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よあけの部屋

□ 鋼鉄の乙女達と命令使い □

第9話 超人種

 真之(さねゆき)は眠り込んでいる椿(つばき)を一旦その場に置いたまま傭兵狩り達の亡骸に近づいていく。

「なにか回収できるものはしておきたいんだが……」

 しかし、近距離で戦車の砲撃を受けた傭兵狩り隊長達は全身バラバラの状態になっていた。

「……グロいな」

 真之は目を背けるように顔を逸らして辺りにも視線を向けると、先に銃撃で倒した傭兵狩り達も砲撃による衝撃を受けてしまったらしく、彼等が装備していた突撃銃なども無残に壊れていた。

「……どうやら回収は難しそうだな」

 真之がそう呟いた瞬間、返ってくるはずのない返事が真之の背中から聞こえてきた。

「あら、それらの装備品が要らないのなら、私がもらっても良いかしら?」

「え?」

 真之は慌てて振り返ると、仰向けで眠り込む椿の側で1人の女性が悠然と立っていた。

 透き通るような白い肌。
 燃えるように鮮やかな真っ赤な色をしたベリーショートの髪。
 背丈は真之よりも少し高いぐらいの長身かつ大きな胸。
 白い肌に映える露出過多な黒のビキニ。
 その上に道具入れのポーチがいくつも付いている緑色の軍用ベストを羽織っており、靴は黒の軍用ブーツ。
 腰には革製のガンベルトを巻き、西部劇で出てきそうな素朴ながらも無骨な回転式拳銃が下げられている。
 軍用ベストの背中には専用の銃身保持装具が付いており狙撃銃を背負っていた。
 見惚れてしまうほどにスタイルの良い女性は、ルージュで光る厚ぼったい唇を真一文字に結んだまま立ちつくしている。

 髪と同じ赤色の瞳で真之を静かに見つめてくる女性。

 一呼吸ではあったが思わず見惚れてしまった真之は、やっと女性の普通ではない特徴に気がついた。

「(……耳が突き出すように長く、そして額にも「目」がある)」

 真之の視線が自身の耳と額の「目」に注がれていることに女性は即座に察知した。

 女性は目を細めると少しだけ冷たい雰囲気を醸し出す。

 だが、真之はそんなことなど気にする暇も無く、いかにもファンタジーっぽい人種に会えた喜びに少しばかり感動してしまっていたのだった。

「(三つ目なエルフってやつか? なるほど、さすがは異世界。戦車娘の次は亜人か。だが、それにしても昔に読んでいた漫画のヒロインが三つ目だったが、まさかそれにエルフを加えるとか何とも贅沢な組み合わせだな)」

 真之の心の中での感情は表情にも漏れ出しており、真之の瞳が少しばかりランランと輝いていることを見た三つ目のエルフらしき女性は、細い眉をぴくりと動かしてから拍子抜けしたように少しだけ首を傾げる仕草を見せた。

「……貴方、帝国軍人よね。なのに、私のようなオーバーズを見るのは初めてなの?」

「……ん、オーバーズ? 三つ目なエルフじゃないのか?」

「三つ目はそうだけど、エルフ? なにそれ」

「(どうやら違うようだな。やはり純粋なファンタジー異世界ではないから、そう単純なものではないか)」

 真之は自分の考えが間違っていたことに気がつくと、すぐに言葉を濁して話題を変えることにした。

「あ、いや、違うなら何でもない……気にしないでくれ。それよりオーバーズとはいったい何なんだ?」

「超人種(オーバーズ)、人間を超えた力を使える者達の総称よ。その中でも私達「サイコバトラー」のような人間は、見ての通り目が3つあったり耳が長かったりとか色々と身体的な特徴があるの」

「サイコバトラー?」

「|超能力使い(サイコバトラー)、超能力で戦う者という意味よ」

「……へー、なるほど、超能力者か」

 真之が特に驚くでもなく平然とした態度で頷くと、赤髪の三つ目女性が少しだけ眉根を寄せた。

「……私のこと、少しも怖くは無いの?」

 真之は思わず自虐的に小さく鼻で笑った。

「(まー、超能力と言われてもあれな感じだが、「武装擬人(ヒューマノイドアームズ)」な椿を見てしまった以上、仮に超能力が本当だとしても素直に受け止められるよ)」

 真之は心の中でそう呟いてから、赤髪の三つ目女性に言葉を続けた。

「今更、というのはこちらの話だが、別に驚きもしないし怖いとも思わないさ。しかし、なぜそんな事を聞くんだ?」

 真之は率直に聞き返すが、なぜか赤髪の三つ目女性の方が困った表情を見せた。

「なぜ……と、聞かれてもね。普通の人間は普通からかけ離れた「超人種(オーバーズ)」がお嫌いみたいだから」

「ちなみに1つ聞くが、君もさっきの傭兵狩りみたいに俺達を襲うつもりだったりするのか?」

「しないわよそんなこと。私はただの傭兵だもの。まー、確かに普通の人間とはあまり仲が良くもないけれど、だからといって特に悪くもないわ」

「なら、俺が怖がる理由はやはり無いさ」

 真之の言い方があまりに即答かつあっさりとしていたので、赤髪の三つ目女性は無表情だった口元をほんのわずかだけ動かして微笑む。

「貴方って変な人間ね」

「そうか?」

「ええ、変よ。かなり変。で、話を元に戻すけれど、そこの傭兵狩り達の装備品が要らないのならば私がもらいたいんだけれども?」

「ああ、このバラバラな奴等のは別にかまわないよ。ただ、使えそうな物は無さそうだけれどもな」

「あら、さすがは軍人さん。貴方達は物資に困窮することなんてないものね」

 赤髪の三つ目女性は真之の側を通り過ぎると、肉塊となっている傭兵狩り達に近づいていき壊れた突撃銃や、それらのパーツ、または血まみれの銃弾などを拾い上げていく。

「私達にとっては壊れていても貴重な資源なの。これでもスクラップ屋に持っていけば資源として良い値段になるのよ。もちろん修理ができれば武器として更に高値で売れるわ」

「……なんだ、そういう利用法もあるのか。惜しいことをしたな」

「惜しい? どういうことかしら」

「いや、ちょっとばかし記憶が欠落していてね。慣れないサバイバルで困っていた所なんだ。それらが金になるのなら惜しいことをしたなと思っただけさ」

「貴方、記憶が無いの?」

「少しな。戦闘の後遺症なのか、いまいち分からない事があるという感じかな」

 真之は適当にそれらしい嘘をついた。

「なるほど、それでさっきからおかしな事ばかり言っていたのね。ま、確かにそういう症状もあるとは聞いたことがあるわ。それなら、これは貴方にあげる」

 赤髪の三つ目女性は壊れた突撃銃3丁のうち2丁を真之に手渡してくる。

「良いのか?」

「ええ、むしろ貴方達が彼等を倒したのだから本当なら全部が貴方達の物よ。何ならこの1丁も持っていく?」

「いや、一度はあげるといった以上、そんな野暮な事はしないよ」

 真之がそう言った瞬間、赤髪の三つ目女性は、三つ目を少し大きく見開いてから小さく鼻で笑った。

「貴方、本当に変わっているわね。このご時世にしては驚くような義理堅さだわ」

「そうか?」

「ええ、普通ならここは威嚇しあって、もしくは殺しあってでも資源をより多く奪い合う場面よ?」

「あー、なるほど。やはりそういうのが普通か」

「ええ、普通ね」

「ま、他人は知らないが俺はこういう感じだから」

「そう」

 赤髪の三つ目女性は興味無さそうに小さく呟いて頷くと、そのまま真之の横を通り過ぎて行く。

「それじゃね軍人さん」

 別れの言葉と共に立ち去ろうとする赤髪の三つ目女性に、真之は思わず声をかけた。

「あ、そうだ。1つ聞いてもいいかな」

「……なに?」

 赤髪の三つ目女性は体を反転させて真之に向き直る。

「俺達、第1傭兵基地という所に行きたいんだが、肝心の道案内が眠りこけてしまってさ。あんたも傭兵ということはもしかして場所を知っているかな」

「ええ、知っているわ」

「なら、道案内を頼めないかな」

「……道案内」

 赤髪の三つ目女性の表情が少し曇る。

「……私からも1つ聞かせてもうけれども、貴方は第1傭兵基地の跡地に何の用があるのかしら」

「……跡地?」

 赤髪の三つ目女性の質問に、真之は呆然と聞き返すことしか出来なかった。

「ええ、跡地よ。だって第1傭兵基地は3ヶ月ほど前に幻想種群の襲撃を受けて全滅したもの。その様子だと知らなかったようね」

「……3ヶ月も前に?」

「ええ」

「(どうやら椿の情報は古かったようだな。ま、確か情報権限が無いとかも言っていたし仕方が無いのかもしれない……)」

 唯一の希望が崩れた事を知った真之はショックを隠せなかった。

「で、どうするの? それでも跡地に行くの?」

「……いや、跡地に行っても仕方がないさ。俺達は人のいる場所で一息つきたかっただけだからさ」

「……そう」

 赤髪の三つ目女性は真之の今後など興味が無さそうに適当に相槌をうつと、その場から立ち去ろうとまた歩き出す。
 その後姿を見た真之はあることに気がつき思わず声をかけた。

「そういえば、あんたはこれから「どこ」に帰るんだ?」

 真之の鋭い指摘に、赤髪の三つ目女性はその場で立ち止まると振り返らずに答えた。

「……キャンプよ」

「そこには人がいるのか?」

「ええ、まあ」

「そ、それならば、俺達もそこに連れて行ってはもらえないだろうか!」

 赤髪の三つ目女性は顔だけで振り返り、赤い瞳の三つ目で真之の顔をじっと見つめてくる。

「……別に構わないけれども、普通の傭兵達は私達「超人種(オーバーズ)」よりも、本軍の軍人さんがかなりお嫌いだけれど、それでも大丈夫?」

「……え?」

 赤髪の三つ目女性の女性の問いかけに真之は言葉を詰まらせる。

「え、いや、それはそれでちょっと……困るな。それならば、この軍服を捨てた方が良いのかな?」

「それはあまりお勧めしないわ。裸になんてなったらハゲワシのような輩達に群がれて一巻の終わりよ。それよりも嫌われはするけれども畏怖の対象でもある軍服なら、少々の傭兵達はおいそれとは近づいてこないでしょうから、むしろ着ておくべきね」

「そ、そうか」

 真之は軍服を脱ぎ捨てようと上着のボタンに手をつけていたが、赤髪の三つ目女性の話に納得しておもむろに手を離した。

「……で、どうするの?」

「あ、いや、うん。どうせここにいたってジリ貧なんだ。そのキャンプとやらについて行かせてもらうよ」

「……そう」

 赤髪の三つ目女性がため息混じりで気怠そうに答えたのを見て、どうやら「面倒だな」と思われたらしいと真之は察知した。
 真之は慌てて、もらった突撃銃のうち1つを赤髪の三つ目女性に差し出した。

「これで道案内料。ダメかな?」

 真之の問いかけに赤髪の三つ目女性は表情の変化が分からない程の小ささで微笑んだ。

「貴方、本当に変わっているわね」

「なにかおかしかったか?」

「そういう時の報酬は後払いが基本よ」

「……なるほど、約束を反故(ほご)にされないためか」

「そういうこと」

「もしかして、このまま先払いしてしまうと裏切るのかい?」

「いいえ、今回に関しては裏切る方が面倒だわ。軍人さんから余計な恨みを買うなんて割に合わないしね」

「なら、道案内を頼めるか?」

「ええ、そろそろ私も帰るつもりだったし、報酬が貰えるならば別にかまわないわよ」

「じゃあ、宜しく頼むよ」

「……ええ、分かったわ」

 赤髪の三つ目女傭兵は真之から壊れた突撃銃を受け取るとベルト部分を肩にかけた。
 真之はリュックサックを放棄して肩下げ鞄の方に必要な物をまとめ直すと、眠り込んでいる椿を背負う。
 真之が椿を背負う姿を見た赤髪の三つ目女傭兵が微妙ながらもその目を見開いた。

「貴方……軍人さんなのよね」

「どうやら、そうらしいな」

「……それ、壊れた武装擬人(ヒューマノイドアームズ)でしょ? 破棄するのが普通なのに置いていかないの?」

「ああ、そういう意味か。俺はそういうことをしないの」

「……なんだ。後で回収しに来ようかと思ったのに」

 赤髪の三つ目女傭兵は本当に残念そうに呟いた。

「あ、もしかして持ち帰って資源として売るとか」

「しないよ。ちゃんと修理してもらうのさ」

「……貴方、本当の本当に変わっているのね」

「だから他人の事は知らないっての。俺は俺のやりたいようにやっているだけさ」

「ふーん」

 赤髪の三つ目女傭兵は興味無さそうに呟いたが、その真っ赤な3つの瞳は真之の顔を捉えて離さなかった。
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