FC2ブログ
 

よあけの部屋

□ 伝説になる騎士は元勇者(改) □

プロローグ

 反省をしているか。

 と問われれば間違いなく「YES」と俺は答えるだろう。

 だが、どう反省をしているのか。

 と問われれば、俺の答えがあいつらを納得させることは無理かもしれない。

 あいつらにも言い分はあるだろうが、俺にも言い分はあるからだ。

 俺の名前は槍町 英一(やりまち えいいち)。
 年は25才で男。
 見た目は悪くない、と思う。

 かつては社会人として働きつつ漫画とアニメとゲームを嗜みながら生きていた何の特徴も無い平凡な男である。

 だが、それは「かつて」の話である。

 ある日、俺は漫画やゲームなどのファンタジー物語でよく見られる異世界転移という現象に巻き込まれてしまい、魔物の攻勢により滅亡の危機に瀕しているこの異世界にやってきた。

 そして、転移者の特権でもある様々なチート能力を駆使しつつ数々の困難を乗り越えて逞しく成長しながら、涙あり燃えありの激闘の末に見事に異世界を救いきり「救世の勇者」となったのだ。

 しかも、異世界を救った後は皆から請われる形で異世界の王にまでなった。

 魔物がいなくなった異世界に訪れる平和。

 それは見事なまでに何も起こらない平穏。

 先日までの血沸き肉踊る日々が夢か幻かと言うぐらいの安寧である。

 正直、俺はこの平穏を持て余してしまったのだ。

 当たり前だが、この異世界には俺の趣味である漫画、小説、アニメ、ゲームなどのオタクアイテムは存在しない。

 もちろんインターネットやテレビも無い。

 魔物達との命を懸けた刺激的な激闘の日々ならばそんなものなど必要はないのだが、こうも平和になってしまうと有り余る時間を前に苦痛すら感じてしまったのだ。

 それならばと、俺はこの異世界にもある娯楽に手を出した。

 それが、酒と女であった。

 綺麗な踊り子達の舞や盛大な演劇を見ながら、酒と美食と女にまみれて暇な時間を潰した。

 異世界の危機を、皆の命を救ったのだ。

 多少の贅沢は当然の権利だと思っていた。

 だが、あいつらはそうは思わなかった。

 あいつらとは、滅びゆくこの異世界を救うために共に戦った現地の仲間達である。

 各国の王族、騎士、戦士、魔導士に僧侶、異世界の人類は俺に希望を託し、俺に命を預けてくれた盟友達である。

 だが、俺の無計画で無謀な遊蕩三昧(ゆうとうざんまい)に呆れ果て、各国は再建中ゆえに厳しい財政が更に逼迫(ひっぱく)したことにより我慢の限界へと到達し、とうとう俺の排除に動き出した。

 結果、あいつらは各地の賢者クラスの大魔導士連中を召集すると、泥酔状態の俺に元の世界に強制送還する為の「異世界転移魔法」を遠慮無くぶち込みやがったのである。

 恩を仇で返されるとは、まさにこの事か。

 いや、でもね。
 最初にも言った通り反省はしているのだ。

 確かに、各国が再建に大変な中で、金庫が空っぽになるほどに散財して遊んだ事は重々に反省している。

 民の血税だからね。

 しかし、だからと言って救世の勇者様を世界から追い出すってあんた……。
 あまりにもやり過ぎだろうが。

 ……いや、うん。

 まー、俺もあいつらの度重なる説得が聞こえない程にやさぐれていたからね……。

 やはり、自業自得か。

 しょうがない。
 元の世界に戻ったらまた会社勤めの毎日に戻って平凡に生きていこう。

 でも、今度は俺の大好きなオタクな娯楽があるから大丈夫だな。
 うん、きっと大丈夫だ。




 今まさに異世界転移中の英一は七色に光り輝く異次元の壁を飛び越えながら「とほほ」とため息をつく。

 しかし、英一はまだ気がついていなかった。

 賢者達が放った「異世界転移魔法」は、元の世界に帰る為のものではないことを。

 しかし、結果から言うなれば英一にとってはこれで良いのだ。

 英一の問題点の本質は刺激的な日常に対しての「依存」なのだから。

 もし、元の世界に戻っていたならば、きっと英一は更なる平凡な日々に耐えられなかっただろう。

 かつての仲間達の「情け」により、英一は新たなる刺激的な異世界へと迷い込む。

 それは、英一が勇者になった時よりも遙かに自由かつ奔放で、刺激的な日々の幕開けであった。
関連記事



*    *    *

Information