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よあけの部屋

□ 迷宮長は最凶の白魔道士 □

13 白魔法の力

「いやー、新太殿のおかげで我らも更に生き長らえるやもしれぬな!」

 スライムの閣下は嬉しそうにぷるんと水色の半透明な体を揺らす。

「わーいー長生きー迷宮長ー新太ー新太ー」

 ゴーレム娘のナルは新太の名前を連呼しながら万歳を繰り返す。
 キャロリンはナルの足の側で迷宮長となった新参者の新太を不安そうに眺めていた。

「ま、やれるだけはしっかりやるさ」

 新太が無愛想に答えたその時、背後から低い不気味な声が聞こえてきた。

「匂う……匂うぞぉ……獲物の匂いだぁ……美味そうだなぁ……」

 新太が慌てて振り返ると、迷宮の出入口に2本角と牙の生えた黒い鬼が巨体を屈めながら迷宮内に入ろうとしていた。
 真っ赤な瞳をギョロリと動かして新太達を確認する。

「きゃっ!?」

「うーわー」

 キャロリンは甲高い悲鳴を、ナルは相変わらず間延びした声で驚きを表す。

「――く! 大草原世界から既に『魔地(まち)』へと繋がりが変わっていたか!! しかも、よりにもよって「大食らいの黒鬼」に見つかるとはっ!!!」

 閣下が体をブルブルと震わせながら驚愕の声を発する。
 「大食らいの黒鬼」と呼ばれた魔物は高いはずの天井に頭がつきそうなほどに巨体だった。
 ボサボサの黒髪をざわざわと揺らめかせ、筋肉の鎧の様な強靭(きょうじん)な黒肌の体に黄色のパンツ1丁。
 右手には血でドロドロに汚れた棍棒を持っており、その大きな口を裂けるように横に広げて牙を見せながらニタリと笑う。

「うへへ……頭から食べよか……足から食べよか……」

「ぐぬぅぅ!! キャロリン、ナル、下がりなさい!!!」

 閣下の声にキャロリンとナルは迷宮の奥に続く通路口まで下がる。
 閣下は恐怖に身を震わせながらも将軍らしく新太の横で「大食らいの黒鬼」を迎え撃つべく立ち並ぶ。

「その魔地ってのは後で聞くとして、とりあえずこいつってヤバイの?」

 獲物を見つけたことで嬉しいのかニタニタとしている黒鬼を、新太は平然とした態度で見上げながら問いかけた。

「新太殿、ヤバイなんてものではありません! 『敵性魔物』の中でも『最悪種』のひとつに含まれる凶悪な魔物です! 下手をすれば小規模の迷宮都市ぐらいならこやつ一体で食い滅ぼすやもしれませぬぞっ!!!」

「ほー、それはそれは」

 新太は軽く返事をしながら首を回し、指をバキバキと鳴らしながらストレッチを行う。

「んじゃ、丁度良い腕試しになるな」

「は!?」

 新太の横で驚きの声を閣下が上げた瞬間、新太はその場で数歩ほど駈け出して飛び跳ねるや、純白のローブをなびかせながら空中を駆けた。

 純白のローブは装備者の身体能力を向上させる効果が備わっており、新太の体がまるで重力から切り離されたかの様に「大食らいの黒鬼」の腹部に向かって突き進む。
 新太は空中で右拳を振りかぶると白魔法を唱えた。

「――|聖なる光拳(セイントスマッシュ)!!」

 右拳に眩い白光の球体がかぶさり、新太は迷いなくその拳を「大食らいの黒鬼」の腹部に打ち込んだ。
 新太の白い拳が黒鬼の腹部にめり込んだ瞬間、凄まじい爆音と共に爆発が発生すると、黒鬼は迷宮の壁まで吹き飛ばされて尻もちをつく。

「――ぐおぉぉぉ!?」

 黒鬼の苦悶に満ちた声が響き渡る。

「な、何と!? あの「大食らいの黒鬼」を人間の小さな拳で吹き飛ばしてしまうとは!!」

 新太の脳内には蛍光表示の魔法名とチャージ時間が表示されカウントダウンが始まる。

「(俺の白魔法は『MP消費無し』だが、その代わりそれぞれに設定されているチャージ時間を経過させないと使用済みの魔法は再発動できない。ちなみにこの「|聖なる光拳(セイントスマッシュ)」のチャージ時間は5秒)」

 新太は何とか起き上がろうともがく黒鬼の顔面に向かって右手の人差し指を向けた。

「(ただし、違う系列の白魔法ならば即座に使用可能。つまりチャージ中に他の魔法で時間潰しが出来るわけだ)」

 新太は違う系列の白魔法を唱える。

「――|聖光の弾丸(ホーリーバレット)!!」

 新太の指先から光り輝く小さな熱弾が撃ち放たれ、黒鬼の片目に直撃する。

「(これのチャージ時間は1秒、連発が可能だ!)」

 新太はチャージ時間が完了する度に何発もの「|聖光の弾丸(ホーリーバレット)」を黒鬼の顔に浴びせかける。

「ぐぎゃあああ!!!!」

「(つまり、同系列の白魔法は連続では使えないという意味だな。例えば「|聖光の弾丸(ホーリーバレット)」の上位魔法があったとして、それを発動した場合にはそのチャージ時間が完了しない限り「|聖光の弾丸(ホーリーバレット)」も発動できなくなる。だから、チャージ時間中の時間稼ぎは他系列の白魔法で行うのが基本戦法となる)」

 新太は「|聖なる光拳(セイントスマッシュ)」のチャージ時間が完了したのを確認すると、またもその場で飛び跳ねるや今度は尻もちをついているせいで、だいぶ背丈が低くなった黒鬼の顔めがけて拳をふりかぶる。

「(ま、これらの仕様はようするに、俺がよくゲームで遊んでいた宇宙人の侵略から地球を守る「地球防○軍」みたいなものなんだよな。上手にチャージ時間を管理しながら攻撃の手を止めないことが大事になるってわけだ)」

 新太は白魔法を唱える。

「――食らえ!! |聖なる光拳(セイントスマッシュ)っ!!」

 黒鬼のこめかみを球体に白光している拳で豪快に殴りつけると同時に爆発を起こし、黒鬼の顔の半分が吹き飛んだ。

「ぶろろぉぉぉ!?」

 黒鬼は舌をだらりとこぼして残った片目をドロリと垂らすと、その巨体をビクビクと痙攣(けいれん)させ始めた。

「――|撃光の炸裂弾(ライトニングボム)!!」

 新太は床に着地すると同時に他系列の白魔法を唱えると、即座に右の手の平から球状の光弾が射出され、黒鬼の頭部に直撃するや光の熱波による爆発を起こして黒鬼の頭部を全て吹き飛ばした。

「(威力としては「|聖なる光拳(セイントスマッシュ)」よりも高めで、更には遠距離攻撃も可能というのが利点か。ただしチャージ時間は1分だから結局のところケースバイケースという感じだな)」

 新太は手をパンパンとはたきながら満足そうに頷く。

 以前の異世界で救国の英雄とまで讃えられた経験を持つ新太は、既に幾度(いくたび)もの死線を潜り抜けた歴戦の勇士なのである。
 敵を前に今更、怯えたり、戸惑ったり、躊躇(ちゅうちょ)するという意識は無く、今や敵を無力化する為の最善の方法を即座に導き出して冷静に行うことが出来るのだった。

「ま、とりあえずこんなものかな。白魔道士ということで少し心配していたが、かなり攻撃的なスタイルもいけそうだ。さすがはじいちゃんが選んだだけはある。爽快感が抜群だぜ」

 最悪種と呼ばれる恐ろしい魔物を雑魚扱いしてしまう新太のことを、スライムの閣下は呆然と眺めていた。

「す……凄い……凄すぎる! あの「大食らいの黒鬼」を圧倒する力! まさに我らの救世主!! 新太殿は軍神であったのかっっ!!!」

 興奮のあまり絶叫する閣下。

「すーごーいー」

 ゴーレム娘のナルは頭に生えている小さな赤い花を揺らしながら興奮しているようだった。

「すごい……」

キャロリンはまるで夢物語に出てくる英雄を見るような呆けた目で、新太の背中を見つめているのだった。
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