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よあけの部屋

□ 鋼鉄の乙女達と命令使い □

第2話 旅立ち

 真之(さねゆき)は辺りの廃墟を物色し、ズタボロの茶色い布製のリュックサックを1つ、肩がけの鞄を1つを調達する。
 お酒が入っていた様な小さな空瓶を出来るだけ集め、そこに貯水槽の水を入れる。
 猪のような獣の肉はまだ残ってはいるが保存の効く調理はここでは難しい。
 しかし、だからといって捨て置いていくのももったいなく、それなら傷めばその時に捨てれば良いという心構えでとりあえず焼いて、日陰で多少は乾燥させた素人製の「焼き干し肉」を荷物袋に詰め込むと、真之は貯水槽拠点から旅立つ事にした。

 もちろん行くあてなど何処にも無かった。
 しかし、それでも前に進まない限り、待っているのは死なのである。
 貯水槽の水が尽きたら、後はただ死ぬしか無いのだ。
 それならば生きる為により良い拠点を探すか、それとも人間のいる場所に辿り着くかしかない。

「(もちろん人間の町があれば助かるというものでもない。こんな終わった世界の人間達は倫理観が崩壊してむしろ危険な可能性も高い。となると、より良い拠点。貯水槽ではなくもっとしっかりした水源を見つけるということが大事だろう)」

 真之は重い荷物を背負いながら一歩一歩、荒野の果てに向かって歩き続けるのだった。



 この世界に来てから真之が知ったことの1つに、元の世界では見たことがない生き物がたくさん蠢(うごめ)いていることだった。

「子供の頃に遊んだゲームで出てきたぶよぶよの緑色スライムがあちらこちらにうじゃうじゃと歩いていやがる。近づかなければ襲われることもないが、凄まじい酸性体のようだから病院の無いこんな荒野でまとわりつかれでもしたら確実に命取りになる」

 真之が食料にしている猪のような獣と緑色スライムはライバル関係らしく、争っている場面を何度も見かけ、時には猪がスライムを喰らい、時にはスライムが猪を喰らう姿を見ることが出来た。
 特にスライムは複数の仲間と行動を共にしている事が多く、その攻撃方法は酸性の体を相手にまとわりつかせて相手を生きたまま溶かして消化するという感じだった。
 スライムにまとわりつかれた猪のような獣がみるみるうちに骨にされてしまうのを見た真之は、スライムには近づかない事を決めたのだった。
そして、とりあえずスライムのような不可思議で危険な生物を、子供の頃に遊んだゲームにちなんで「魔物」と呼称することにした。

「だが、夜になると昼間とは違い、見るからに危険色の黄色や赤色のスライムとかが動き出すことを考えると、夜の移動は避けたい所だな」

 真之は距離を稼ぐよりも、たとえまだまだ日暮れ前だとしても良い隠れ場所になりそうな廃墟が見つかれば、そのままそこで早々に休むつもりでいた。
 実際、今日は日暮れよりもだいぶ前に拠点を見つけた結果、そのまま今日の移動を中止して夜明けを待つのだった。

 1日目、2日目、3日目、4日目、同じ方向に移動を続けても、景色は何も変わらなかった。
 ただ、荒廃した大地と、うち崩れた街並みだけがどこまでも続いている。
 たくさん持ってきた水も少しずつ軽くなってきていた。
 食料に関しては初日にこしらえた「焼き干し肉」は既に多くが傷んでしまったので破棄し、また命懸けで猪狩りをして新たな「焼き干し肉」を調達している。
 水が減った分だけ足取りが軽くなることは有りがたかったが、食料は何とか獣で補充できるとしても、このままでは水分が無くなって動けなくなってしまうこととなる。

「どこかで水を補給できると助かるんだが……」

 5日目のこの日も歩き続けては見たものの特に何も変化はなく、真之はもう今日の移動は諦めて、目の前にあるコンビニらしき廃墟で休むことにした。
 真之は自動で開かない汚れたガラス扉を開き、閑散とした商品棚が並んでいる店内に入り込む。
 心の片隅で何か食えるものでもあればラッキーだなと考えつつレジ前辺りに移動した時、ふと店の奥から「ガサゴソ」という大きな音が聞こえてきた。

「――!?」

 所詮はただの油断でしかないのだが、たまたま今まで人工物の中では魔物を見なかったがせいもあり、店内に魔物がいるという想像力が欠如していた真之は目を白黒させながら慌てて腰に下げているサバイバルナイフを抜き放つ。

「――そこにいるのは誰だ!!」

 不意を突かれたせいで心を満たす恐怖心を打ち払うために、たぶん緑色スライムであろう相手に思わず荒げた声をかけてしまう真之。
 しかし、本当の予想外はこの後に起きた。

「――ひぃ!? そ、そちらこそ誰ですかぁ!?」

 何と、予想外にも返事が返ってきたのだ。
 それは、真之が異世界らしきこの荒廃した世界に来てから始めて耳にする他人の、しかも女性らしき声だった。
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