FC2ブログ
 

よあけの部屋

□ アイテムが本当にもらえるダンジョンゲーム □

3 徹夜でゲーム

誠人は夕食時までゲームを触った結果、いくつかのことを理解した。

まず、ダンジョン部屋内では消耗した体力は薬草軟膏などのアイテムでしか回復しない。
ただし、もとの草原小島に戻れば自動的に少しずつ回復してくれる。

つまり、無事に戦闘を終えたならば別に慌てて回復せずとも、帰還すれば自動回復できるので、回復アイテムの消費を抑えることができる。

魔力に関しては、魔法などがまだ手に入っていないのでどのような仕組みなのかはまだ分からない。

ステータスはレベル制ではなく、手に入れたアイテムで強くなっていくシステムである。

セーブは1個だけなので常に上書き。

スライムは薬草軟膏を落としやすいが、武器はいまだ一向に落としてくれない。

スライムが落とす金貨の枚数は0~3枚のブレがある。


「とりあえず金貨が30枚ほど貯まったけれど、このゲームにはお店とかないんだよなー。でも、お金欄があるから使い道があるんだろうけれど、もし本当にお店がなければ、俺の世界で換金してみようかな」

しかし、誠人はネットなどで色々と調べてみた結果、金貨を売るのは色々と面倒であり、しかも、そんな金貨をどうして大量に持っているのかという点から世間から色々と疑われそうだったので、良いアイデアが見つかるまで換金は諦めるしかなかった。

「誠人ー! ごはんよー!」

「はーい!」

誠人は「アイテムダンジョンクエスト」、略して「アイクエ」をセーブしてから電源を落とそうと思うのだが、何だがもう二度と起動しなくなると嫌だなと考え、つけっぱなしで部屋を出た。

一階の食卓のテーブルの席には、仕事から帰宅していた父親の京介(きょうすけ)が小さなコップに注いだビールを美味そうに飲んでいる。

「あ、父さんお帰り」

「うん、ただいま」

誠人の父親である京介は普通の平凡なサラリーマンである。
小さい頃に両親を早く亡くしており、更には貧乏などで苦労したせいか、誠人には色々と甘い父親であった。
特に食事に関しては顕著であり、自分のお小遣いが減ろうとも誠人にはたらふく食べさせてあげたいという思いがあり、今日もその通り、すき焼き用に高級では無いにしろ柔らかめの牛肉が皿に大盛りで入れられている。

「さあさあ、母さんの作ってくれた美味しいすき焼きをたんと食べなさい」

ぐつぐつと鍋の中で踊るお肉、おふ、きのこ、白ネギたち。
甘ったるい砂糖醤油の香りが誠人の鼻をくすぐった。

「いただきまーす!」

誠人は席につくと、すぐにでもゲームの続きがしたいのでお椀の生卵をさっさとかき混ぜて、お肉と白米をガツガツと口にかっこんでいく。

「……どうした誠人、そんなに慌てて?」

「うん、ちょっと面白いゲームがあって」

「そうかそうか」

普通の父親ならばここで小言を言うのかもしれないが、子供時代に苦労をした京介は誠人が何かを楽しんでいるということが嬉しいのかニコニコと頷く。

「ゆりちゃん、誠人のお肉をどんどん入れてあげて」

「はいはい」

京介の言葉に友里江もニコニコと微笑みながら鍋にお肉を継ぎ足していくのだった。

誠人はご飯二膳とお肉を大量に食べ(野菜はちょっとだけ)てから、ごちそうさまをするとそのまま食卓を出て二階の部屋へと駆け上がっていく。

「ハハハ、よほど面白いゲームが出たみたいだな」

「そうみたいですね~」

自分の子供が楽しく生きているのが嬉しいのか、京介は幸せそうにビールをあおると、友里江とのんびりすき焼き鍋をつつくのだった。



自室に戻った誠人は、液晶テレビにアイクエの画面が写っている事に一安心する。

「良かった……」

誠人はコントローラーを手に持つと、そのまま黙々とゲームをし続けた。

拠点?である草原小島にある階段から、ダンジョンとは名ばかりの小部屋に移動するわけだが、小部屋で待ち構えている敵はスライムばかりなので普通ならば数分もせずに飽きてしまうことだろう。

だが、手に入れたアイテムが実際にもらえるという摩訶不思議な機能のおかげで、同じスライムでも、もっと他に何か良いアイテムを落とさないかなとワクワクが止まらなかった。

スライム戦を終えた後に現れる赤い宝箱を開けるのが、とにかくドキドキして最高だった。

「何か出ろ何か出ろ」

祈るように呟きながら宝箱を開けると、いつもと違うアイテム名が現れた。


『木の棒を手に入れました』


「やた! 武器が出た!」

ただの木の棒ではあったが、誠人は小さくガッツポーズを取ってしまうぐらいに嬉しかった。

誠人は早速、木の棒の解説を見るが予想通りただの木の棒だった。
誠人はゲーム内のキャラに木の棒を装備させてみるが、ステータスは体力と魔力しかないので、攻撃力がどうなっているのかはいまいち判断できなかった。

「……どうも武器防具は実際に使って性能を確かめてみるしかなさそうだな」

誠人は草原小島に帰還して体力を自動回復させてから、木の棒の威力を確かめる為にそそくさと階段を下りる。

いつも通りのスライムに戦いを挑んでみた所、サイドビューのドット絵の誠人キャラの手には木の棒が握られていた。

「お、武器グラフィックがちゃんと表示されてる」

誠人が攻撃コマンドを選択すると、誠人キャラはスライムに突撃して木の棒をブンブンと振ってスライムを攻撃する。

誠人キャラから木の棒攻撃を受けたスライムの体力バーが一気に半分以下まで減っていく。

「おおー、素手よりも攻撃力が上がってる! これなら2発で倒せる!」

誠人はこうして徹夜でダンジョン潜りを続けるのだったが、特に珍しいアイテムは何も出ず、薬草軟膏が結構な数だけ貯まっただけだった。

外が白み始めた頃、流石にこのままでは学校には行けないと考えた誠人は、アイクエのセーブをしてから「また遊べますように」と祈るような気持ちで電源を落として短い睡眠を取る。

朝7時の目覚まし時計がけたたましく鳴り響き、誠人は重たい頭を持ち上げて起き上がると、取り敢えずアイクエの電源を入れて確認作業をしてみる。

「良かった……ちゃんと起動した」

アイクエがきちんと起動したことを確認して安堵した誠人はプレプレ4の電源を落とすと、学校に行く準備を済ませてから母親に見送られて家を出る。

いつもなら憂鬱な学校への道も、今日は少しばかり楽しかった。

それはもちろん学校という地獄をやり過ごせば、また「アイテムダンジョンクエスト」でアイテム掘りという名の楽しい遊びが待っているからである。

誠人が校内の下駄箱で靴を履き替えていると、突然、尻を「パァン!!」と蹴り上げられる。

「いつ!」

あまりの強烈な蹴りに、誠人は下駄箱に飛び込むようにもたれかかる。

蹴りの主はもちろん神田だったが、神田は「どけデブなた」と呟くように吐き捨てた後、何もなかったかのように通り過ぎていく。

「……」

もちろん何も言い返せるわけがなく、誠人は俯いたまま靴の履き替えを続ける。
周りの生徒達、もちろん側にいるクラスメイトも「見慣れた日常」として、特に気にする様子もなく平然と靴を履き替えて通り過ぎていく。

こうして、今日も誠人の耐え忍ぶ1日が始まるのだった。

その日の出来事。

神田からのボディブローで軽いゲロをしてしまい誠人が自分で掃除をさせられた。

神田に背中を蹴られた勢いで女子とぶつかってしまい「うわ!」と女子に悲壮な顔で困られた。

誠人がトイレで小便をしていると動けないのをいいことに、神田達にお尻をグリグリと足蹴に押されて便器と体がひっついてしまい「きったねー!!」と嘲笑混じりの罵声を浴びせかけられた。

今日の出来事は以上。

誠人は放課後まで捕まっては堪らないと、脱兎の如く学校を抜け出すや家へと帰るのだった。


誠人は家に戻ると出迎えてくれた母親である友里江への挨拶もそこそこに、そそくさと友里江の側を通りすぎて階段をのぼり自室へと駆け込んで鍵を閉める。

そして、学生服を脱ぎ捨てると体中にイジメによる痛々しい痣や傷があらわれた。

誠人は「アイテムダンジョンクエスト」から現実化させた「薬草軟膏」の小瓶を手に持ち、指先ですくった軟膏を体中の生傷に塗っていくと、すーっと痣や傷が消えていく。

「たくさん手に入れてどうしようかと思ったけど、なかなか役に立つな薬草軟膏。これがあれば、どれだけ殴られたり蹴られたりしても大丈夫だ……」

そう呟いた瞬間、誠人の瞳が涙でにじむ。

なにせ、結局の所は「耐える」しか無いからである。

薬草軟膏があろうとも、一旦は神田達によって浴びせられる暴力の痛みを受けなければならない。
そして、それがこれからも延々と続くのだ。

誠人は手に持っていた薬草軟膏の小瓶を部屋の壁に投げ捨てた。

「――こんなものがあったって!!」

誠人はその場でうずくまると、少しの間、声を押し殺すように泣きじゃくるのだった。

誠人は今はまだ平凡なぽっちゃり気味の中学二年生である。

むしろ、甘めな両親に育てられたせいか、世間の悪意と対峙する知恵などは同年代よりも更に幼かった。

目には目を。

歯に歯を。

そんな単純明快な、「やり返す」という発想すらできない有様である。

優しい性格になったのは美点ではあるものの、己の存在を脅かす敵にすら攻撃性が沸かないのは重大な欠点でもあった。

むしろイジメられる自分が悪いと自分を攻めてしまう程である。

そして、どうして自分はこんな目に合うのだろうかと、ただただ悔しさと情けなさと絶望を胸の奥に貯めこんでいくだけ。

ゆえに、誠人は未だ気がつくことができなかった。

アイテムダンジョンクエストがいかに凄まじいゲームであるのかを。

ただ単に、使えない金貨と事後処理にしか使えない薬草軟膏を吐き出すだけのゲームではない。

もちろん、誠人もこのアイテムダンジョンクエストを頑張れば、凄まじい武器などが手に入ることは何となく理解していた。

ただ、それと同時に誠人は思うのだ。

そんな凄まじい武器を手に入れてどうしようというのかと。

エクスカリバーで神田達を一刀両断にすれば良いのか?

だが、それは結局の所、ただの殺人である。

その後、誠人は警察に逮捕されるし、両親にも迷惑がかかる。

それに、そもそもそんな「程度」ならエクスカリバーなど必要は無いのだ。
そこらで売っているカッターか包丁の一本もあれば何とでもなる話である。

しかし、そんな突出した殺意は恐れ多くて抱けやしない。
だからといって、喧嘩で抗う技術も根性も勇気も無い。
格闘技を習おうなどという知恵も無い。

無い無い尽くしの中で、誠人はただただ耐え忍ぶことしか選択できなかった。

つまり、中学二年生の歳相応、いや、もはやそれ以下である誠人には、このアイテムダンジョンクエストが無限の可能性を秘めている事など、残念ながら知る由も無いことであった。

だが、優しさゆえに自分の事には耐えられた誠人が、その優しさゆえに他人の事まで耐えられるであろうか。

そこを見誤ったイジメ男子達は誠人の覚醒を促してしまうわけだが、それは、もう少し後の話である。
関連記事



*    *    *

Information