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よあけの部屋

□ 鋼鉄の乙女達と命令使い □

第7話 有終の美

 私の名前は九七式中戦車チハ型、椿(つばき)。
 外見年齢設定は18歳。

 人間によって作り出された「武装擬人(ヒューマノイドアームズ)」と呼ばれる戦車ノイドであり、つまりは武器であり消耗品である。

 私達チハ型は戦車ノイドの中で最弱であり、そして最も製造コストが安価である私達に課せられた任務は部隊最前線からの突撃である。

 幻想種群に対して決死の突撃を行い、幻想種群の進行を停止、もしくは緩和させ、そこに私達ごと味方が砲撃を浴びせかける。
 まさに捨て駒である。

 角田中隊長の元で任務についていた時、私はこの突撃任務に恐怖を感じたことは無かった。
 むしろ誇らしくさえあった。
 でも、ただ1人生き残ったあの日、体中が故障してしまったと同時に、この思考回路さえも壊れてしまったのだと思います。

 あの日以来、私は死に対して恐怖を覚えました。
 だから、廃墟の奥で死を恐れて隠れ続けたのです。
 そんな時、人間の上官である雪村様に出会いました。
 こんなポンコツな私を前に、厳しい叱責は1つもなく、ただただ優しくしてくれました。
 消耗品である戦車ノイドだというのにです。
 やはり、あの時、お見かけした時の部下に対する優しそうな振る舞いは本物だったのだと確信しました。
 そして、そんなお優しい方が、故障まみれの廃棄物同然の私を部下にして下さいました。
 私の戦車ノイド人生において、これほどの名誉と栄光は無いと私は思います。

 そして、雪村様の為に突撃任務を遂行できることがとても嬉しいです。
 もちろん死ぬことは今も怖いですが、雪村様の為ならばこの命、惜しくはありません。

 どうして私1人だけが生き残ったのかと悩んだりもしましたが、今はこの為だったのかと妙に納得しています。
 戦車ノイドである私に優しくしてくれた上官がいた事は、きっと私の仲間達も喜んで聞いてくれると思います。
 本当に素晴らしい土産話を下さり雪村様には感謝しかありません。

 どうか、どうか、無事に第1傭兵基地までご帰還されますよう、心から祈っております。




 椿の戦車体の装甲はエネルギー不足ゆえに強度が下がっているのか、突撃銃の銃弾ながらもへこんだり、ボロボロと欠けて崩れたりしていく。
 椿は砲塔下部に埋め込まれている副兵装の九七式重機関銃の銃身を、壁から上半身をさらしている傭兵狩りに対して狙い定めて単発射撃するが、体に襲いかかる銃弾の雨による痛みにより狙いがずれて外れてしまう。

「(ああ……貴重な弾薬が……残りは3発)」

 椿は歯を食いしばりながら九七式重機関銃の狙いを定める。

「(敵の数は約6人。弾の数は明らかに足らず。弾薬が切れた場合、自決は不可能……)」

 戦車ノイドがならず者に鹵獲(ろかく)された場合、待っているのは改造と拷問による手荒な洗脳である。
 だからこそ、敵の手に落ちる前に自決をするように教えこまれていたのだが、椿は自身に迫る地獄の未来を前にしつつも銃口を傭兵狩り達に向け続けた。

「(それでも……それでも、雪村様を追撃する傭兵狩りを1人でも減らせるのならば、私の自決用の弾薬など惜しくは無い……)」

 椿は九七式重機関銃から銃弾を撃ち放つ。
 今度の1発は見事に傭兵狩りの胸部を貫通した。

「――おらおら! 兄弟どもビビってんじゃねー!! あの戦車ノイド、機関銃は大事に単発射撃、砲弾に関してはやっぱり1発も無いみたいだぞ!! どんどん横に動きながら弾を浴びせてやれ!!!!」

 傭兵狩り達の隊長らしい筋骨隆々で無精髭(ぶしょうひげ)な男の声に呼応して、5人の傭兵狩り達が壁向こうで一斉に立ち上がると、左右に移動しながら突撃銃を椿に浴びせかける。

「(うぅぅ……痛い……痛いよぉ……)」

 椿が涙目になりながらも銃口を傭兵狩りに向けて照準を定める。

「(――当たれ!!!)」

 椿の願いが通じたのか、次の弾も傭兵狩りの腹部に命中する。

「(あ……あと1発……)」

 椿は車体で傭兵狩り達を踏みつぶしたい心境に襲われるが、今の弱った自分の装甲ではこれ以上、近づくことは無理だった。

「(最後の突撃はこれを撃ち終わってから……。そうすれば後は何も考えずに突撃してあいつらを踏みつぶしてやる)」

 椿は最後の1発を慎重に射撃するが、銃弾は傭兵狩り達をすり抜けて後方へと抜けていく。

「(うぅ! ポンコツな私のバカバカ! で、でも、最後の突撃で1人でも多くひき殺すぞ!)」

 椿は大きく息を吸って歯を食いしばるとキャラピラを全開に回して、傭兵狩り達が隠れている壁に向かって突進していく。

「お、おい!! 戦車が突撃してきたぞ!!」

 椿の突進に対して流石に驚いた傭兵狩り達は慌ててその場から飛び退く。
 勢い良く壁に直撃した椿は壁を撃ち砕く事に成功したが、瓦礫に胴体が乗り上げてしまいキャタピラが空回りして身動きが取れなくなってしまった。

「(――ああ!? しまった!!)」

 椿がギャンギャンとキャタピラを回して虚しく空を駆る姿を見た傭兵狩り達は熱狂に近い歓声をあげた。

「ぎゃはは!!! こいつ瓦礫に乗り上げてらー!!」

「よーし、兄弟たち!! 思いっきり弾丸を浴びせて戦車化を解いちまおうぜ!!」

 傭兵狩り隊長の呼びかけに、傭兵狩り達は「ヒャッハー!!」と景気良く声を上げると、突撃銃で椿を蜂の巣にしていく。

「(……うぅ……痛い……痛いよ……ああ……ダメだ……もうダメだ私……)」

 瓦礫に乗り上げて身動きの取れない椿を、傭兵狩りの4人は円陣を組むように取り囲むと、椿に対して四方八方から銃弾を浴びせかける。
 貴重な弾薬が湯水のように消費されてしまう突撃銃ではあるが、お宝である戦車ノイドの椿を前にした傭兵狩り達はここが投資のしどころという感じで徹底的に射撃を行い続ける。
 椿の装甲が見る見るうちにボロボロに変化していく。

「(ああぁ……雪村様は遠くまで逃げられたかな……私は、お役に立てたかな……)」

 椿は戦車化した状態を維持することが完全なる限界にまで達したことにより、もはやここまでと、自身の体を元の人間体へと戻そうとしたその時だった。

「――椿ぃぃぃぃ!!!!!!!!」

 突如、背後から真之の声が聞こえた椿は、ガタガタと砲塔を回転させて後方を確認する。
 なぜそのような事をするかというと、戦車体と化している戦車ノイドは基本的に砲塔前方部に視界が存在している為である。
 椿が気力を振り絞って後方を視認すると、先ほどまで真之と椿が隠れていた壁の後ろで真之が立ち上がり上半身を見せていたのだった。

 そんな真之の姿を見た瞬間、椿は絶望した。

 それも当然である。
 なにせ、真之が逃げおおせる為に命を懸けて頑張った時間稼ぎが全て無駄になってしまったからだ。
 だが、椿は意識が混濁としているがゆえに気がついていなかった。
 真之の黒いはずの両目が、今や眩いほどの黄金色に光り輝いている事に。
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