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よあけの部屋

□ アイテムが本当にもらえるダンジョンゲーム □

12 戦いの後

誠人によって救い出された雪子が無事に家に帰ると、雪子の母親は今日も習い事で家には居なかった。

雪子はまだお昼過ぎだというのに服を脱いでお風呂場に飛び込むと、熱いシャワーを浴びて体の汚れを落とそうと必死に泡を立てて洗う。

特に神田に触られた胸は重点的に洗っていく。

雪子は体を洗いながら、「もし、日向君が助けに来てくれなかったら」と今更ながらに考えて背筋を凍らせた。

先程までの急展開過ぎる展開を前に軽いパニック状態の雪子だったが、改めて自分のセーフティーゾーンである我が家に帰りつけたお陰か、少しづつ誠人がしてくれた行為の凄さに気がつき始めた。

雪子が絶体絶命のピンチの中、突如として颯爽と現れた誠人。

まるでヒーロー漫画の様な登場の仕方だったが、圧倒的な力という感じではなく、何だか誠人自身も鼻血を吹き出しながら、つまりは必死になって戦ってくれていた。

その結果、江田島や神田達が全員、床に這いつくばって悶絶するのだが、それをどうやったのかは雪子には一切分からなかったし、誠人に聞くこともできなかった。

体を洗っている間に湯船が満たされ、雪子は温かいお湯に体を沈める。

改めて最悪のピンチを脱出した実感が湧き上がり、雪子は「ふう」と溜息をこぼした。

「……彼には本当に感謝しないと、ありがとう日向君」

雪子は目を閉じながら誠人の名字と共に感謝の言葉を呟く。

ちなみに、雪子はクラスメイトの男子の名前などは殆ど知らない。

なぜなら、雪子もまた二年生になってから江田島達にイジメられていた事により日々、緊張を強いられていたせいで、周りの世界に目を向ける余裕など無かったからである。

ただ、そんな有象無象の同じクラスメイト達の中でも、誠人だけは少し違った。

そう、誠人も神田達によってイジメられており、しかも、そのイジメはあからさまであったが為に、雪子も同情という感じで誠人の名字を覚えていたのだ。

ただし、あくまでその程度である。

雪子が誠人に対して、それ以上の感情を少しも感じた事も考えた事もない。

そもそも、同じイジメ境遇者ゆえに同情こそすれども、他人の事などに構っている余裕も暇も無いのだ。

自分の身を守る事こそ最優先事項であり、それ以外は全て瑣末(さまつ)な事なのである。

そう考えた所で、雪子は温かいお湯の中にいながら背筋に悪寒が走った。

雪子はふと、ある事に気がついたのだ。

「……彼もイジメられていた。イジメられていたということは、彼も必死に毎日を生きていたわけで……つまり自分以外に構う余裕など少しも無いほどだったはず……。なのに、それなのに、彼は私を助けに来てくれたんだ……」

その事実に気がついた時、雪子は誠人がイジメられているのをずっと知りながら、何の救いの行動もしてあげなかったという自分の心の弱さと汚さに気がついてしまい、慌てて湯船の中で胸の辺りをゴシゴシと洗おうとするが、いくら胸先をかき混ぜても心を洗うことなどできるはずもなかった。

「私はなんて、なんてダメな人間なんだろう」

雪子は湯船の背もたれにもたれながらずるずると体を下に落とし込み、そのまま頭を沈みこませると「ぶくぶく」と息を吐く。

「(でも、彼はそんな地獄の中でも、他人という私の為に行動をしてくれたんだ……。それって本当に凄い事だ)」

雪子の中で誠人に対する尊敬の念が湧き上がり、雪子は頭を湯船から飛び出すように跳ね上げると、「ぷはっ!」と息を吐き捨てる。

雪子は今や自身の中で急上昇ワード第1位となった「日向」という人物について考えてみた。

日向とはどんな男子だったか。

他人を気にする余裕も無かった雪子が、急上昇ワード第1位の誠人の人物像を想像するために、自身の中にある少ない情報をかき集め始める。

同じクラスの男子である。

男子グループの神田達にイジメられていた。

クラスの男女にバカにされており、学年内でもバカにされていた。

アダ名はデブなた、デブオタ、キモオタなど差別的な物ばかり。

女子グループの江田島達はいつも「気持ち悪い」と陰口を言っていた。

雪子の中から掘り起こされる誠人のイメージはマイナスな物ばかりで、結局のところ、雪子自身の中にも誠人に対する良いイメージが無い事に気がついて、雪子は改めて自身のダメさに頭を抱えてしまった。

「うぅ……私ときたら」

雪子は少し涙目になりながら口元だけを湯船につけて、まだ「ぶくぶく」と息を吐く。

ただし、これは雪子だけが悪いという話ではない、そもそも神田達の執拗なイジメ行為により誠人の尊厳は奪い去られ、所詮は「そういう存在である」という刷り込みに近い毒が毎日の様に周囲に蔓延しては汚染していき、クラスメイトの男女、更には大多数の同学年生達が誠人を軽んじてしまうようになっていたのだからだ。

誠人は、中学二年生の男子らしい低めの背丈でぽっちゃり体質ではあるが、顔立ちなどの容姿は至って普通の範囲内である。
特別、嫌悪されるような点は無いし、もちろんあったからといって、それが正当化されてはならない。

しかし、神田達のイジメ行為により誠人はイジメられても仕方が無い存在枠に強引に押し込められ、誠人をイジメても良いという免罪符を手に入れた者達の餌食となり、または悪意が無くとも軽んじられてしまうのだった。

しかし、雪子は今日の出来事をキッカケに、これらの仕組みに気がつくことができた。

「皆が日向君を軽んじているからというだけで、安易にそれに流されてはいけない。私もイジメられていたんだから良く分かっていたはずなのに……情けないな」

雪子は湯気に煙る天井を見上げながらため息をついた。

「よ、よし! 今日のせめてものお礼として、明日からはクラスメイトとして普通に接しよう!」

雪子はそう心に誓うと、とりあえず明日の朝は誠人に対してクラスメイトとして挨拶をしようと決意をするのだったが、ある重要な事を思い出した雪子は一瞬で絶望してしまう。

「……そ、そういえば私のBL趣味が校内にバラされてて「ホモ女」って呼ばれているんだった……こんな私に声をかけられたらきっと迷惑だよね……、それなのに私如きが普通に接してあげるみたいな上から目線な感じで考えてしまうなんて、うぅ……死にたい」

結局、今日のピンチは何とか抜け出せたとはいえ、明日からも学校内では地獄だったことを思い出した雪子は、がくりと項垂れてしまうのだった。
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