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よあけの部屋

□ 鋼鉄の乙女達と命令使い □

第5話 傭兵狩り

 コンビニ廃墟の前で焚き火を囲んで夜をやり過ごした真之と椿は、太陽が上り始めると同時に第1傭兵基地があるという西の方角へと向かって歩き出した。

 第1傭兵基地とは、椿(つばき)の話によると徒歩で1日もかからない程度の距離にあるという人間の集う場所のことである。
 真之(さねゆき)が持っている焼き干し肉と飲み水ならば十分に持つ移動距離なので、真之は何とかなるだろうと楽観していたのだが、残念ながら現実はそう甘くは無かった。

 なにせ、ここは既に終わってしまった世界なのである。

 危険な生物は幻想種だけではなく、同じ「人間」もまた危険生物なのだ。
 真之と椿は崩れた廃墟の壁の陰にうずくまりながら壁の上を飛び抜けていく銃弾に身を震わせる。

「――何なんだよあの連中は!!」

 壁に背を預けて肩で息をしながら声を荒らげる真之。
 椿は「きゃー!」と頭を両手で抱えながらうずくまっている。
 壁の向こうの廃墟からは武装した男達が歓声を上げながら散発的に銃撃を繰り返していた。

「(あいつら出会い頭に何の迷いもなく発砲してきやがった!! 何とかここに逃げ込めたが、やはり終わった世界ともなると人間さえも信用できないみたいだな!!)」

「――ヒャハハハハー!!! 出てこいや本軍のクソ虫共がーー!!」

 ならず者が真之を挑発するように嬉しそうに叫びながら手に持った拳銃で銃撃してくる。

「雪村様! あ、あれはきっと『傭兵狩り』です!」

 椿が震え声で呟いた。

「傭兵狩り?」

「は、はい! ならず者達が集団を作り、物資を豊富に持っている軍人や傭兵などを襲って、食料や武器などを奪うと聞いたことがあります。しかも武装擬人(ヒューマノイドアームズ)などは鹵獲(ろかく)されて改造や拷問の果てに無理やり配下にされるらしいです」

 「鹵獲(ろかく)」とは敵方の軍用品や兵器などを強引に奪い取るという意味である。
 椿は自分に訪れるであろう恐ろしい未来を想像して「あわわわ!」と怯えながらその身を震わせた。

「丸坊主頭で顔に入れ墨、更にはモヒカンもいれば鼻輪ピアスもいる。過激な見た目通りの職業らしいな」

 真之は腰に下げている弾切れの回転式拳銃に手を添えた。

「(これでハッタリでもかますか? いや、ハッタリをかましている最中に撃ち殺されるのが関の山だろうな。せめて1発でもあればひるませることができたかもしれないが……)」

 真之は頭を抱えて震えている椿を見つめていると、あることを思い出したので慌てて声をかける。

「椿! そういえば自決用の弾丸が数発あるといったな!!」

「あ、は、はい! あ、あるにはありますが」

「それを1発だけブチかましてやれ! そうすればこちらにも武器があるのだと分かるし、あいつらも気軽に身を晒しての攻撃は控えるはずだ!」

「い、1発だけですか?」

「ああ、1発だけでいい」

「わ、分かりました! 頑張ります!」

 椿は気合を入れるように息を大きく吸い込んでから、右腕を機関銃に変化させる。
 チハ型戦車ノイドの基本副兵装は九七式重機関銃。
 弾薬は7.7mmの通常弾。
 残弾数は5発。

「じゃあ、いまから俺があいつらの注意を引きつけ……」

「――つ、椿、行きますっ!!」

 椿は右腕の九七式重機関銃を左手で添えながら即座に立ち上がる。

「え、いや、ちょっとおい椿!?」

 真之は手に持っている鞄を壁の上に持ち上げて相手の注意をひきつけてから、椿に射撃をさせる予定だったのだが、椿は「><」という表情で「わー!」と叫びながら壁の上に上半身を晒してしまう。
 案の定、傭兵狩り達の格好の餌食となった椿の上半身に銃撃が浴びせかけられる。

「――椿っ!!!」

 もはや取り返しの付かない失敗を前に、真之の顔から血の気が引いてしまう。
 だが、椿は銃撃を受けても倒れることなく右腕の九七式重機関銃を壁の上で安定するようにゴソゴソと動かしていた。

「だ、大丈夫なのか椿!?」

 椿は壁の下で座り込んでいる真之に顔を向けると「だ、大丈夫です!」と元気良く頷く。
 そんな椿のこめかみに弾丸が直撃するが、甲高い金属音を立てて弾丸はどこかに飛んでいった。

「生体部分を戦車装甲に変化することもできますので、あれぐらいの銃弾ならば大丈夫です!」

「そ、そうなのか……凄いな」

「それより雪村様! 九七式重機関銃の設置による狙撃準備が整いました!」

「よ、よし! それなら1発だけお見舞いしてやれ!」

「はい! チハ型、椿! 九七式重機関銃、撃ちます!」

 椿は右腕の九七式重機関銃の照準を向かいの廃墟から上半身を見せている赤髪モヒカンの傭兵狩りに合わせて弾丸を発射する。
 九七式重機関銃の重く乾いた銃声音が1発だけ辺りにこだまし、次の瞬間、赤髪モヒカンの頭部が吹き飛んだ。

「――やたっ!! 雪村様!! 傭兵狩りの頭部に命中しました!!」

「本当か!? 大した腕前だな!!」

「いえ、生まれて初めてです!!」

 椿はにっかりと笑いながらも興奮に満ちた目を真之に向けてくる。

「いつもは当たったかどうかも分からない弾幕役でしたから、こんな狙撃は初めてです!!」

 よほど成果が出たことが嬉しかったのか興奮しまくる椿のこめかみに再度、銃撃が叩き込まれる。
 しかし、今度はたやすく跳弾せず、むしろ椿の頭部がガクッと横に傾いたかと思うと、椿はそのまま倒れるようにうずくまる。

「い、いだいです!! て、敵が拳銃ではなく突撃銃を撃ってきたみたいです!!」

 椿は右腕を元に戻すと、こめかみを両手で押さえ込みながら半べそで涙ぐんでしまう。
 先程までの散発的な攻撃とは違い、嵐のような銃撃が壁に浴びせかけられる。

「おいおい、相手をビビらせるつもりが本気を出させてしまったみたいだな……」

 真之は頬を引きつらせながら壁の底にへばりつくように更に体を曲げるのだった。
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