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よあけの部屋

□ 迷宮長は最凶の白魔道士 □

10 名も無き小さな迷宮

 どこまでも果てしなく続いていそうな大草原の真ん中で、新太(あらた)は転移してきた場所に1人ポツンと立っていた。

「あからさまに怪しいのがあるな……」

 新太の数メートル先には、地中に繋がる光沢のある石階段が見えていた。
 新太は階段の前にまで行くと中を覗いてみる。
 それほどの段数の無い階段の先には扉もなく、階段の先には部屋があるのが確認できた。

「なんかダンジョンっぽい」

 新太はもう一度、辺りを見渡すように確認してみる。

「こんな大草原の中をあてもなく旅立つよりも、まずはここに入ってみるべきだろうな……。じいちゃんいわく意味の無い偶然は無いらしいし」

 新太はゆっくりと階段を降り部屋の中に入った。
 少しだけひんやりとした空気が頬を擦る。
 天井がやたらと高く、10畳程度の光沢のある綺麗な黒石造りの部屋がひとつ。
 天井にはどういうわけか青空が映しだされており日の光も室内に降り注いでいた。

「(……地下だよなここ)」

 新太が呆然と天井の青空を眺めていると、部屋の奥の通路から水色の丸い物体がコロコロと転がってくる。

「――侵入者発見ですぞぉぉぉぉ!!」

 水色の物体は新太の前で止まると、その丸い体をだるんと床に投げ打ってぼよよんと体を波うたせる。
 その姿を見た新太はすぐに理解した。

「おお、喋るスライムだ」

 見るからにスライムな物体は、体を左右にぼよんぼよんさせながら血気盛んに口上を述べる。

「やーやー! 我輩こそは偉大なるスライムライム族の軍隊長であるガーデルン=ブリデフェルト将軍である!!! そして、ここは我らが神聖なる国!! この国を脅かす不届き者は天が許しても我輩が許さないぞっ!!!」

 スライムはそう叫ぶと「やー!」と雄叫びを上げながらコロコロと体を転がせながら突撃してくるので、新太はサッカーボールを蹴り飛ばすようにして蹴った。

「――おぶぅぅ!?」

 スライムは部屋の隅にぶち当たると、その場でドロリと横たわる。

「ぬ……ぬぅ……人間めー! こうなったら我が国の最終兵器を投入だ!! いでよ!! 土人形(ゴーレム)剣士!!」

 スライムの掛け声と共に部屋の奥の通路からのろのろと1人の女の子が現れる。

 背丈は新太よりも低く、かわいらしい顔立ちに金色の瞳と光沢のある金髪ツインテール。
 肌は濃い土色をしており、服装は白のタンクトップと黒のミニスカートで裸足。
 胸には大きな谷間が出来ており、溢れてこぼれんばかりの巨乳だった。
 頭頂部には、なぜか一輪の小さな赤い花が元気よく咲いており、金髪ツインテールを揺らしつつ片手で剣をひきずりながら近づいてくる

「あーうー」

「いけー! 土人形(ゴーレム)剣士ー!!」

「おーうー」

 やる気があるのか無いのか間延びした返事をしながら、ゴーレム娘は剣を両手で持って振り上げると斬りつけてくる。
 しかし、すべての動作があまりにも遅いので、ゴーレム娘の攻撃は戦闘経験者でもある新太ならば余裕で避けることができた。

「あーれー?」

 地面に剣を「コトリ」と力なく叩きつけるゴーレム娘。
 外したことを理解したゴーレム娘は新太の方に向き直ろうとするので、新太は両手でゴーレム娘を軽く突き飛ばした。

「わー」

 ゴーレム娘は尻もちをついて背中から地面に転げると、手に持っていた剣を床の上に放り投げてしまい、部屋の端へと滑らせてしまう。

「ひーやー」

ゴーレム娘は床の上でのろのろばたばたと手足を動かした。

「なんてことだぁぁ!!」

 部屋の隅で最終兵器が撃沈した絶望を前に絶叫するスライム。
 それらを見ながら新太は思わず呟いた。

「……なんだこれ」

 何とも形容のしがたい茶番を前に新太は呆然とするしかなかった。

「喋るスライムにゴーレム娘、見るからに魔物っぽいから倒した方が良いのかな?」

 新太はゴーレム娘の前で腕組みをしながら首を傾げて悩んでいると、またも通路の奥から小さな影が飛び出してきてトテトテと駆け寄ってくる。

 青い瞳に透き通るような白い肌、ゴスロリ風の黒と白が基調のふりふりとした服を着たまるでお人形のようなかわいらしい幼女が、少し黒混じりのブロンドでゆるふわカーリーなもふもふの長い髪を風に揺らしながら走ってくると、そのままゴーレム娘に覆いかぶさった。

「もう止めて!」

「キャロリンー出てきたらーだめー」

 ゴーレム娘がキャロリンと呼んだゴスロリ幼女を押し返そうとするが、キャロリンは必死にゴーレム娘にしがみついた。

「お願い! 私達を殺さないで!」

 ゴスロリ幼女のキャロリンが新太の顔を見上げると、涙ながらに必死に懇願してくるので新太は思わず言葉を失ってしまう。

「(こんな小さい子供が命乞いか。これほどにこの世界は危険と隣り合わせということか)」

 新太は自分の両手を降参ポーズのように上げた。

「いやいや、いきなり襲われたからちょいと反撃したけれど、何が何でも殺すつもりはないよ。君が皆を助けて欲しいとそう頼むのなら、俺はこれ以上は手を出さない」

「ほ、本当!?」

 キャロリンは驚いた様な表情で新太を見る。

「ああ、本当だとも」

「ダ、ダメだキャロリン! 人間を、人間をそう簡単に信用してはならんぞ!!」

 部屋の隅で転がっているスライムが痛む体を押して必死に叫ぶ。

「で、でも」

 キャロリンはどうしたら良いのか分からず眉を下げて困った表情を浮かべた。
 新太はとりあえず傷ついて動けなくなったスライムの元に近寄りしゃがみ込むと、スライムは新太にトドメをさされるのかと思ってか体を揺らしてジタバタともがきはじめる。

「に、人間めぇぇー!!」

 新太はスライムに右の手の平をかざすと、やはりトドメの一撃と確信したスライムが辞世の句を読み始めた。

「無念だがもはやここまで! ……スライムと生まれスライムと消える我が身かな! キャロリンよ!! そなたを守れずに逝く我輩をどうか許せ!!」

「|回復の光(ヒールライト)!」

 新太が呪文を唱えると、新太の右手とスライムの体がほんのりと光に包まれる。

「――くぅぅ!! …………ん??」

 光が収まってもスライムは自分が死んでいない事に気がついた。

「どうだ。回復魔法ってやつなんだが効いていないか?」

「なに!? 回復魔法とな!? た、確かに体が動くぞ!!」

 スライムはその場をコロコロと転がってキャロリンとゴーレム娘の側に駆け寄ると、キャロリンはスライムに飛びつくように抱きしめた。

「閣下!」

「うむ、我輩はこの通り大事無いぞキャロリン!」

 閣下と呼ばれた偉そうな語り口調のスライムはキャロリンの腕の中で満足気に体を揺らす。

「そっちのゴーレム娘も回復魔法が必要か?」

「いや、それには及ばん。ナルはただすっ転んだだけだ。おいナル! さっさと起き上がらんか!」

「はーいー」

 ナルと呼ばれたゴーレム娘はのそのそとその場に立ち上がった。
 キャロリンは両腕でスライムを抱きしめたままナルの足に小さなその身を寄せて、怯えたような表情で新太を見上げてくる。

「それにしても回復魔法とは! 実に不思議な魔法を使う人間の魔導士殿だな」

 スライムらしく超絶に弱いが知能は高いらしく、その知恵でもってキャロリンとナルの保護者でも務めているのか、水色のスライムが率先して口を開いた。

「白魔法なんだけど一般的だろ?」

「白魔法? そんな魔法は聞いたことがないぞ。もちろん我輩は全知全能では無いが、それでも我輩の知る限りでは魔法と言えば『黒』であり、攻撃を得意とする黒魔法しか聞いたことがないな」

「……へー、そうなんだ」

 新太は「(となると白魔法はここではレアな能力になるのかな?)」と心の中で考えるのだが、スライムが知らないだけかもしれないので、とりあえずそれ以上はあまり深く考えないようにするのだった。
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