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よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第10話 要塞都市バルタロ

太陽は既に天上の頂に昇り、今日も一日、実に健やかな快晴であった。

悠然と流れゆく白き雲の群れ。

荒涼とした大地は今も尚、物寂しさに溢れてはいるが、もはや要塞都市が近づいてきた証拠なのか街道の人通りも増えてきており、先日までの世界に取り残された様な感覚は無かった。

「人の往来が増えてきたな」

「あい」

タロウは往来の人々に軽く礼をしながら挨拶を交わす。

ほとんどは商売人なのか荷馬車での移動のようだった。

要塞都市へ向かう者。

要塞都市から離れていく者。

商売人は要塞都市に行く者も、離れていく者も皆、晴れやかな顔をしていたが、武器を携えた者、魔物を従えている者などで要塞都市から離れる方向へ行く者は、皆とぼとぼと歩いているのが多く見受けられた。

「(要塞都市で夢が敗れたのかなー)」

元気の無い者達とすれ違う度にタロウはそう思った。

「(しかし、食料店のおばさんの言う通り、要塞都市バルタロまでの道のりは本当に徒歩で3日程度だったんだな。余分に食料を買い込んではみたが、どうやらトラブルもなく辿り着けそうだ)」
  
タロウはおもむろにプス子の背中を見る。
プス子はタロウの乗る荷車を引き続け、特に問題も無く無事に3日目を迎えていた。

「(今日もプス子は元気そうだな。荷車を引いても特に疲れないとはサイクロプスの体力は凄いな)」

タロウはプス子に労いの言葉をかける。

「良く頑張ったなプス子。要塞都市に着いたら白パンをごちそうするからな」

「あい!」

プス子は荷車を引きながら嬉しそうな声を出す。

タロウは荷車の中でゴロリと寝転んで青空を眺める。

タロウが30分程ぼんやりとしているとおもむろにプス子が声をかけてきた。

「タロ様ー。人の街が見えてきましたよ」

「――お! そうか!」

タロウは荷車の上で立ち上がってプス子の肩越しに前方を見る。

「うん! 全く見えない!」

プス子の視力の事を忘れていたタロウは豆粒ほどにしか見えない要塞都市バルタロに苦笑いを浮かべる。

「ま、慌てずともそのうち俺にも見えるだろ。それよりどうだ。人の数は凄いか?」

「あい! 人がたくさんたくさんいます!」

「どんな都市なんだろうなー」

タロウは高揚感を感じながらまた荷車の中で寝転び、青空を見上げるのだった。


それから更に30分後。
とうとうタロウにも自身の肉眼で要塞都市が見える程の距離に近づいてきた。

「ごちゃごちゃしているなー」

一番にタロウの心に浮かんだ感想はこれだった。
まだ距離はあったが、遠目からでもその煩雑ぶりは見て取れた。

要塞都市の名前通りに大きな城壁に囲まれている都市は立派な作りをしている。
その都市内部へと続く門に大勢の人の流れが行き来していた。

しかし、煩雑さの一番の原因は、その城壁の外側にも「街」が形成されていることだった。

タロウは横を並んで歩いている大きな背袋を背負った商売人風の中年男性に声をかける。

「おいちゃん、要塞都市の外側にある街は何なの?」

「ん? なんだ魔物使いの兄ちゃん、要塞都市バルタロは初めてか」

「ああ、皆と同じく夢を求めて来てみた」 

「おーそうかい。若いってのは無茶ができていいね~。俺も若い時は夢見たもんだが……、じゃなくて、あの外側の街の事だったな。あの城壁の外側にある街は「難民街」だよ」

「難民街?」

「ほら、大陸の中央部に3つ縦に並んで存在した小国達が、ロイレン帝国に占領されて植民地化されただろ。 戦争時や占領中に大量の難民が発生してな。その時の難民が要塞都市に流れ着いて外側に居着いてしまったわけさ」

「なるほど」

「このコロル大荒野は頭部分にあたる北の未開拓地と、胸部分にあたる人間の国家がひしめく大陸部を繋ぐ首部分だ。その首の根元同士の西のロイレン帝国と東のゼノバ皇国は、お互いにここへ干渉できる土地の構造上いつも小競り合いは起こっているようだが、基本的には不干渉地帯にしてあるみたいだな。ま、難民にとっては大陸の中で唯一の逃げ場所みたいな所だよ」

「へー。どうしてロイレン帝国はここを攻め落とさないんですかね」

「そりゃ簡単さ。何にも無いからだよ」

「あー……なるほど。搾取できるものが無いってわけか」

「そういうことさ。この大荒野には人間の奴隷も無く、耕す豊かな土地も無い。いずれはここや北の未開拓地も取るつもりだろうが、ロイレン帝国はまずは東の強国達を滅ぼすのが先だろうな」

「でしょうね。ちなみに難民達は要塞都市の中にも住んでいるんですかね」

「いやいや。要塞都市の内部は魔物殺しや魔物狩り連中の縄張りだから、一般人である難民は中での生活はできないんだよ。なにせ法も秩序も無いからね。命がいくらあっても足りないよ。ま、難民街も似たようなものだけど、強者がひしめく都市内部よりかはマシなんだよ」

「弱い者は強い者の餌ですか」

「簡単に言えばそういうことだな。ま、商売人は重宝されているから、要塞都市でも難民街でも無意味に危害を加えられることは少ないがね。それでも無いわけじゃないから危険と隣り合わせだよ。でも、それでもこの大陸で一番の好景気だからさ。儲けは半端無いんだよ」

「おいちゃんも夢を追ってるんだね」

「へへへ。そういうこった。若い者にはまだまだ負けてられんよ。まだまだ小さい子供が3人もいるからな!」

商売人のおっちゃんは「ニカッ」と白い歯を元気に見せる。

「ありがとうおいちゃん。おかげで良く理解できたよ」

「なんのなんの。それより頑張れよ魔物使いの兄ちゃん!」

「おいちゃんもね」

「それじゃ、俺は先に難民街で安宿を取ってくるからここでお別れだ」

商売人のおいちゃんはそう言うと手を顔の横に上げて軽く1,2回だけ振ると、そのまま難民街の方向へと歩いて行くのだった。

「難民街には安宿があるんだな。要塞都市内で良い所がなければ俺も難民街に行ってみるかな」

「タロ様ー。このまま真っ直ぐでいいー?」

「ああ、このまま都市内部へと続く人の流れに沿って行ってくれ」

「あい!」

城壁の真ん中には口を開けるかのようにぽっかりと大きな門が開いている。

そこに要塞都市へ来た者、要塞都市から出ていく者、それぞれの人々が騒がしく行き交っている。

都市内部へと続く人の流れは既に渋滞気味になっており、プス子は立ち止まったり歩き出したりを繰り返しながら少しずつ歩みを進めている。

その門までの大きな街道には邪魔になるのを避ける為なのか、難民街の建築物はひとつもなかった。

しかし、真ん中の街道を挟むように、左右にはずらっと簡素な木製の小屋がひしめいている。

「(それにしても難民街の規模がでかいな。まー、小国3つ分の難民だからこうなるか)」

タロウは特に見るものがないので荷車の中で座りながらぼんやりと難民街を眺めていると、いつのまにか門の近くまで近づいていたらしく、何やら周りが騒がしい事に気がつく。

その原因は都市内部へと入ろうとする人の行列である左側で、露出度の高い服を来た綺麗な女性達が一列に並び、小脇に抱えてあるカゴに手を突っ込んでは中に入っている色とりどりの花びらを空中に巻きながら何事か叫んでいたのだ。

「――ようこそ要塞都市バルタロへ!! 長旅の疲れを癒すなら娼館「夢の泉」へ!! 私達が誠心誠意を持ってサービスさせて頂きますわ!!」

「――長旅お疲れ様です!! 私達が精一杯おもてなしさせて頂きます!! どうぞお宿は娼館「乙女の安らぎ」へ!! ただいま10%割引実施中でーす!!」

それぞれの娼館の綺麗どころなのか男の欲情を誘う厚化粧が何とも色っぽい。 

彼女達は要塞都市バルタロに辿り着いた旅人達にこれでもかと愛想を振りまきまくっている。

それを眺める男の旅人達は誰も彼も「デヘヘ」と情けなく頬を緩ませていた。

「(……凄いな)」

タロウは娼婦達にも驚いたが、もう一つ気がついたのは要塞都市バルタロへ入るのに検問が無いことだった。

「(……来る者は拒まず。去る者は追わずか。まさに弱肉強食の都市なんだろうな)」

と、真面目なことを考えながらもタロウの目は歓迎の愛想を振りまく娼婦達に釘付けだった。

唇には真っ赤な口紅を引き、豊満なおっぱいには紐のようなブラのみ。
紐パンツのおかげでおしりは丸出し、スラリと長い足には黒ニーソ風の物を履いている。

そんな彼女達はこちらに向かって愛想よく手を振るもんだから胸やおしりが「ぶるんぶるん」と美味しそうに揺れまくっていた。

「(おうぅぅ……。見ているだけで立ちそうだ)」

タロウはそんな娼婦達を眺めながら「ニヘヘ」とバカっぽい顔で鼻の下を伸ばしていた。

しかし、そんなエロい娼婦達の歓迎は序の口だった。

門を通り過ぎて都市内へと入った瞬間、この都市の本当の姿をタロウは目の当たりにする。

門前を突き抜けて都市の中心部にまで至るであろう大きな中央通りが目に飛び込んでくる。

その中央通りの両端にはずらりと立派な娼館が立ち並び、どんな原理かは分からないがタロウの世界でいうところのネオン看板のようなきらびやかな文字列が建物に取り付けられており、様々な色を放ちながら輝いていた。

中央通りは人の波でごった返しており、娼館の前には客引きの妖艶な娼婦達が客を捕まえては豊満な胸を押し付けたり、客の股間を撫でたりしている。

まさに男の欲望を叶える為の都市であった。

「タロ様ー。この道を進むの?」

「お、おう。とりあえず見学がてらに歩いてみようか」

タロウはプス子に荷車を引かせながら娼婦通りを歩いて行く。

どれもこれも4~5階建ての立派な娼館が立ち並んでいる。

店先には美人な娼婦もいれば、ぽっちゃりエロい娼婦もいたり、熟女っぽい娼婦もいる。

もはやこの異世界の全ての娼婦がここに集まっているのではと錯覚させるほどに混沌とエロスが渦巻いていた。

タロウはお上りさんらしくキョロキョロと娼婦を眺めていると、1人の若い娼婦と目があった。

サラサラとした長い金色の髪。

少し厚ぼったい唇に真っ赤な紅を引きタレ目の瞳が何とも欲情をそそる。

胸元は大きくはだけさせ、寄せて上げているのか上乳が盛り上がっている。

その娼婦は目の合ったタロウの元へ即座に駆け寄ってくると、荷車に乗るタロウの首元に抱きついてくる。

「魔物使いのお兄さーん!! 私と一晩楽しまない? どんなプレーデも大丈夫よ」

娼婦から漂う甘い香水の匂いがタロウの鼻腔を刺激して脳を麻痺させる。
娼婦はタロウの手を取ると自分の胸に押し当てた。

「ほら、胸の大きさには自信あるのよ。形だって良いしね。もちろん挟んであげることもできるわ♪」

「ほうほう。さよかさよか」

タロウは「デヘヘ」と笑いながら中年オヤジのようなゲスい受け答えをする。
もちろん娼婦の大きな胸をもみもみしながらである。

「ところで、一晩いくら?」

「銀貨3枚ぽっきりでOKよん!」

「(――たっけーーーーっ!!!!)」

タロウは心の中で金額の高さに絶叫してしまう。

タロウはこの異世界に来てから色々な買い物をしてきたが、この娼婦の値段は明らかに高かった。

たぶんここらの娼館の豪華な作りや、娼婦達の美人揃いから見て高級娼館であることは間違いなかった。

しかし、高額な値段の理由はそれだけではなく、この要塞都市バルタロがバブル最盛期であるというのも関係しているのだろうなとタロウは心の隅で冷静に考えていた。

ただ、問題は値段の高さよりもタロウの所持金が既に銀貨5枚程度しか残っていない事が問題だった。

「(人間童貞を捨てるのも悪くないと思ったが、銀貨3枚とか言いながらあれよあれよと追加料金を取られては目も当てられないからな。ここは不況世代の現代っ子らしく欲を制御するしかないな)」

タロウは娼婦の胸を揉むのを止めると娼婦に笑顔を向ける。

「悪いなお姉さん。これからたんまり稼いだら必ず遊びに来るからさ。その時はサービスを宜しく頼むよ!」

「えー。本当に来てくれる?」

「もちろんさ。こう見えても俺は魔物使いだからな」

「うん。お兄さん魔物を使役しているもんね。なら約束だよ。たくさん稼いだら必ず遊びに来てね♪」

娼婦はタロウの唇に「ぶちゅー」とキスをすると、笑顔で手を振りながら娼館の前へと帰って行った。
タロウの口には真っ赤な口紅がべっとりとついていた。

「(うわー……。人間相手に初チューをしてしまった)」

タロウは一連のやり取りに呆然としていたが、この娼館通りを歩いている男性がこの程度で終われるわけがなかった。

まさに食虫花の如く男性を捕食しようと躍起になる娼婦達。

タロウは行く先々の娼婦達に絡まれてはおっぱいを揉まされ、キスの嵐を受け、あそこは撫で撫でされまくり、娼館通りを通り抜ける頃には髪の毛はぼさぼさ、顔は口紅だらけという状態になっていた。

プス子は荷車を引くのを止めるとタロウに振り返る。

「タロ様は人間の女性にもモテモテだねー。流石です!」

プス子は何だが誇らしげに微笑む。

「いや、あれはただの勧誘だから。モテてはないからね」

「えー。そうなんですか。好きでもないのに唇を重ねるなんて人間は不思議ですね。私はタロ様の事が好きだから口を吸いたいと思うのにね」

プス子はそう言うとタロウの頭を「ガシッ」と両手で鷲掴みにして「むちゅー」と唇に吸い付いてくる。

「――うむむむ!」

突然のことにタロウは驚く。

「えへへー! 私はタロ様の事が大好きだよー」

通りの男達は娼婦選びに夢中で、誰も人間と魔物娘のキスには気がついていなかった。

「こらプス子。街中でキスをしてはメーです」

「あいー」

プス子は少ししょんぼりする。

「心配しなくても宿に泊まれば朝までキスをしてやるから」

「あ、あい!」

プス子の機嫌が直る。

「(それにしてもやっぱり違うもんなんだな)」

プス子のキスは娼婦達の勧誘のキスとは違った。
何とも言えない温かいものが心の中に流れ込んできたようにタロウは感じたのだった。

「やはり好き同士のキスは良いな……。でも、やはりあれだけの娼婦に絡まれると下半身がムズムズして仕方がない。よし、今晩は融け合うような濃厚なキスもしまくるぞ!!」

「きゃー♪」

プス子は「ぎゅっ」と目を閉じて両頬を両手で抑えると、いやんいやんと顔を左右に振りながら照れる。

「でも、その前にここで生活するための拠点となる宿を探さないとな」

「あい!」

プス子は前に向き直るとタロウが中で座っている荷車を引き、要塞都市バルタロ内の探索を始めるのだった。
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