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よあけの部屋

□ 迷宮長は最凶の白魔道士 □

5 男子3日会わざれば刮目して見よ その1「綾乃編」

 新太が黒い学生服姿で玄関に行くと、幼馴染の「雨宮(あまみや) 綾乃(あやの)」がセーラー服姿で立っていた。
 綺麗な黒髪で背中あたりまである長髪。
 眉の上で程よく切り揃えられており縁無しメガネをかけている。

 見た目通りの真面目で温厚で優しい細身の文学少女で、趣味はファンタジー小説を書くこと。
 胸は普通程度なのだが、細身なせいで大きく見えてしまう。

 そんな幼馴染の綾乃が明るい笑顔で新太を迎えてくれた。

「やっと風邪が治ったのね、たーちゃん」

「…………」

 綾乃にとってはたったの3日ぶりなのだが、新太にとっては数年ぶりの幼馴染の顔なので思わずぼんやりと見つめてしまう。

「……変わらねーなー綾乃は」

 幼馴染である新太の口調が少し乱暴っぽいことに綾乃はすぐに気がついた。

「……?  たーちゃんは何か雰囲気が変わったね。そんなに辛かったの風邪」

「……さあな。行くぞ綾乃」

「う、うん」

 新太は鞄も持たず靴を履いて気怠そうに玄関を出て行くと、その後を綾乃は慌ててついていくのだった。

 新太はズボンのポケットに手を突っ込んで無言のまま最寄りの駅まで歩いて行き、そこから電車に乗って学校へと向かう。
 そんな新太の後を綾乃はただ黙ってついていく。

 学校のある駅のホームに着いて降りると、新太の後をちょこちょこと綾乃がついて歩く。
 そんな二人の横に背の高い男子学生が並んできた。
 それはニキビまみれの運動部員で同級生の男子だった。
 新太と綾乃が高校1年生だった時、新太と綾乃はクラスが別だったが、綾乃はこの男子と同じクラスだった。
 その時、1年もの間、気の弱い綾乃を粘着質にイジメぬいたのがこの男子である。
 この間は新太が綾乃を支えて励ましつつ先生とも相談しながら何とか乗り越えた。
 そして、今年の2学年では先生の計(はか)らいにより新太と綾乃は同じクラスにしてもらい、この男子は違うクラスへと離れさせてもらったのだ。

「よー、今日も熱いですね―お二人さん。自分で痛い小説を書いちゃうオタク女子を恋人にするなんて、近衛(このえ)もきっついオタク男子ってことなんだなー」

 だが、このイジメ男子の粘着質な性格は病的に酷く、こうやって新太と綾乃を見つけては陰湿な言葉をかけにくるのだ。
 イジメ男子のからかいに綾乃は顔を真っ赤にしながら俯いたが、新太はふと異世界転移前の昔を思い返した。

「(……そういえば、こうやってからかわれると必死に無視してやり過ごしていたっけか)」

 新太は嫌らしい笑みを浮かべるニキビ顔のイジメ男子を冷たい目で見上げる。

「(同じ学年なのに俺達よりも一回り体格が大きくて、少し荒っぽい運動部の友達も多くて、あー……それが怖くて必死に無視していたんだよな)」

「あー臭い、オタク夫婦が揃っているせいか臭くて臭くてきっついわー」

 イジメ男子はそう言うと「あははは!」と笑いながら新太と綾乃を追い越して歩いて行く。

「……ご、ごめんねたーちゃん、私が側にいて」

 綾乃が泣きそうな顔でそう呟くので、新太は面倒臭そうに答えた。

「……あんなのに怯えていたとかちゃんちゃらおかしいな」

「……え?」

 新太は迷うこと無く小走りに駆けて勢い良く飛び上がると、イジメ男子の背中に蹴りを叩き込んだ。

「――んげっ!?」

 情けない声を上げてイジメ男子が地面に突っ伏す。

 新太の凄まじい行動に綾乃は唖然としたままだった。
 新太は地面に転がっているイジメ男子の顔面を容赦なくサッカーボールキックする。

「――ぎゃん!!」

 新太は顔を両手で押さえて悶絶しているイジメ男子の襟を掴んでホームのトイレに引きずり込むと、容赦なくボコボコにするのだった。

「……ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 顔を腫らしながらトイレの床に転がって泣きをいれてくるイジメ男子の顔をグリグリと踏みつける新太。

「今までずっと綾乃をいじめた罰だ。いいか、今度、俺達に生意気な口を聞いたら殺すぞ。分かったか!」

「は、はい! 分かりました!」

 イジメ男子は必死に顔を上下に動かした。

「いや、待てよ。復讐とかされたら面倒だな。いっそ、このまま殺してしまおうか……」

 新太は濁った目でイジメ男子をじっと見つめる。

「ひぁー! そ、そんなぁ!」

 イジメ男子はこのまま本当に殺されるのではと本能で察知したのか小便を漏らしてしまう。
 それも仕方が無いことだろう。
 なにせ、異世界で命のやり取りをしてきた新太には、いまや本物の凄みが宿っているからだ。
 新太は体を震わせて涙と鼻水と小便まみれのイジメ男子に対して「チッ」と舌打ちをする。

「(こんなに分かりやすい悪党なら、王国の連中も血祭りにあげてやったんだけどもな)」

 新太はその場から離れて手洗い場で軽く手を洗ってから外に出ると、綾乃が心配そうな顔で待っていた。

「彼はどうしたの?」

「殺した」

「え!?」

「あー、違う。罰を与えた」

「罰?」

「綾乃をいじめた罰、俺を馬鹿にした罰、俺達をからかった罰、というところか。ごめんなさいと泣いて謝っていたよ」

「あの彼が?」

「ああ、なんなら連れて来て直接、謝らせようか?」

 綾乃はぶんぶんと首を左右に振った。

「……別にいい」

「あっそ」

「なんだか今日のたーちゃん……いつもと違うね。すごくピリピリしていて、怖い」

「……怖いならついてくんな」

 新太はそう呟いて綾乃の横を通り過ぎると、そのまま学校へ向かう。

「や、やだ! ついていくもん!」

 綾乃は何だか物悲しい背中をしている新太の後を必死に追いかけるだった
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