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よあけの部屋

□ アイテムが本当にもらえるダンジョンゲーム □

1 悪夢のような日々の中で

「いってきます」

見送りに玄関まで来てくれた優しい母親を心配させまいと作り笑いを浮かべて家を出る少年。

彼の名前は日向(ひなた) 誠人(まこと)。

中学二年生の平凡な男子学生である。

幼い頃に色々と苦労した誠人の父親は色々と甘く、特に食事に関しては何でもたらふく食べさせてくれる傾向にあり、誠人はそのおかげで今では立派なおデブちゃんとなっていた。

頭頂部の毛が多めに残っているいわゆるスポーツ刈りに、詰め襟のある黒の学生服。
ただし、身長は普通の年頃のままなので大人並みに大きな体のデブという感じではない。

母親の方も色々と甘く、教育ママなどではない為、誠人の成績が悪い事を注意も指導もしないせいか、成績は学年で下から数えるほうが早い程である。

唯一の美点といえば、そんな優しい両親に育てられたせいか性格は穏やかで、相手の気持ちも良く理解できる心優しい少年に育っていた。

ただ、そういう人一倍心優しい人間というのは、少しばかり心根が腐った人間への対応が実に苦手であり、またなぜかそういう輩の餌食に合いやすい。

御多分に漏れず、誠人もまたクラス内でイジメを受けていた。

一度張られたレッテルというのは簡単に拡散してしまうもので、つまりはイジメられても仕方がない人間というレッテルは他のクラスにまで共有されてしまっており、今ではクラスだけではなく同学年の学生達からも蔑みの目で見られたりあしらわれたりしてしまっているのだった。

誠人は学校の門をくぐるのがいつも気重だった。
しかし、どうすることも出来ず、ただ諦めにも似た感情を抱きつつ校舎内に辿り着くと、下駄箱で上履きに履き替えて廊下に出る。

周りの学生達は友達と挨拶を交わしたりと明るい声が辺りに満ちていた。

誠人は誰とも会話を交わさず、二年生の教室がある二階へと続く階段に向かって歩いていると、突然、後ろ頭を力一杯、誰かに叩かれた。

誠人は突然の衝撃に声も出さず辛そうに顔をしかめる。

誠人の頭を乱暴に叩いた犯人は誠人には何も言わず、まるで何もなかったかのように自然とした感じで誠人の横を通り過ぎて階段を上っていく。

その人物の横顔を見た誠人は、相手が予想通りの人物だったがゆえに少しだけ涙目になった。

誠人の頭を叩いた学生は、誠人と同じクラスメイトの神田(かんだ)だった。

クラス内の男子グループの中でも最上位派閥の1つで運動系グループのリーダー格だった。
神田はサッカークラブに所属しており、ソフトモヒカンな髪でヒョロリとヤセ型ながらも背が高く、目つきの悪さ通りに性格も歪んでいた。

神田と同じクラスになってからというもの、誠人は事あるごとに暴力や暴言を叩きつけられていた。

だが、誠人は神田に対して反撃しようなどとは一度も考えたことはなかった。

なにせ相手は運動部であり、しかも同じ年齢とは思えない背丈、そして同じ精神年齢とは思えない大人びた落ち着きと暴力性、更には同じような運動系の悪友達がゴロゴロとそばにいる。

勝てる要素など何一つ無かった。

だから、誠人はただ耐えるしか無かったし、ただただ悲しい思いを胸一杯に溜め込むしかなかった。

誠人は2-3と書かれた部屋に入ると、朝からの運の無さに涙目になりながら真ん中辺にある自分の席につく。

クラス内では男女関わらず上位グループはもちろん、それ以下のグループやコンビなども楽しそうに歓談しているが、誠人は一人でひっそりと鞄から教科書を取って机の中にしまい込んだ。

もちろん、誠人のようにぼっちのクラスメイトは他にもいたが、彼等がグループを組むことは無い。
それぞれが独立ぼっちであり、クラス内では空気のような存在である。

「朝の授業の前にトイレ行っとくわ」

神田が仲間にそう言うと、わざわざ誠人の近くまで寄ってくるや、誠人の後頭部をまた無言ではたいてその場を後にする。

誠人は後頭部を抱え込みながら机に突っ伏した。

神田の仲間の一人が「あはは! 良い音するな~」と声を出すと、周りの仲間連中もケラケラと笑う。
しかし、クラスメイト達は誰も反応を示さなかった。
誠人のことなど空気のように、まるで何も無かったという感じで友達と話している。

誠人は涙目で苦笑いを一人浮かべながら、そのまま机に突っ伏し続けた。



その日の神田のイジメはいつも通り散発的に続いた。

授業の合間の休み時間には腹部を殴られ、移動教室への移動中には邪魔だと足を蹴られる。

そんな扱いをされる者というレッテルが張られている誠人には、他のクラスメイトも冷ややかだった。

最上位グループの女子学生の一人には「くせーんだよデブオタ!」と罵られ、中位グループの男子には「どけよデブ」と軽くあしらわれ、下位グループの女子に近づいた時には「きゃ!」と悲鳴を上げて逃げられた。

そんな悲しくもいつも通りな1日を終えて、誠人はトボトボと家路につくのだった。




誠人が家に帰り着くと、台所から出てきた母親の友里江(ゆりえ)がニコニコとした優しい笑顔で迎えてくれる。

「お帰り誠人」

「ただいま母さん」

「学校はどうだった?」

「うん、普通に楽しかったよ」

「そう」

母親は満足そうに頷く。

「そうそう、誠人宛に何か郵便が届いているわよ」

「え?」

母親が指差す玄関の端を見た誠人は、そこにそれなりの大きさの段ボール箱があるのを見つけた。

「何か懸賞でも送ったの?」

「え? いや、どうだったかな……」

誠人がダンボールのラベルを見てみると差出人が書かれておらず、ただ誠人の名前と住所、そして品名が「ゲームソフト」とだけ書いてあった。

誠人はダンボールを抱えるように持ち上げると、大きさの割にはその軽さに少し驚く。

「(いや、ゲームソフトなんだから重さはこんなものだよな。でも、それにしては大きな箱だな……)」

誠人はダンボールを抱えて自分の部屋へと階段を上がっていくと、そんな誠人の背中に母親が声をかけてくる。

「今日はすき焼きだからね」

「はーい!」

誠人は返事をしながら今日、初めて少しだけ微笑んだ。
なにせ誠人にとって食事はストレス発散の為の大事な娯楽の一つであるからだ。
ただ、中学二年生の誠人にはその自覚は無い。
現在の自分が更に太り気味で、原因がイジメにあることなど想像もつかないのであった。

誠人は部屋に戻って鍵を閉めると、ダンボールを勉強机の上に置き、その上に乗せて運んできた鞄を机の上に下ろす。

学ランを脱いでクローゼットにしまうだけで、着替えもせずにダンボールの前に戻る。

「一体、何が入っているんだろうな」

誠人は引き出しからカッターナイフを取り出すとダンボールのテープを切って開封し、中にびっしりと詰まっているクッション材を掴んで放り出す。

すると、段ボール箱の底にある中身があらわになった。

「あ、本当にゲームソフトだ」

そこには、平凡な形のゲームパッケージが1つ。
次に同じく平凡な音声会話用のヘッドセットが4つ。
そして、最後にコードが付いた箱型のデバイス機器が1つ入っていた。

「あー……なるほど、このデバイス機器のせいでダンボールが少し大きかったんだな」

誠人はゲームパッケージを取り出すと、表と裏をまじまじと眺めてみる。

ゲームパッケージは普通ならイラストやらゲーム内画像やら宣伝文句などがゴテゴテとデザインされているはずなのだが、それらのようなものは一切無く本当にただの無地で真っ白のみ、そこにシンプルにゲーム名だけが書かれてあった。

「アイテムダンジョンクエスト……。対応ハードはプレプレ4か。今はプレプレ5が最新機種だから一昔前のだな」

誠人はオタクであり将来の夢はゲームクリエイターなので、勉強も兼ねて小さい頃からお小遣いはゲームや漫画などに注ぎ込んできた。
なので、小学生時代に活躍していたプレプレ4もきちんと所有しているし、大事に保管もしていた。

誠人は押し入れを開けると、オモチャ箱からプレプレ4を取り出して液晶テレビにセッティングする。

プレプレ4のUSB端子にヘッドセットと、RPGで定番な宝箱風の形をした小さな箱型デバイスを繋ぎ、パッケージから取り出したディスクを投入する。
ちなみに説明書などは何も入っていなかった。

プレプレ4がディスクをロードし始めると、軽快な音が鳴り響きタイトル文字のみのシンプルな画面が映し出される。

「なにもかもがシンプルだなーこのゲーム」

タイトル名「アイテムダンジョンクエスト」の下にはシンプルなウインドウがあり、そこには「初めから」「続きから」「終わる」という項目があり、現在はまだセーブデータが無いので「続きから」は選べない状態になっていた。

誠人は「初めから」を選択すると、主人公の設定などなにもなくいきなりゲーム画面が映し出される。

画面は昔懐かしいドット絵の2D風RPG。

海の真ん中に小さな四角形の草原の島があり、その真ん中に階段、そしてその階段の横に冒険者風の格好をした主人公らしき可愛いドットキャラがテクテクと歩行アニメーションを行っている。
そのドットキャラはどこか誠人風にぽっちゃりとしていた。

「何だろこれ、俺っぽいな」

誠人はボタンを押してステータスを表示させると、そこの名前欄には既に「誠人」と記入されてあった。

「……俺宛に来たぐらいだから、俺の名前を強制的に登録済みなのかなー?」

誠人はあまり深く考えずにコマンドを確認する。

特に珍しい物は何も無かった。

・アイテム
・装備
・ステータス
・セーブ
・ロード

とりあえず誠人はステータスを確認してみる。


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【誠人】

【体力】■■■■■(赤色のバーが1本)
【魔力】■■■■■(黒色のバーが1本)

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その内容は実にシンプル過ぎるほどにシンプルな表記だった。
数値などは一切なく、体力バーと魔力バーが書かれているだけだった。
なにせ、攻撃力や防御力などの定番の項目も無い有様である。

「本当にシンプルだなー」

誠人はステータス画面を消すと、画面上のキャラを島の上でウロチョロさせてみる。

「エンカウントはおきないみたいだな。となると、この階段からダンジョンに降りるという感じなのかな。いやー、本当に驚くほどにシンプルなゲームだなこれ」

誠人は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

「まるでRPGツクレールで面倒くさがりの人が作ったゲームっぽいよ」

誠人の例えはなかなかに的を射ていた。
実際、シンプルなドット絵の画面はまさに誠人が愛用しているRPGツクレールの初期画面に島と階段だけを設置したような雰囲気だった。

「とりあえず、ダンジョンに潜ってみようか」

キャラを階段に重ねあわせると「ザッザッ!」という階段を降りる定番の効果音と共に画面が暗転するのだった。
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