FC2ブログ
 

よあけの部屋

□ アイテムが本当にもらえるダンジョンゲーム □

13 新しい朝が来た

昨夜はさすがに興奮が少し残っていたせいか寝付きが悪かった誠人ではあったが、気がつけばしっかりと熟睡しており、朝の日差しが窓のカーテンの隙間から漏れている事に気がついて目を覚ました。

すっくと起き上がり、7時に合わせてある目覚ましよりも5分ほど早く目が覚めたお陰で、目覚ましが鳴る前にスイッチをOFFにする。

「……夢じゃないんだよな」

誠人は昨日の痛快な出来事を思い返しながら、枕元に置いておいた道具袋を優しく撫でる。

昨夜はきちんと一人宴で祝ってはいたのだが、実のところそれほど実感を感じてはいなかった。

嬉しんだけれどもどこか浮ついたような、現実ではないような、そんなふわふわとした感じだったのだ。

だが、一晩を経た今は少し違った。

寝ている間に脳の整理が行われたのか、心地よい達成感が誠人の心の内より溢れ出てきて、誠人はそれを素直に受け止めることができた。

誠人はベッドから起き上がると、妙に軽い体のまま窓際に近づいてカーテンを開け放ち、窓も開け放ち、澄み渡る青空を仰ぎながら、朝一番の心地良い空気を胸一杯に吸い込んだ。

「くぅー!! 世界はこんなにも美しい!」

誠人は今まで感じたことのない世界の美しさを実感して心から感動した。

なにせ、二年生になって約半年間もの間、神田達のいじめによって泥沼の底に沈んでしまったような日々を送っていたのだ。

あらゆる景色、あらゆる食事、あらゆる物がことごとく色あせた惨めな世界の中で、ただひたすらもがき苦しみながら、膝を抱えて耐え続けるしかなかったのだ。

それが、昨日の「大田原さん救出強襲作戦」の結果、誠人は全ての苦しみから解放されたのだ。

そして、それを改めて実感できるほどの実に清々しい朝であった。

誠人は作り笑顔では無い心の底からの元気の良い挨拶を両親にしてから、母親である友里江の作ってくれた朝食を食べて少し驚いた。

別にどうということのない、いつもの朝食である。

焼いたトーストが二枚。

粗挽きウインナーが2本に半熟気味の目玉焼きが1つ。

インスタントのコーンスープか牛乳を各自でセレクト。

だが、そんないつもな感じの朝食に、誠人は少し泣きそうになるぐらいに感動していた。

「(美味いなぁ! 今日の朝ご飯は何だか人生で一番美味しいや!)」

今日までの苦しみのせいで、誠人の味覚すらも知らず知らずに抑圧されていたのだろう。

全てから解放されて心が羽毛の様に軽くなったお陰で、誠人の五感もマイナス値から正常値へ、いや、もはやそれすらをも越えて喜び補正による歓喜の五感へと昇りつめ、世界のあらゆるものが美しく、そして愛おしく感じてしまうのだった。

「母さん! このウインナーはパリパリしてて本当に美味しいよ!」

「あらそう? ならもう一本食べる?」

「食べる!」

「今日の誠人は、えらく元気だなー」

元気な息子を見て、父親の京介は嬉しそうにニコニコとしていた。

誠人は朝ごはんを堪能すると、学校に登校した。

いつも憂鬱だった学校の正門が、今日の誠人の目には天国への門に見えた。

鼻歌混じりで下駄箱へと向かう誠人。

靴を履き替えるクラスメイト達は誰も誠人に声をかけなかったが、そんなことはどうでもよいことだった。

もはや「誰にも襲われることのない」下駄箱で、誠人はゆっくりとゆっくりとこの新しい朝を味わうように靴を履き替える。

廊下を進み階段を昇るが、誰も誠人に暴力を振るう者は居ない。

そんな輩は全て、今頃も病院でゲロクソまみれで悶絶中であるからだ。

誠人が教室に入ると既に半分以上の生徒が揃っており、何やら各グループで朝から熱心に議論を展開させており教室内が騒がしかった。

誠人は真ん中らへんにある自分の席に座り、鞄の中の教科書を机に入れながら皆の話に耳を傾ける。

すると、どうやら皆は、昨日の神田や江田島達に起こった噂を熱心に話し合っているようだった。

「聞いたか? 神田達、病院に運び込まれたらしいぜ?」

「ああ、聞いた聞いた。しかも江田島達もなんだろ?」

「そうそう、あの2つのグループ全員らしいぜ」

「しかし、何があったんだろうな」

「なんか、食中毒だって俺は聞いたけどさ」

「へー、何を食ったんだろ」

「なんか寿司らしいぜ」

そんな男子2人の話に女子が突っ込む。

「えー、私はキノコ狩りで取って帰ってきた中に、毒キノコが混ざっていたって聞いたけれど」

「いやいや、俺は生ガキって聞いたなー」

違う男子も更に会話に入ってくる。

「でもさ、俺の親が聞いた話によると、江田島達と神田達は江田島の家で集まっていたらしいぜ。しかも江田島の親は仕事で居なかったらしいし、なんか怪しい薬でもやって遊んでたんじゃね?」

クラス内における中位グループの一人がしたり顔でそう言うと、クラス中で「えー」「うそー」「まじか」「あいつらならやりそう」などと更に大盛り上がりになっていくのだった。

「(噂が噂を呼んであらぬ方向に行っているみたいだけど、俺には知ったことではないからどうでもいいや)」

誠人は我関せずという感じで目を閉じて頬杖をつきながらのんびりしていると、教室内に大田原 雪子が入ってくる。

クラスメイト達は雪子を一瞥すると興味無さそうに視線を戻して噂話を続けた。

雪子は俯き加減でそそくさと教室内を移動しながら、誰にも分からないぐらいの小さな動作でペコリと誠人に対してお辞儀をしてから自分の席へ辿り着くと、そのまま座って鞄の中身などを机の中にしまいこんでいく。

ちなみに、誠人が真ん中らへんの席であるのに対して、雪子は最も左側列の前方であった。

誠人は雪子の挨拶があまりに小さくて、移動中の揺れの一部なのではと勘違いしてしまいそうだったが、何とか「挨拶だったのかなー」と思いつつ、雪子の背中を目線だけで少し眺めていた。

「(登校できたということは、心のショックもそれほどではないみたいだね)」

雪子の元気な登校姿を見て、誠人は一安心するのだった。

しばらくすると担任の中年男性教師が教室内へと入って来て、朝のホームルームが始まった。

「えーと、今日の連絡事項はうちのクラスの神田、江田島……」

担任が神田グループと江田島グループの名前を読み上げていく。

「以上、8名が食中毒で入院することになった」

その発表に噂話をしていたクラスメイト達が一気に騒がしくなる。

「あー、はいはい」

担任は両手を叩いて教室内を静かにする。

「とりあえず全治には1~2週間程度はかかるそうだ。これを受けて校内でも衛生管理の注意をしていこうということになったから、皆も手洗い、うがいをきちんとするように」

「先生! 食中毒って寿司ですか?」

クラスメイトの男子が手を上げて質問する。

「ああ、そういう話もあるが、でも病院の話では、食べ物が原因というよりかは免疫力が低下していたのが良くなかったのではと言っていたな。だから、皆も夜更かしをせずに規則正しい生活を送るように」

担任は連絡事項を言い終えると、そのまま教室内を出て行った。

担任が出て行くと、またクラスメイト達の噂話に花が咲く。

「(ま、原因不明でありながらも症状が食中毒と似ている以上は、そういうふわっとした結論に至るしかないものなー)」

誠人はまた頬杖をつくとぼんやりと黒板を眺めるのだった。



男女共に賑やかな最上位グループがいなくなったこともあり、今日1日の教室内はどこかゆったりとした時間が流れていた。

中位、下位グループのクラスメイト達に直接的な影響は無かったとしても、やはり、日々、それなりに最上位グループ達の顔色を見て過ごさざるおえない以上は、どこか緊張していた部分もあったのだろう。

皆、口には出さなかったが、そのゆったりとした時間を満喫しているようだった。

もちろん、それは誠人も同じで、休み時間の度に神田達に小突き回されないという夢にまで見た平穏を堪能していた。

誠人は雪子の後ろ姿を見ると、雪子はいつも通り自分の席でひっそりと座っていたが、窓から見える青空をぼんやりと眺める両肩は少しなだらかで、リラックスしている雰囲気が感じられた。

「(神田と江田島達がいないだけで、こんなに心地よい空間になるなんて不思議だなー)」

しかし、残念ながらゆったりとした時間を堪能することができたのは、この日から数日だけであった。

なにせ、クラス内を牛耳っていた最上位グループがごっそりと居なくなったのである。

そうなれば、どうなるのか。

答えは簡単。

クラス内のグループの順位が自動で繰り上がるだけである。

つまりは下位が中位へ、中位が上位へ。

しかし、残念ながら最下層の自動的な順位アップだけは許されない。

イジメられるという最下層のレッテルを張られた者は、未来永劫、その地位に甘んじなければならないのだ。

最下層を救う者など誰も居ない。

それゆえに、最下層の者は自らを自らで救わねばならない。

それは戦うことだけでは無い、戦略的撤退という名の逃げすらも尊い方法のひとつだろう。

しかし、もしも、類まれなる力を持っているのならば、痛快な一手を打つ事もできる。

それこそが「革命」だ。

支配されていた者達が支配者層を追い落とす、まさに世の理をひっくり返す劇薬の如き方法である。

誠人と同じくクラスメイト達も、最上位グループである支配者が居なくなった一時の春を満喫しているようだが、彼等は知らないし気がついてもいない。

このクラス、いや、学校内には誠人という名の最下層でありながら革命を成す者が既に生まれていたということを。

誠人がぶち上げる本格的な反転攻勢の狼煙(のろし)は、まだもう少し先の事である。
関連記事



*    *    *

Information