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よあけの部屋

□ 鋼鉄の乙女達と命令使い □

プロローグ 似て非なる荒廃世界

 天まで届きそうな巨大なビルが都市を埋め尽くし、忙(せわ)しなく行き交う自動車が道路を埋め尽くす。

 食べ物に困ることは1日としてなく、飢餓(きが)を忘れた人間達は誰も彼もが楽しく生きる為に様々な娯楽を追い求める。

 まさに人類文明はここに栄華を極め、この世の春は永遠に続くものだと誰もが信じた。

 だが、地上の楽園を謳歌(おうか)していた人類の前に、突如として「幻想種(げんそうしゅ)」と呼ばれる不可思議な生命体群が出現した。
 その名の由来通り、彼等はファンタジーゲーム、漫画、小説という空想の中にしか存在しないはずの化け物達であった。


 幻想種(げんそうしゅ)達が出現したことにより人類が信じた栄光の日々は音を立てて崩れ去る。
 幻想種達は飽くなき貪欲さで瞬く間に人類を貪り尽くしたのだ。

 核を用いた焦土作戦も功を成さず、いくつもの大国は早々に滅び去り、かつての華やかな人類文明を語れる者すら居なくなった終末の時代。

 それでもなお、最後の人類達は地上の片隅で必死に生き続けていた。

 地上のほぼ全てを幻想種に奪われてもなお、彼等はその独自の能力で最後の抵抗を百年以上という長期に渡って続けていたのだ。

 それは、かつて日出ずる国とまで呼ばれた極東の列島国家。

 海に浮かぶ小さな国土なれども、その知恵と勇気は他国の追従を許さず、独特の文化を花開かせて世界有数の豊かさを誇ったと言われている。

 しかし、それももはや伝説に近い過去の話。
 そんな屈強な国でさえ今は既に滅び去っている。

 だが、他国の様に国が滅び人さえも消え去った大地とは異なり、そこにはまだ人類が残っていた。
 いくつもの小さな国として分かれてもなお、それぞれが最後の一線で踏みとどまり続けているのだ。

 かつての大国が無様に滅び去った中で、彼らが今もなお人間として生きながらえているのは、まさに独特の知恵と比類なき技術で生み出した「反抗力」が有るゆえである。



 ミニスカート型の黒い軍服を来た美しい女性達が、真横に大きく伸びた横隊の陣形で前進している。
 1つの横隊が約10名、列は3つ。
 眼前には巨大な獣の様な形をした幻想種の群れ。

 30名の女性軍人は怖じける様子など微塵(みじん)もなく、幻想種の群れに向かって精悍(せいかん)な顔つきのまま整然と前進をし続ける。
 その前進部隊の後方で追従するのは一台の戦車。
 かつて、この列島国家が栄えた時代に作られたと言われる61式戦車。
 少し丸みの帯びた砲塔を持つ鋼鉄の塊。
 灰色の巨体は威風堂々と突き進む。

 61式戦車の砲塔部のハッチから上半身を乗り出したのは女性軍人達と同じ黒い軍服を着た青年。
 詰め襟をしっかりと止め、金帯の付いた黒い軍帽を深く被り、ツバの下に見える双眸(そうぼう)は理知的ながらも獣の様に鋭い。

 青年将校は片手を突き上げると号令をかける。

「――全隊止まれ!!」

 女性軍人部隊がその場で静止する。

「――砲撃用意!! 主砲化せよ!!」

 その合図に合わせて、女性軍人達は右腕を上げると瞬く間にその右腕が戦車の主砲へと姿を変えていく。
 巨大な主砲は支柱で支えられたまま幻想種群に狙いをつける。
 そう、彼女達は人間では無いのだ。
 独特の知恵と技術を持った列島国家の民は、その比類なき技術を磨き上げた結果、人類の敵たる幻想種群に抵抗しうる力を生み出した。

 それが|武装擬人(ヒューマノイドアームズ)。

 武器と生体をかけあわせた人類の決戦兵器。
 法も倫理も消え失せた荒廃せし時代だからこそ生み出された技術の結晶。
 個体数を激減させた人類にとって最も必要なものは武器では無い。
 なにせ武器は勝手に1人で戦ってはくれないからだ。
 人類にとって何よりも必要なものは、命を顧みず敵陣に突撃していく肉弾兵士なのである。
 彼女達こそが人類の代わりに肉弾と化して幻想種と戦う兵士達であり武器であった。

「――撃ち方始め!!!」

 青年将校の号令と共に、武装擬人達の右腕から轟音と共に火が吹き出す。
 3列横隊から砲撃が雨あられと幻想種群に浴びせられる。
 しかし、幻想種の数は圧倒的に多数。
 こちらの攻撃に気がついた幻想種群は怒涛の勢いで突撃を開始する。

「――1列は戦車化せよ!!! 2列、3列は次弾装填!!!」

 続いての号令で横隊1列目の武装擬人達が皆61式戦車へと体を変化させる。
 か細い体の女性軍人達がみるみるうちに無骨な鋼鉄の塊へと姿を変えた。

「――1列突撃!!!」

 青年将校の号令をもって1列目の戦車隊が砲撃を繰り出しながら轟音を立てて突撃する。
 戦車隊が巨大な幻想種の群れの先頭部と激突した瞬間、幻想種群の圧力の凄まじさに鋼鉄の塊であるはずの戦車が石ころのように吹き飛ばされて横転、または踏み潰されてへしゃげていく。

「――2列、3列砲撃せよ!!!」

 戦車の体と化して突撃し、一瞬とはいえ巨大な幻想種群の突撃を体を呈して押しとどめた彼女達もろとも残りの横隊による砲撃が容赦なく浴びせられる。
 武装擬人たる彼女達は「人間」では無い。
 ゆえに人権など有るわけも無く、彼女達は人間達によって生み出された決戦兵器たる武器であり、所詮は消耗品であった。
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