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よあけの部屋

□ アイテムが本当にもらえるダンジョンゲーム □

8 芽生え

神田達のイジメを耐え忍ぶ誠人にとっては、その難題こそが世界の全てであり、それ以外の事はあまり情報として脳に届いてはいなかった。

つまり、他の事を考える余裕など無いということである。

クラスメイトでさえ顔と名前がぼんやりと分かる程度でしかなく、そもそも皆から避けられているので、こちらから興味を示す理由も意味も無い。

とにかく、誠人のエネルギーは全て神田達に向けて注がれており、日々のイジメをいかに耐え忍び、神田達の気分をいかに逆撫でせず、そして神田達に見つからずにさっさと学校から退避するか、という事だけが誠人の関心事であった。

そんな日々の中で、クラス内女子派閥で最上位グループの江田島達から陰湿なイジメを受けている「大田原 雪子」という女子生徒の存在に、誠人は改めて気がつくこととなった。

見た目こそ花の無い素朴な女子生徒だが、その胸にとんでもない爆乳を装備しているということで、クラスの男子達が色々な噂をしつつエロい目で見ていることを知ってはいたが、イジメ地獄真っ最中の誠人には、とてもそんなことにエネルギーを割いている暇はなく、何とか名前と顔を覚えている程度でしかなかった。

確かに最上位グループの一員にしては雰囲気に差があるなと、鈍感な誠人でも感じた事はあるのだが、彼女達は仲が良いのだからという点でスルーしていた。

ただ、それさえも今の状況で思い返してみれば色々と怪しいなと誠人ですら思う。

誠人はアイテムダンジョンクエストのプレイを途中で放置したまま、ベッドで仰向けに寝転びつつそういうとりとめの無い事をあれやこれやと思案していた。

「(なんか今日の俺、大田原さんの事ばっかり考えてる……)」

同じイジメの被害者という同情心のゆえか、自分以外の誰かがイジメられているシーンが衝撃的だったがゆえか、他人の事など気にしている暇などない誠人の頭の中を自然と占領してしまう大田原 雪子。

誠人は少しずつ雪子の事が気になり始めるのだった。




翌日、学校に登校した誠人は、朝から神田達に小突き回されて大変だったが、いつもと比べるとあまりねちっこくはなく、どことなく淡白であっさりと解放してくれた。

午前中の休み時間、突っ伏すように机で寝込む誠人の横を雪子がトイレに行くのか一人で教室を出て行った。

思わず目線だけで雪子の姿を追ってしまう誠人。

雪子が居なくなるのを待っていたのか、後ろの席で集まっている女子の江田島達が妙な会話を始めた。

「あれ、どうなった?」

女子仲間にそう問いかけられた江田島が楽しそうに答える。

「ああ、大丈夫大丈夫。今週末の土曜の夜はうちの親が帰ってこないから、そん時に実行」

「相手は誰にしたの?」

「神田達に声をかけといた。1人2000円でやり放題って言ったらバカみたいに大はしゃぎしてたわ」

「うげー! あんた鬼畜ねー」

「何言ってのよ。あんたも見にくるんでしょ?」

「まー、当然、見に行きますけどー」

「あはは! 楽しくなりそうね」

仲間の答えに江田島は嬉しそうに笑い声をあげる。
そんな江田島に他の女子仲間がニヤニヤと笑いながら声をかけた。

「ところでさー、どうしてあんたはそこまですんの?」

その問いに江田島は鼻を鳴らして面倒くさそうに答える。

「えー、だってさー、あいつ金持ちのお嬢様でムカつくじゃん。きちんと世間の厳しさを教えてあげようっていう私なりの優しさだよー。それにさー、あの牛みたいな乳もキモいしさー。ま、じっさいホモ女だったから本当にキモいんですけどもねー」

「確かに確かに」

江田島の答えに、周りのグループ連中も当然という感じで頷いていた。

江田島達の会話は肝心な所が伏せられているので、当人達以外には理解できない内容だった。

しかし、机に突っ伏した格好のままで江田島達の話を盗み聞きしていた誠人は、その肝心な部分を知っていたので、そのあまりにもな内容に心臓が破裂しそうなぐらいに驚いていた。

「(か、神田達が大田原さんを一人2000円で買う? つまりは、その、え、援●をさせられるってことなのか!?)」

誠人は心の中で呟きながら目を見開いていた。

なにせ、江田島が言っていた「体で稼げ」という台詞は、所詮は脅し文句なのだろうと心のどこかで誠人は思っていたのだ。

それが、本当に売春という行為を雪子に強要しており、しかも稼いだお金を雪子から巻き上げる予定で、更にはそのお相手が誠人をイジメている神田達だという。

誠人はこの件が、嘘や冗談ではなく本当の事なのだということを、やっと真実味を帯びて実感し始めていた。

「(神田達、それで今日は朝から機嫌が良いのか……)」

恒例の小突き回しが意外とあっさり終わった理由を誠人は納得した。

雪子が教室に戻ってきて席につくと、女子の江田島達は雪子の方を見ながらクスクスと笑い、男子の神田達は雪子の胸を見つめながらニヤニヤとしていた。

誠人はあまりの真実に対するショックに呆然とするしかなかった。




その夜も、誠人はあまりアイテムダンジョンクエストのプレイが捗らなかった。

ベッドの上で仰向けに寝転びながら天井を眺めて思案を続けていた。

なにせ、大田原 雪子の事が気になって仕方が無いのだ。

雪子が神田達に強引に襲われる場面を想像して、誠人は思わず下半身が興奮してしまう。

中二ゆえの旺盛な精力がある以上は仕方がない反応であった。

だが、体はそういう反応を示すものの、誠人の頭は真面目に思考を続けていた。

先程から浮かび上がるどうしようもないイライラ感。

それは一体何なのだろうかと誠人は真面目に思案していた。

再度、雪子が神田達に爆乳を揉みしだかれ、吸いつかれ、代わる代わるに襲われる場面を想像する。

更に下半身がギンギンになる誠人。

だが、その時、誠人は1つの感情を自分の中に発見した。

「(……ムカつく)」

そう、誠人をイジメている神田達が、神秘の女体にありつけるという事に対する羨ましさと妬ましさが、自分の中に生まれていることに誠人は気がついた。

なにせ、大田原 雪子は素朴ではあるが顔立ちは悪くは無いし、何といっても学校内一の爆乳である。

「(どうして、あんな奴等が!)」

どれだけイジメられても敵意を込めた憎しみという感情を抱けなかった誠人が、大田原 雪子というイレギュラーな存在と出来事の介入により、新しい感情を芽生えさせようとしていた。

それは、義憤というものとは程遠い嫉妬の炎ではあったが、誠人は初めて神田達に対して負の感情を爆発させた。

「――どうしてあんなクソみたいな奴等がそんなおいしい思いをするんだ!!」

誠人はベッドから上半身を起き上がらせると、枕にパンチの雨を降らせる。

「くそくそくそくそくそくそっ!!!」

所詮は嫉妬という情けない感情ではあったが、やがて誠人の中では、その小さな芽生えの発火をキッカケとして連鎖爆発が起こり始めるのだった。
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