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よあけの部屋

□ 魔物娘たちの御主人様! □

第8話 タロウの戦闘能力

タロウがプス子を購入したり、市場で買い食いしたり、装備を整えたり、安宿でHに励んだりしていたこの町はロイレン帝国の植民地の中にある。

かつて大陸の真ん中の辺りで、串刺しのおだんごのように3つの小国が連なっていたのだが、今や西側のロイレン帝国に滅ぼされて植民地化されている。

その3つの串だんごの一番上、かつてアルバ王国とも呼ばれていた植民地にタロウ達は滞在していたのだった。

大陸の全体地図から言えば頭、首、胸の中で「首の真下」という所だ。

頭部分が魔物がひしめく未開拓地。

首部分が前線基地である要塞都市バルタロがあるコロル大荒野。

そして大陸で一番大きい箇所である胸部分において人間達が今尚、領土争いを行なっている。

ようするに首部分の真下である所にいるタロウ達は、要塞都市バルタロがあるコロル大荒野に隣り合った場所にいるということである。

タロウは荷車の中で寝転んでいる。

荷車には要塞都市バルタロまでに必要な3日分の食料なども積まれている。

もちろん日持ちの良い干し肉などを選んである。

食料店のおばさんの話では、街道の上を歩いていけば迷うことなく要塞都市バルタロに行けるとの事だった。

ちなみに荷車を引いているのは馬では無い。

力自慢のサイクロプスであるプス子である。

「プス子、大丈夫そうか?」

「あい。全然、大丈夫です。普通に歩いているのと変わらないよ」

タロウは馬を扱えないので馬車を買うのは論外だった。

というか要塞都市に着いてしまえば用無しなので勿体無い。

馬車を雇うという方法もあったが、そもそも別に急ぐ旅でもない。

そこで、食料運搬用の荷車を売ってもらい、馬代わりにプス子に引かせているというわけである。

「荷車で尻が痛くならないように綿の敷き布団を買っておいて正解だったな」

タロウはそれともうひとつ買っておいた綿が入った大きな布袋の背もたれにもたれながら、青空をのんびり眺めたりプス子の背中とその先に広がるのどかな田園風景を眺める。

透き通るように青い空には白い雲がゆったりと流れている。

気候も穏やかで暖かい。

タロウは「うとうと」と眠たくなってくる。

「プス子。ちょっと寝てもいいかな?」

「あい。畑の間にあるこの綺麗な道を歩いて行けば大丈夫ですね」

「ああ、大丈夫。でも、少しでも何か分からない事があれば起こせよ。気にする必要はないからな……」

「あい」

そう言ってタロウは瞼を閉じると軽くまどろむ事にする。

荷車の穏やかな揺れに誘われて意識が静かに落ちていく。

意識が完全に落ちたり、少し戻ってきたり、そんな風に気持良くまどろんでいると、プス子が緊張のこもった声でタロウに呼びかける。

「――タロ様!」

タロウは即座に両目を開ける。

「どうしたプス子」

「道の先に魔物使いが立っています」

「立っている? 歩いていないのか?」

「はい、立ち止まってこちらを見ています」

プス子は変わらず歩き続けている。
タロウは立ち上がりプス子の肩越しに道の前方を見る。

「……豆粒ほどにも見えん」

プス子の視力は相当に良いのだとタロウは改めて実感する。

「数は?」

「あい。人間が1人。魔物が2体です」

「魔物の種類は何だ」

「ミノタウロスが1体。オークが1体です。それぞれに軽装備が施されてます」

「……ん? それどこかで見たような……」

タロウがプス子を買った時に、町中で枷を付けたままのプス子を歩かせているタロウを小馬鹿にするように笑った魔物使いがいたことを思い出した。

「たぶんあいつか……。でもまだ見えないから何とも言えないな」

「タロ様。止まりますか?」

「いや、もう少し近づいてくれ。確認してみないと何とも言えないからな。だが、とりあえず円盾は装備しておけ」

「あい」

プス子は立ち止まると左腕に円盾を装備してから、また荷車を引く。
しばらく歩いているとタロウが視認できる程に近づいてきた。

「……やっぱりあいつだな」

魔物使いの男は両脇に魔物2体を立たせて腕組みをしながらこちらを眺めている。

距離は50メートル程度だろうか、顔がそれなりに認識できるほどに近づいたおかげで、魔物使いの男の顔に余裕ぶった嫌な笑みが浮かんでいる事にタロウは気がつく。

「あの顔、腹立つなー」

と呟きながら、タロウは対応を考える。
ここからプス子に弓で撃ち殺させるのも楽だが、問答無用で殺すのもどうかなと悩む。

「でも、どう考えても、あの魔物使いの男は俺達に因縁を吹っかけるつもりだろうな」

「タロ様の敵は私の敵です。弓で撃ち殺す?」

「いや、ちょっと待て。色々とこの世界の風習も知りたいし。念の為に話し合ってみるよ」

「えー。でもタロ様は弱いんでしょ? 私はとても心配です」

「ああ、弱いのは弱いんだけど、個人戦ならそれなりに強いよ……たぶん」

「信じていいの?」

「信じていいよ。プス子を一人だけ残して人間の餌食にするわけにはいかないからな」

「あい」

「とりあえず、弓矢で攻撃の用意をしておけ」

「あい!」

プス子は背中から木製の大弓を取ると、弓矢を弦にセットして道先にいる魔物使い達を睨む。

「俺が右手を上げたらそれが合図だ。その時は奴等全員を射殺せ。いいな」

「あい!」

タロウはプス子をその場に残して、道をとうせんぼしている魔物使いの男の元に歩み寄っていく。

腕組みをしている魔物使いの男が真ん中で左側には斧を持った牛に似た魔物ミノタウロス。
右側には剣を持った豚に似た魔物オーク。

魔物使いの男は「ふん」と鼻で笑うと蔑むようにタロウに声をかける。

「町中で見た時はずいぶんド素人な魔物使いと思ったが、なんだ……急に恥ずかしくなって連れの魔物奴隷を飾り立てたのか?」

プス子の装備に気がついたのか魔物使いの男が嫌味を言う。

「どう思ってもらっても別に結構ですが、どうして俺達の道を塞ぐんですかね。どいてもらえるとありがたいんですが」

「お前みたいな駆け出しを見るとな。ついつい指導してやりたくなるんだよ。世の中の厳しさってやつをな」

「……はあ」

「魔物奴隷を買えば魔物使いになれるなんて甘い奴等が多くてよ。必死に働いて金を貯めて、その金で魔物奴隷を買い魔物使いとして「要塞都市バルタロ」で一旗上げる。そういうバカな夢を見てしまう奴等に現実の厳しさを教えてやるのが俺の趣味なんだ」

「そうですね現実はとても厳しいです。はい、理解したので道を開けて下さい」

「――バカにしてんじゃねーぞ若造がっ!!! 生意気な口をきくんじゃねー!!!」

「お前が黙れ。その現実の厳しさを教えてくれるのは「タダ」じゃないんだろ? 強い奴が弱い奴から金を巻き上げる。それを世の中では「盗賊」って言うんだよ」

「――っ!! 口の減らねー野郎だな!! だが、どれだけ威勢を張ろうがお前がド素人だというのは俺のような熟練の魔物使いには一発で分かるんだよ!! さあ、最後通告だ!! 有り金とあの魔物奴隷を置いていけ!!」

魔物使いの男の言葉は真実だった。

タロウは魔物使いとしても、戦闘経験においてもド素人だった。

だが、ド素人だからといって「弱い」わけではないのだ。
タロウはチート能力所持者である。

だが、いくら潜在的な実力があっても肝心の経験が無い以上は、こうやって経験を手に入れる為に前に出ねばならない。
その為にタロウはわざと危険な渦中に足を踏み込んでいるのだ。

「他人の魔物奴隷を手に入れてどうすんだよ」

「他の魔物使いの調教が染み付いた魔物奴隷は使い難いからな。魔物奴隷商に売って金に換えるのさ! ま、調教済みということで値段は下げられちまうがな!」

「なるほど」

「さあ、分かったなら素直に従え!!」

「こちらもこれが最後通告だ。諦めて道を開けろ。でなければ死ぬぞ」

「――チッ!!! 何発がぶん殴って、泣いて命乞いをするようなら金と魔物奴隷で許してやるつもりだったが、そんなに現実の厳しさを知りたいのなら実体験させてやるぜ!!! 死んで後悔するんだな!!!」

魔物使いの男は腰に下げた剣を抜いてミノタウロスに命令する。

「――行け!! ミノタウロス!!」

その合図を受けてミノタウロスが斧を振り上げる。
タロウの頭から一刀両断にするつもりらしい。
巨体のミノタウロスが腕を振り上げる様は圧倒的な迫力だった。

「(戦闘経験を積むためにもこれは避けては通れない道だ。むしろこいつらを利用して存分に経験を積ませてもらおう!!)」

タロウは大きく息を吸い込むとチート能力を発動させる。

「――緩慢なる世界(スローモーション)!!!」

タロウは吸い込んだ息を「ゆっくり」と吐き出す。

するとミノタウロスの動きがコマ送りのように遅くなった。

タロウがサラリーマン風の男に提案されたチート能力「攻撃セット」の中で、攻守共に使えると勧められた内のひとつがこの「緩慢なる世界(スローモーション)」だった。

これはタロウが「息を吐いている間」だけ、タロウを除くこの異世界の時間の流れが約10分の1程度になるというチート能力だった。

タロウはゆったりとした攻撃を、というよりも、むしろイライラするほどに遅い攻撃をさっさと横に避けておいて、どう考えても軌道修正不可の位置に斧がきたのを見計らい息をゆっくりと吐くのをやめて能力を解除する。

タロウの眼前で勢いを取り戻した斧が音を立てて土に突き刺さる。

「――な、なんだ今のは!?」

魔物使いの男が驚きの声を上げる。

それもそうだろう。

時間が緩慢な世界の中でタロウだけは普通に動いていたのである。

他人から見ればとんでもない速さで動いているように見えたに違いない。

タロウはまた大きく息を吸い込むと今度は飲み込むように喉を引き締める。

「――躍動無き世界(ストップモーション)!!!」

タロウが息を止めると周りの誰も動かなくなった。

ゆったりと流れていた青空の雲さえも止まっている。

タロウがサラリーマン風の男に提案されたチート能力「攻撃セット」の最後がこの「躍動無き世界(ストップモーション)」だった。

タロウが「息を止めている間」だけ、タロウを除くこの異世界の時間が停止するというチート能力だった。

「(まったくもってふざけたチート能力だ)」

タロウが心の中で呟いた通り、サラリーマン風の男が提案してくれたチート能力「攻撃セット」はとんでもなくふざけた代物だった。

色々なマンガ、小説、ゲームで用いられてきた最強の部類に属する「時間操作能力」である。

「緩慢なる世界(スローモーション)」は息を吐く間だけ、「躍動無き世界(ストップモーション)」は息を止めている間だけ、その他のデメリットは一切無しという無茶苦茶な仕様である。

大魔法で大軍を焼き払うような大それた事は不可能だが、こうやって個人戦においては攻守共にとても優れている。

というよりほぼ「無敵」に近い。

だが、あくまでも「近い」というだけで「無敵」では無い。
そもそもこの能力は欠点だらけなのである。

その欠点の中のひとつで大きいのが、タロウが「必殺攻撃」を持っていないという点である。
基本は人間としての通常攻撃しかないのである。
もしゴーレムなどの強固な外殻を持った魔物と敵対した場合には手も足も出ない可能性が大なのだ。

この欠点に関しては、後々に何か強力な武器を手に入れて補うことをタロウは狙っている。

タロウ自身、色々なマンガや小説などで時間操作能力のキャラを見ているので上記以外にもいくつか弱点を認識している。
それらの欠点を補う努力をしつつ、もしかしたら補えない可能性も大だが、それでも尚、使えると判断したのだった。

タロウは石のように固まるミノタウロスを通り抜け、同じく固まっている魔物使いの男の背後に回る。
そしてゆっくりと短剣を抜く。

「(発動条件が楽なことと、何のデメリットもないことから能力の練習は今まで重ねてきた)」

タロウはこの異世界に来た瞬間から、実はこっそりとこの時間操作の能力を練習していた。

市場の人の流れを緩慢にしたり止めてみたり、水を床にこぼすのを緩慢にしてみたりもした。

更にはプス子とHをしている時にはおっぱいがゆったり揺れる様を見たり、超速で腰を動かすのに利用したりして、Hな事に応用できることも実践済みだった。

「(残るは、実際に戦闘で試してみたかったんだよな)」

タロウは呼吸停止を解除して時間を動かす。

「――えっ!? あ、あいつはどこに行った!?」

ミノタウロスの前にいたはずのタロウがいなくなりキョロキョロと辺りを見渡す魔物使いの男。
タロウはそんな男の背後で佇んでいる。

「(当たり前だが、このチート能力は戦闘でもちゃんと使えるな)」

タロウは短剣を魔物使いの男の腰に突きつけながら声を出す。

「……動くな」

「――ひぃ!?」

魔物使いの男は情けない声を出す。

「い、いつの間に後ろにっ!!!」

「実力の差が分かったならこれで引け、命まで取ろうとは思っていない」

「――く!!!」

「さあ、どうした! 引き上げると言え!!」

「――な、舐めるなよ若造がっ!!!」

男は「口笛」を不揃いな長短で吹く。
次の瞬間、ミノタウロスとオークがプス子に向かって突撃を始める。
どうやら口笛は突撃の合図のようだった。

「――お前っ!?」

「――ぎゃははは!!! どうした!!! 早く俺を殺せよ!!! だが、俺はタダでは死なんぞ!!! お前の魔物使いとしての夢を奪ってやる!!! また1から出直すんだな!!! ぎゃははははは!!!」

「――チッ」

タロウは苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちを一回だけすると、魔物使いの男から一定の距離だけ離れる。

「えっへへへへー。なんだよ、そんなにあの魔物奴隷が大事だったか!! そりゃそうだよなぁー。毎日毎日、汗水流して稼いだ金で買った魔物奴隷と装備だもんなー!! ほら、謝れよ!! 泣いて謝れば突撃を止めてやるぜぇぇぇ!!!」

魔物使いの男は自分が有利になったと勘違いして、気色の悪い甲高い声で叫びながら喜んでいる。

タロウはそんな魔物使いの男を無表情で見つめながら、静かに右手を上げた。

その瞬間、プス子に突撃していたミノタウロスがその場に崩れ落ちる。

一呼吸も無い間に、次はオークが膝から崩れ落ちる。

「――え!?」

その光景に驚く魔物使いの男。

タロウは魔物使いの横顔を見ながらため息をつく。

次の瞬間、プス子が撃ち放った必中の矢が男の額を貫き後頭部から突き抜けていった。

「――かかっ……ぺ?」

言葉にならない声を発しながら魔物使いの男は、糸が切れた操り人形の様にその場に崩れ落ちて絶命した。
プス子の弓は命中率も凄まじいが、その連射性も凄かった。

「的と矢の軌道を計算する能力もズバ抜けて高いみたいだな」

タロウはプス子の表情をきちんと見れるほどの視力はなかったが、プス子はタロウの事が良く見えているはずなので、タロウはプス子に向かって「良くやった」という気持ちを込めて微笑みかける。

それを見たプス子は両腕を振って喜びを表すのだった。

タロウは後味が悪いとはいえ、一段落した事に「ふう」と息を吐き捨てるとプス子の元に歩いて戻る。
その途中で、倒れたミノタウロスとオークをちらりと見た。

「両方共、眉間を一撃か」

走り寄る動体の獲物の急所を一撃で仕留めるプス子の能力に、タロウは改めて感心する。

「……大したもんだ」

タロウはプス子の元に戻ると大いに褒めた。

「良くやったプス子! 見事な弓さばきだったぞ!!」

「あい! 弓は大得意なのです!! でも、タロ様も凄かったのです!! 私の目でも捕らえきれない速さでミノタウロスの斧を避けたと思ったら、一瞬で魔物使いの後ろに移動してました!! 私の目でも全く分かりませんでしたよ!!」

「ああ、あれはちょっと足が速いだけさ」

「ほあー! さすがタロ様!!」

プス子はタロウの話を信じで感嘆している。

タロウはこの時間操作のチート能力を説明する気はなかった。

それは相手がプス子だからという理由ではない。

そもそも、タロウはこのチート能力を選択する時に、能力の事を「死ぬまで誰にも言わない」ことを心に決めていたからだった。
この時間操作のチート能力は「対策」されるのが一番やっかいなのだ。

世間には「動きが早い」程度に認識させておくのが得策だとタロウは考えていた。

「(今後は「躍動無き世界(ストップモーション)」を用いての瞬間移動は自粛した方が良さそうだな……。見た目があまりに異様すぎる。使うにしても、もう少しカムフラージュする方法を考えないと)」

タロウは能力の課題を思いながらも、気持ちを切り替える。

「ま、俺なんかよりもプス子のほうが大したもんだ! 褒めてやるからしゃがめプス子」

「あい!」

プス子がタロウの前で膝を折るとタロウとプス子の顔の高さが同じぐらいになった。
タロウはプス子の頭に両手を伸ばすと髪の毛をくしゃくしゃにしながら撫で撫でしまくる。

「偉い偉い!」

「むふー」

頭を撫でられる気持ち良さに加えタロウの「波動愛撫(バイブ)」の微弱な効果もあり、プス子は頬を赤らめながら幸せそうに微笑む。

「そんじゃま、旅を続けようか」

「あい!」

タロウとプス子は魔物使いの男と魔物奴隷2体の死体を道横の田畑に放り込んで、治安維持の第七教導騎士に見つかりにくくする。
その際、タロウは端金如きでトラブルに巻き込まれるのを嫌い魔物使い達の物には手をつけなかった。

「じゃ、行くか」

タロウはプス子が引く荷車に乗り込むと要塞都市バルタロに向けて旅を続けるのだった。
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