入れるんだよな?」

「うん、入れるよ。僕も入るつもりだけど、ムスロが先に入りなよ」

「おう、ではお先に」

 俺は汗で汚れた白Tシャツを脱ぎ捨てて、クローゼットの中から自分のタオルを取り出す。

 ウェンダリは左壁に置かれている自分のクローゼットの前で、なにやらモジモジしている。

「どうしたウェンダリ?」

「そ、そそそうだー。ぼ、ぼぼぼぼ僕達は友達になったわけだし、いいいい、いいい、一緒にお風呂に入って、友情を育むというのもアリだよねーー!!」

 顔を真っ赤にしながら何を言ってるんだこいつは。

「なんだ、俺と一緒に入りたいのか?」

「ううう、うん!」

「もしかして、それもまた夢の一つか?」

 ウェンダリは「ぶんぶん」と力強く頭を縦に振る。

 まー、元の世界では男子校、前の異世界では仲間は男だらけ、男同士皆でワイワイと大風呂に入るのは慣れているから、別にどうってことは無いので俺は軽く返事をする。

「まー、ウェンダリも汗をかいているから待たせるのも悪いしな。一緒に入る方が効率的だから一緒に入るかウェンダリ」

「――う、うう、うんっ!!!」

 声を詰まらせながら頷くウェンダリ。

「なら、ほらウェンダリもさっさと脱げよ」

「――わわわわ、分かったよ!!!」

 ウェンダリは白Tシャツの裾を両手で掴むと、グイッと持ち上げて脱ぎ捨てる。

「――さ、さあムスロ!! お風呂で共に青春の汗を流そう!!!」

「……」

「……ムスロ?」

「……」

 俺はウェンダリの裸の上半身を凝視していた。

 おかしい。

 なぜだ。

 どういう事なんだ。

 俺にはこの現実がさっぱり分からない。

 なぜか、ウェンダリの胸板にDカップはあろうかという「たわわ」な美乳が二つ実っていたのだ。

「……おいウェンダリ。お前、男なのにおっぱいが付いてるのか?」

「……へ?」

 ウェンダリはきょとんとしながら自分のおっぱいを眺める。

 そして、自分のおっぱいを両手で持ち上げて「たゆん」とさせると、俺の顔を見ながら頬を引きつらせる。

「……え? ムスロ、僕の「胸」が「見える」の?」

「……ああ、見えるよ。なかなか良い形をしてるなウェンダリ」

 前の異世界では女、つまりは娼婦にも溺れていたせいで女の裸は見慣れてはいるのだが、それにしても実に形の良いおっぱいなので、俺は思わずウェンダリの生おっぱいに合掌してしまう。

「ありがたやー」

「――いいいいいいやああああああああああ!!!!!」

 ウェンダリは今日一番の甲高い声で絶叫しながら、両腕で胸を隠してその場にうずくまる。

「――って、いやああああああ!! じゃねーよっ!!! なんだよそれ!! 意味が分からんっ!!!」

 ウェンダリの絶叫にあてられて俺も思わず叫び返す。

「――なんでっ!? なんでなのっ!? この学園の関係者全員に「魔法」がかかっているはずなのに!? ムスロも何度か僕の裸を「男」と認識していたはずなのにっ!?」

 ウェンダリは完全なパニック状態に陥り、銀髪の丸みのあるショートボブカットを振り乱しながら涙目で何かを叫んでいる。

 俺はウェンダリが脱いだ白Tシャツを手渡そうと拾い上げると、その白Tシャツの中には胸を締めつける為の専用のブラが重なっていた。

 どうやら、脱ぐ時にブラを見られないように一緒に脱ぎ捨てたようだ。

 俺はその白Tシャツ&ブラをウェンダリに手渡す。

 ウェンダリは片手で胸を隠しながら、残りの片手で引ったくるように白Tシャツを受け取ると、それで自分の胸前を隠す。

 俺はいまいち事態が飲み込めなかったが、ウェンダリが胸を見られることを恥ずかしがっているので背中を向ける。

「とりあえず早く着ろよ」

「……う、うん」

 ゴソゴソと服を着る音がする。

「……い、いいよムスロ」

 俺が振り返ると、既にウェンダリは白Tシャツを着込んでいた。

 だが、胸を締め付ける専用ブラは付けていないようで、白Tシャツには二つの柔らかそうな山が出来ていた。

「さて、聞かせてもらおうかウェンダリ君」

「……は、はい」

 ぽつりぽつりと語りだしたウェンダリの話は、要約するとこうだった。


・男子のふりをしていた。

・裸を見られてもバレないように、学園関係者全員に認識を歪める「魔法」をかけてある。

・つまり、ウェンダリは立派な女子である。


 理屈は理解できるが突っ込み所は満載である。

 俺はため息混じりに上半身裸のまま、部屋の真ん中のテーブルにあるイスに座る。

 ウェンダリはしょんぼりとしながら、自分のベッドに腰かけている。

「さて、何から突っ込んだものやら……」

「……ごめんなさい」

「別に謝る必要はないさ。それよりも説明してくれよ。何だって男子のふりをしていたんだ?」

「……身分を隠さないとダメだから」

「身分? 確か平凡な中騎士の家とか言っていたよな。違うのか?」

 ウェンダリは「こくり」と小さく頷く。

「私の本名は……ダリアンヌ=リンディッシュなの」

 はて……リンディッシュ?

 どこかで見た名前だな。

 俺はハッとあることに気がつくと、自分の机の上に置きっぱなしの教科書を掴みあげてパラパラとめくる。

 そこには迷宮王国「ゴッドパレス」という国の名前の後に、「国王」の名前が書いてあった。

 現国王グラハム=リンディッシュ。

 つまり、リンディッシュ家とは王家の事だ。

「ウェンダリ……。お前、この国の王家の人間なのか」

「……うん。この国の第四王女です」

 ウェンダリは申し訳なさそうに項垂れる。

 へー。

 まー、俺は別にウェンダリが王族だからといって驚きませんけどね。

 元宿主ならウェンダリに冷たくしていた事もあって恐怖で気絶しそうだけれども。

 というか、そもそも俺だって王様だったからな。
 もちろん前の異世界での話だが。

 ただ、そういうことなら、ウェンダリの妙に世間ズレした言動と、行動の数々が少しは納得できるな。

 ようするに、王家らしい箱入り娘で世間に少々疎いのか、学園に異常な憧れでも抱いているのか、そういう少し残念な子なのだろう。

 本人は女の体なのに学園の友達同士とはいえ、俺が男であろうと一緒にお風呂に入って汗を流しあいたいなど普通じゃない。

 何やら独特の妄想というか憧れを、この迷宮騎士学園生活に求めているせいか、友達ゼロの日々のせいで不満が相当、鬱積(うっせき)していたみたいだな。

 それで、俺という友達が出来た嬉しさから暴発してこの有様と。

 にしても、かなりのぶっ飛び加減な王女様だな。

「……でだ。騎士学園全員にかけていた認識を歪ませる「魔法」ってなんだよ?」

「それは……私の裸を見ても、男子に見えるようにする魔法なの」

「それならば、顔の認識を歪めて女子としての入学ではダメだったのか?」

「そこまで細かい事はできないみたいなの。あくまで「有る物」を無くして「無い物」を有るように「思わせる」という感じが限界だったみたい」

 つまり女子の胸を無くして、男子のゾウさんを有るように「思わせて」いたんだな。

「それなのに、その胸を潰すブラは必要なのか?」

「うん、もし胸を触られたら認識と感覚に違いが生まれて、相手にかかっている魔法の効果が弱まってしまうから」

 おいおい、それなのに俺とノーガードでお風呂に入るつもりだったのかよ。
 どれだけ、友達とのお風呂が夢なんだよウェンダリ!

 俺は、俺とは違う意味でぶっ飛んでいるウェンダリを眺めながら苦笑いを浮かべる。

 まー、夢は人それぞれだし、俺も色々と狂ってるから別に攻めはしないが。

 いやー、箱入り娘だったのかはしらないが、なかなかの不思議ちゃんだな。

「しかし、その顔には何の細工もしていないって、王女様なのに大丈夫なのか?」

「私は政治の表舞台には出ていないから、皆そんなに詳しくは知らないと思う。もし知っていても名前ぐらいかな。ただ、それでも用心に用心を重ねて、名前と性別を変えて髪もバッサリと短くしたんだけれど……」

 ウェンダリはため息を吐き捨てながらがっくりと項垂れる。

「しかし、学園関係者全員に魔法とはまた……」

 この異世界における魔法の事は分からないが、前の異世界なら確実に大魔法クラスだな。

 まー、内容自体はしょうもないが、対象者の数が凄いからな。
 もし、ここの異世界でもこれが大魔法クラスならば、さすがは王家だからこそ出来る力技か。

「しかし、なんでそんな回りくどい事を。王家の王女として堂々と入学はできなかったのか?」

「それをしてしまうと皆が気を使って、私本来の実力を評価してもらえなくなるから」

「いいじゃん別に。卒業には変わりないだろ」

「――それじゃダメなの!!!」

 凄い剣幕で怒るウェンダリ。

 俺は初めてウェンダリが怒る顔を見た。

 どうやら、この件に関しては、ウェンダリなりの覚悟と決意があるようだった。

「なにがどうダメなんだよ?」

「……それは、言いたくない」

「なら、別に聞かない」

 俺は即座に引き下がる。

 無理に聞いても良いことはあまりない。
 こういう時はじっと待つのが得策だ。

「……え? 聞かないの?」

 ウェンダリの方がきょとんとしている。

「王家の姫様の道楽じゃないんだろ?」

「――そ、そんなんじゃないよ!!!」

「贔屓目(ひいきめ)無しで卒業したいだけなんだろ?」

「――うんっ!!」

 ウェンダリの真剣な目を見て俺は頷く。

「なら、別にいい。聞かない」

「……あ、ありがとうムスロ。で、でも、私の事はどうする? 学園に言うよねやっぱり……。王家の人間で、しかも女子と同室とか困るよね」

「言うわけないだろ」

「――え?」

「ウェンダリはこういう方法を取るしか、自分の何かを達成することができないんだろ?」

「……う、うん」

「なら、それを邪魔するほど俺は野暮(やぼ)じゃない」

「じ、じゃあ、このまま私はここにいても良いの!?」

「当たり前だろ。これからも外ではちゃんと男子として扱ってやるよ。ただし、名前はずっとウェンダリな。下手に使い分けない方がいいし、何より俺が楽だ」

「――あ、ありがとうムスロ!!!」

 ウェンダリは「ほっ」としたのか満面の笑みを見せる。

「むしろウェンダリは、男の俺と一緒の部屋でも良いのか?」

「全然、大丈夫だよ! 今までも一緒だったんだし、それに、もう僕達は友達でしょ!!」

 あーはいはい「友達」ね。
 女子が遠回しに言う「異性としては感じてない」というやつだね。
 まー別にどうでも良いですけれども。

「でも……それにしてもどうしてムスロだけ魔法が解除されたんだろ……。王家の宮廷魔導士達が施してくれたのに」

「何か欠陥でもあったんじゃないか?」

「一応、対象者が死ねば解除される最高級の付与魔法のはずなんだけれど、付与力が弱かったのかな?」

 ……。

 な、なるほど。
 そういうカラクリか。

 確かにこの肉体の元宿主は「死んでいる」からな。

 その時点でこの付与魔法は解除された所に、俺がこの肉体に入ったから、ウェンダリの本当の姿が丸見えになってしまったわけか。

「き、きっと付与力が弱かったんだろ。それが俺で良かったなウェンダリ!」

 俺はこの話題をさっさと切り上げるために適当に話を進めさせる。

「うん、友達のムスロで助かったよ!」

「じゃあ、俺が先に風呂に入るな!」

「うん、お先にどうぞ」

 ウェンダリが微笑んでくれる。

 俺はそそくさとバスルームに入って扉を閉める。

 この肉体の元宿主が死んだと知られたら面倒くさいからな、この話題には余り触れないようにしよう。

 まー、もしもの時は、あの時の気絶が、実は心臓発作の仮死状態だったとでも言って、ごり押しするしかないな。

 うん、そうしよう。

 さて、それじゃあ風呂に入りますか。

 俺はハーフパンツを脱いでトランクス一枚になると、全裸になる前に体重計に乗る。

 ん……? 

 運動前の時とメモリの針が1mmも違わない?

 あれ……脂肪が燃焼しにくいのかなこの体。
 しょうがないな、明日も頑張って運動するか。

 俺は気軽にそう思いながら風呂に入ると、運動でかいた汗を温かいお湯で洗い流すのだった。
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