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よあけの部屋

□ アイテムが本当にもらえるダンジョンゲーム □

6 小さな綻び

翌日、誠人はいつもよりにこやかに登校していた。

学校はあいも変わらず地獄ではあるが、それでも昨日のアイテムダンジョンクエストの新しい発見は、今後のことを考えるとワクワクが止まらなかった。

漫画、アニメ、ゲームはイジメにあっている誠人には趣味であり心の支えであったが、アイクエのお陰で今や、生きる希望にも感じ始めていたのだ。

「(今日も耐えて、帰ったら新しいアイテムを発見しよう!)」

誠人は下駄箱で靴を履き替えてから廊下を歩き教室に入ると、教室内では友達同士の賑やかな会話が飛び交っている。

誠人は少し俯きつつ、教室内の真ん中らへんにある自分の席にひっそりと腰を下ろすのだが、なぜか神田が気怠そうに近づいてくる。

「おい、デブなた。お前、何だか楽しそうな顔しているな」

呟くように、囁くように、恐ろしい言葉を吐く神田。

神田は鋭い蛇のような目つきで教室内に入ってきた誠人をじーっと眺めており、誠人の微細な変化を感じ取っていたようだった。

「え? え?」

神田のあまりにも鋭敏な感覚に誠人は驚きを隠せなかった。

なにせ、神田にしてみれば誠人は極上の獲物である。

己のストレス発散の為に毎日、毎日、どう料理してやろうかと考えている以上、この学校内で一番に誠人の状態を理解している男でもあった。

更に、神田にとってはその問いが正解でも不正解でもどちらでも良かったりする。
なにせ、不正解ならいつも通りにイジメる。
正解なら、よりイジメるだけなのだから。

「そ、そんなことはないです」

誠人がふるふると顔を振って否定すると、神田は問答無用で誠人の頬にゲンコツを叩き込んだ。

「アガッ!?」

目立つ傷を与えない為か威力は大したものでは無かったのだが、腹部とは違いやはり顔を殴られるというのは屈辱感が桁違いであった。

「口答えしてんじゃねーよデブなた」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

「なーデブなたー、そろそろ俺のお願いをさー、ちゃんと聞いてくれよー」

「お、お願い?」

「いつも、頼んでんじゃん。お願いだから早く死んでくれよーってさ~」

神田の冷酷な言葉の暴力に、誠人は喉の奥がギュッと締め付けられてしまい何も言い返せなかった。

「お前のせいで、いつも教室に来るのが憂鬱なんだよ。まるで生ゴミと一緒に勉強しているみたいでさ~。だから、早く死んで、この世から消えてくれよー。マジでマジでー」

神田の言葉に、神田グループの友達が「あはは!」と楽しそうに笑っている。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

誠人はただ謝るしかなかった。

「授業を始めるぞー」

「チッ」

男性教師が教室に入って来たので、神田は誠人にだけに聞こえるように忌々しそうに小さく舌打ちをすると、何もなかったかのように自分の席へと戻っていくのだった。

「(うぅ……神田の奴、朝からなんであんなに機嫌が悪いんだろう……。本当に俺の顔が嬉しそうに見えたのかな? もし、そうなら気をつけないと)」

誠人はアイクエを手に入れられた喜びが表に出ないように、より注意をするのだった。

その日の放課後、そそくさと教室から逃げ出そうとしていた誠人の後ろで、いつもとは少し違う事がおきた。

「え? 何が無いって、ユッキー?」

クラス内で最上位派閥女子グループのリーダー格である江田島が、グループメンバーとしては似つかわしくない素朴系な大田原 雪子に対して、ニコニコとした表情ながらもどこか剣のある声色を出す。

近くにいた誠人ぐらいしか聞こえない程度の声だったので、他の女子や男子達は楽しそうに放課後の気楽な談笑をしていた。

「え……と、その……今月のお小遣いがもう無いから、私は今日のカラオケはちょっと」

「じゃあ、それなら明日は皆でカラオケにいこうね?」

相変わらずニコニコとしながら話しかける江田島。
その言葉に雪子は顔面蒼白で絶句していた。

「ね?」

威圧するように再度、問いかけられて、雪子は俯くように頷き返す。

「よし、じゃ、今日はバイバイ、ユッキー」

江田島は仲間の方へと向かい「今日はカラオケ中止~」と声をかけると、仲間の女子達が「えー!」とブーイングの声を上げていたが、それを「まーまー」となだめながら教室を出ていこうとする。

江田島は教室を出て行く途中、誠人が呆然と江田島達を眺めていた事に気がついたのか、「見てんじゃねーよデブなた!」と悪態をついてきたので、誠人は「ご、ごめんなさい!」と謝ってからそそくさと教室を飛び出すのだった。

学校を出て、帰宅路を一人ぷらぷらと歩きながら、誠人は先程の光景を思い浮かべた。

「(まさか大田原さんって……)」

誠人は江田島と大田原の不思議なやりとりを目にして、その小さな違和感を感じ取っていた。

「(でも、普段は仲良さそうだしなー)」

だが、誠人の様に分かりやすいイジメでは無いため、さすがにイジメられ当事者の誠人でも即座に確信することはできなかった。

ただし、江田島に詰め寄られた時に見せた大田原のあの「絶望に満ちた表情」を思い出すと、誠人の胸がキューっと締めつけられる。

「(辛そうだったな……)」

イジメられる辛さが分かる誠人は、なんだか悲しい気持ちになるのだった。
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