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よあけの部屋

□ 迷宮長は最凶の白魔道士 □

12 いきなり迷宮長

 新太は迷宮の出入口を見つめながら心の中で現状を整理しつつ考えた。

「(元の世界から大草原世界へ、そして目の前にあったこの迷宮世界に来たわけだから、俺の目的地はやはりここで間違いはないんだろうな……。大草原世界が目的なら、こんなへんてこりんで一期一会な迷宮と出会うはずがない。ならば、俺はここを出て行くわけにはいかない。なにせ、意味のない偶然なんてないんだからな、じいちゃん)」

 新太はキャロリン、閣下、ナルに向き直すと真剣な表情を見せる。

「正直に話すが、外の大草原世界は俺の世界じゃないんだ」

「なんと?」

 閣下が驚きの声を出した。

「だから、ここから出た所で下手をすれば、誰もいない大草原世界をさまよった挙句に死ぬかもしれない」

「それは十分にありえますな」

「だから、俺もこの迷宮にいさせてはくれないか?」

 新太の申し出にキャロリンはビクリと小さな肩を震わせた。
 どうやらよそ者である新太が仲間に加わるのが怖いらしい。
 だが、新太は遠慮するわけにはいかなかった。
 ここを出てしまえばまさに野垂れ死にが濃厚だからである。

「頼む!!」

 新太は頭をこれでもかと下げた。

「ど、どうしよう閣下?」

「閣下にーまかせるー」

 キャロリンとナルはスライムの閣下に意見を求めた。

「うむむ……」

 閣下は小さく唸ると体をぷるんぷるんと揺らしながら思案し始めた。
 閣下はしばらく唸った後、重い口を開いた。

「そもそもだ。そもそもの話として、我らを簡単に倒せる新太殿ならば、我ら3人をさっさと始末してしまえば、この迷宮で自由自在に生きていけるのだよ」

「……」

 キャロリンは口を真一文字に結びながらスライムの閣下をギュッと抱きしめる。

「そんなのはーいやー」

 ナルは頬を膨らませながら顔を左右に振って抗議の意思を示す。

「しかし、新太殿はそうせずに頭を下げられた! これは武人らしい清廉潔白(せいれんけっぱく)な行いである! ならば我輩も武人として礼儀を持って応えねばなるまい!」

 閣下はキャロリンの腕の中から飛び出すと床に着地して、新太の前でぷるりと体を揺らす。

「我ら3人より強く、魔導士であり、しかも白魔法という珍しい魔法の使い手。そして、敵であった我輩の傷を癒してくれたその深い度量! これだけの御仁であるならば我らが国のため我輩が引くことになんら躊躇は必要無し!」

 閣下は体をべちゃりと床に押し付けた。
 新太は閣下が自分に頭を下げてくれたのだと理解した。

「新太殿! むしろ我輩よりお頼み申す! この最小最弱の迷宮は国などにあらず! 大言壮語の見栄であり砂上の楼閣(ろうかく)であり、所詮は弱者の集いでしかありませぬ! だからこそ、新太殿がこの迷宮の主となって下さいませ!! 我らが臣下となって支えましょう!」

「は? 主!?」

 スライム閣下からの突然の頼みごとに新太は目を見開いて驚くが、驚いたのは新太だけではなかった。

「……えっ!?」

「わーいー」

 キャロリンも閣下の言葉にぽかんと小さく口を開けてしまうほどに驚いていたのだが、ナルはなぜか喜んでいた。

「キャロリンよ、よく聞きなさい。新太殿は我らが迷宮に舞い降りられた救世主に違いない。なぜならば我らは凶悪な魔物や人間共に嬲(なぶ)り殺されるは今日か明日かという日々を生きている。つまり、次の訪問者は十中八九が死神で当然。だというのに、これほどの逸材である新太殿がこんなちっぽけな迷宮に訪ねて来てくれたのである!! これを好機と捉えずば我輩の軍人としての才覚も地に落ちよう!! 我輩はこの命を懸けて新太殿を『迷宮長』に推挙する!!」

「閣下……」

 キャロリンはしばらく呆然と閣下を見つめていたが、その小さな両手を「ぎゅむり」と握り締めると何かを決断した。

「……わかった。閣下がそこまで言うなら私も従う」

 キャロリンは新太に青い瞳を向けてくる。

「新太……さん」

「新太でいいよ」

「うん……新太。今、閣下が言った通り、ここは小さな迷宮だから魔物が攻めてきたら皆、殺されちゃうよ? それでも迷宮長になってくれる?」

 キャロリンは新太がまだ怖いのかナルの足の側からは離れなかったが、堂々とした真剣な表情で問いかけてくる。

「いやいや、そう簡単に死ぬつもりはないし、そもそも魔物が来たら俺がぶっ飛ばすし」

「おー! さすがは新太殿! 実に頼もしい!!」

「うわーいー」

 ナルが嬉しそうに万歳する。

「というか、迷宮長ってなに?」

「それはもちろん、この迷宮の長であり迷宮を背負う者という意味ですな。だから、今後はどうぞ自由に采配し、この迷宮を末永く存続させて下さいませ新太殿!!」

「新太―新太―」

 ナルが嬉しそうに万歳を繰り返す。

「迷宮長ねー……」

 新太はまた上手い具合に他人に利用されるのではと考えて首を傾げた。

「迷宮長という名前だがここの主になれるのか? それはつまり王様という意味か?」

「はい、迷宮の主であり王と同義でありますな」

「ふむ、誰かに使われるのはもう御免だが、俺が王様になるというのは悪くない話だな」

 どこぞの支配者層を助けるのではなく、一から自分の国を作るとなれば未体験だし挑戦してみても良いかなと新太は思った。

「(もちろん、王でさえも殺されるパターンは存在するが、横柄で無慈悲であれば結局の所は何をやろうとも一緒だ。だからこそ、大事なのはどう最善を尽くすか。今度こそ上手に立ち回りながらも、恐れずに新しいことに挑みつつ頑張ってみよう)」

 新太は新しい挑戦への覚悟を決めると力強く頷いた。

「分かった。俺が王となれるのならば引き受けてやろう」

 新太の一言に閣下とナルは嬉しそうに歓声を上げるが、キャロリンは口を真一文字に結んでじっと新太の顔を見つめていた。
 昔の新太ならばそんな小さな気配を察知できなかったのだが、今の新太は違う。
 キャロリンの不安げな顔をチラリと横目で確認する。

「(どうやら心の中ではあまり賛成ではないようだな……。もちろん俺も努力はしてみるが、上手くいかない場合は王という地位を捨てて、さっさと出て行くとするか……)」

 新太は手に入れた地位に固執しないように己を戒めるのだった。
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