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よあけの部屋

□ 鋼鉄の乙女達と命令使い □

第6話 捨て身

傭兵狩り達は仲間が頭部を撃ち抜かれて殺されたというのに歓声を上げていた。

彼等にとってはこんな僻地(へきち)で、高価な装備品を所持している事が多い大阪神(だいはんしん)帝国の軍人を見つけたのも幸運だったが、そんな軍人の部下がまさかの戦車ノイドであることを傭兵狩り達は確信したからだ。

しかも、軍人はたったの指揮官1人に部下1人。

更には逃げ隠れする様子から手負いであり弾薬もほぼ無し。
それに対して傭兵狩り達は6人。
弾薬も豊富に装備している。

通常、戦車ノイドを鹵獲(ろかく)、つまりは奪って自分の物とする為には、相手以上の戦力が必要となる。
しかし、相手は手負いで弾無し。
まさかの戦車ノイド鹵獲という大好機を前に、傭兵狩り達は仲間の死などお構いなく大興奮しまくっているのだった。

「あの女軍人、銃弾を浴びてもケロリとしてやがった!! しかも、右腕は九七式重機関銃!! となれば、あれを基本的な副兵装にしているのはチハ型戦車ノイドに違いないぜ!!」

「そうだそうだ!! しかも戦車化もせずに機関銃で単発射撃とは、これはもう手負いであり弾無し確定だぞおい!!」

「ヒャッハー!! 今日はツイているぜ!! なー兄弟達!!!」

「さっさと、あの指揮官をぶっ殺して、戦車ノイドを鹵獲するぞ!!!」

傭兵狩り達は、貴重な弾薬を消費しない為に「わざと拳銃」を使用していたのだが、相手が本物のお宝だと認識した今、手持ちの最強武器である突撃銃で大盤振る舞いをし始める。
嵐のように撃ち込まれる突撃銃の銃弾に、真之と椿が隠れている廃墟の壁がどんどんと削り崩されていく。

「ゆ、雪村様! このままでは廃墟の壁が崩れて弾が貫通し始めますよ!!」

「――くそ!! 仲間が殺されたというのに、なぜあいつらはあんなにも嬉しそうな歓声を上げているんだ!?」

「き、きっと、私が戦車ノイドなのだと気がついたのかもしれません。しかも、弾無しなのも察知されて、私を鹵獲しようと血気盛んになっているのかもです! あわわわ!」

「何か方法は無いか! 何か!!」

真之は自分に問いかけるように必死に叫ぶ。
辺りは凄まじい銃撃音が響き渡り、真之の背中の壁からは銃弾がコンクリを食い散らかす絶望の音が聞こえてくる。
その時、椿がポツリと真之に向かって呟いた。

「……ゆ、雪村様! わ、私に突撃命令を出して下さい!」

「何を言って……」

バカな事を言うなという感じで真之は答えようとしたが、椿の顔は真剣そのものだった。
真之は椿と出会って1日程度ではあったが、椿が本当に怖がりで本人が言う通りなかなかのポンコツであることを理解していた。
そんな椿が冗談でも何でも無く、ただただ心の底からの真剣さで真之に訴えているのだ。

「し、しかし」

真之は当然ながら躊躇(ちゅうちょ)した。
戦場を経験したことなど一度もない真之にとって、この状況下で部下に対して死を宣告するという判断を即断即決することなど不可能だった。
迷いを見せる真之の態度を優しさであると認識した椿は、微笑みながらゆっくりと頷いてみせる。

「最後に雪村様のような優しい上官に巡りあえて椿は幸せです。雪村様に出会えたことこそ、私の仲間達への土産話になるというものです!」

椿は正座のままで背筋を伸ばすと右手の平をこめかみの横に添えて綺麗な敬礼を見せる。

「――雪村様! どうかご安心下さい! このチハ型戦車ノイドである椿は決死の万歳突撃こそが主要任務であり見せ場であります!! 遠慮など少しも不要!! どうぞ突撃をお命じ下さい!!! 見事に時間を稼いで華と散ってみせます!! その間に、雪村様はこの場から離脱し第1傭兵基地へと帰還して下さいませ!!」

「いや、まて、椿、俺はそんな……」

「――雪村分隊長殿!! ご命令を!! このままでは二人とも無駄死にしてしまいます!! 人間かつ軍人である貴方は人類にとって貴重な人材!! 生きて生きて生き抜いて……そして、私のような他の武装擬人(ヒューマノイドアームズ)達にそのお優しさを与えてあげて下さいませ!!」

椿はあえて真之の事を「分隊長殿」と呼んで発破をかける。

「椿……」

いまだに逡巡(しゅんじゅん)する真之に椿は眼前まで詰め寄って、真之の腕の裾を力一杯に掴む。

「――お願いします雪村様!! 早くご命令を!! 早くっ!! 消耗品であるはずの戦車ノイドである私に優しくしてくれた雪村様だからこそ、私はこの命を懸けてでもお守りしたいのです!!!!!」

切羽詰まった涙混じりの椿の必死の嘆願を前に、真之は項垂れるようにか細い声を漏らした。

「……突撃を……め、命じる」

上官である真之の為に死んでこいという命令を聞いた椿は、死の宣告をまるで何かの労(ねぎら)いの言葉を聞いたかのように嬉しそうに安堵の表情を見せた。
椿は次の瞬間には軍人らしい精悍な表情を見せると再度、敬礼を行い命令を復唱する。

「――チハ型、椿、突撃しますっ!!!」

椿はそう叫ぶと、その場に立ち上がるや壁に片手をついて軽快に飛び越える。
その際に「……ご武運を雪村様」という椿の最後の声が聞こえ、真之は思わず力を込めた両手で顔を掻きむしるように覆った。

椿は壁の向こう側に着地した瞬間、体を鋼鉄の戦車「九七式中戦車チハ型」へと変化させると、痛いと言っていたはずの突撃銃の銃弾の嵐の中へキャタピラを荒々しく回転させながら突撃していく。

傭兵狩り達はより甲高い歓声を上げ更に銃弾をばらまき、それらが椿の戦車体に当って弾ける銃弾の金属音が辺りに響き渡るのだった。
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